次にやること
「おいっ……」
「なんですか?」
「また教会から来てるぞ。しかも、お前をご指名だ」
割と高額な依頼料となった個人指名依頼をこなしたイースラはのんびりとしていた。
依頼をやったから他のやらなきゃいけない仕事が全部なくなるわけじゃないけれど、今回はお金的にもギルドに貢献したので休みが与えられていた。
福利厚生も悪くないのだ。
そうしていたらイースラはゲウィルに呼び出された。
ゲウィルのところに行ってみると、ゲウィルはデスクに叩きつけるようにして一枚の紙を置いた。
「何をした?」
「何も……」
「嘘をつくな! 依頼主は教皇エリンデアだぞ!」
ゲウィルが置いた紙にはイースラを指名した依頼の内容が書いてあった。
内容はともかく、依頼を出した人が問題なのだった。
つい先日イースラが引き受けた依頼は教会、しかもカルネイルにある教会支部が出したものだった。
依頼主が教会なのである。
しかし今回の依頼は教会と並列にエリンデアの名前も書いてある。
つまり教皇からイースラが直接指名されたというわけであった。
「普通ならこんなことはない。教皇から指名を受けるなんて喜ばしいぐらいかもしれない」
教皇の座は伊達じゃない。
言ってしまえば国王なんかから指名があるような、非常に光栄なことなのだ。
教皇から指名を受けるような冒険者がいるということは、冒険者としての格が高まるし、所属するギルドとしても誇れるようなことである。
個人を指名するものなので、本来なら引き受けるかどうかは本人に任される。
けれども指名してきた相手によってはほとんど断ることができないものもあって、教皇からとなれば断れない依頼と言ってもいい。
ただ普通は権力を振りかざすようなことになるので、教皇の名前を使って依頼なんて来ない。
「呼ばれた時に何をした?」
基本的に断れない依頼だし、失敗もできない依頼でもある。
イースラの攻略配信を見ていて、胃に穴が空きそうなほどに心配していたゲウィルはイースラがまた厄介なものを呼び込んだのだとすぐに気づいた。
「んー、まあ、ちょっと売り込んだんですよ」
イースラは曖昧に笑顔を浮かべる。
「依頼の内容は大神殿地下のダンジョンのボスから出た宝玉の加工職人探し……俺が教皇なら、お前には頼まない」
依頼の内容もちょっと特殊なものだった。
たとえ教皇がイースラのことを相当気に入ったとしても、イースラに依頼を出すのには内容的におかしい。
「教皇様は不思議な人でしたからね」
イースラは肩をすくめてみせる。
「うそつけ! 会ったことはないが、かなり頭のいい人だと聞いているぞ。あの年、女性で教皇になるんだ……相当強かなはずだぞ」
神から賜る神聖力があって、見た目が良くて、人気があるだけじゃ教皇になんてなれない。
教皇になれるならなりたい人は教会の中に掃いて捨てるほどいる。
力で解決するようなギルドよりももっとドロドロした世界を、エリンデアはのしあがってきたのである。
「そんな人が依頼出してくるなら、俺に相応しいものなんじゃないですか?」
経験豊富で顔の広い人に職人探しを頼むならともかく、まだ若造にそんなものは頼まない。
だけどもエリンデアは、ゲウィルが自分で言ったように頭の良い人である。
頼むような理由が何かあると、ゲウィルは自ら言ったようなもの。
「うぅむ……ここまででお前について分かったのは、普通の人なら諦めてしまうような困難でも乗り越えてきているということだ。未来の全てを知っているかのようだ」
「全て……は知りませんよ」
「ものの例えだ。……自信があるのだな? この依頼、やれるという確証があるんだろう?」
「確証まではありませんけど……俺ならやれるっていう自信があります」
イースラはまっすぐにゲウィルの目を見つめる。
数日休んだので、休息もたっぷり。
気力にも満ちているし、やる気も十分。
教皇からの依頼だってこなしてみせる自信があった。
「…………ふぅ」
ゲウィルは深いため息を吐き出した。
「やるならやってみろ。ただしどうするつもりなのか俺にちゃんと言え。また勝手にボスに挑んだりするならせめて教えてもらわないと俺の方が持たない」
「分かりました。無茶する時はちゃんと言いますよ」
そして、なんだかんだと任せてくれる。
これが上に立つ人の度量というものなのかもしれない。
「ひとまずお前はこれを優先しろ。失敗は許さないからな」
ゲウィルは睨むようにイースラのことを見るけれど、圧はないから怖くない。
「任せてください。教皇様もゲウィルさんもがっかりさせませよ」
イースラは依頼の紙を手に取って、軽く笑顔を浮かべる。
次にやるべきことも決まった。
「計画練るところからだな」




