おかえり
「どぉーだ! 似合ってるか?」
「ああ、似合ってるよ」
「もう何回目なのよ……」
馬車の中でクラインがニマニマとした気持ちの悪い笑顔を浮かべている。
教会の方から剣をもらえるという話だったのだけど、クラインがもらったのは別のものだった。
「いーだろぅ?」
「はいはい、羨ましい、羨ましい」
クラインがもらったのは胸当て。
お腹から上の胸全体を覆う革の胸当てであるが、実はただの胸当てではない。
クラインがもらった胸当ては魔道具であった。
魔法的な力を秘めたアイテムのことをアーティファクトや魔道具と呼び、結構貴重な品である。
胸当ては胸しか守ってくれない。
その上、革のものは軽くて邪魔になりにくいが、防御力としては金属のものに大きく劣る。
ただクラインの胸当ては全身を魔力で保護してくれるという効果があった。
軽微なダメージなら無効化してしまうし、斬撃なんかも威力を弱めてくれる。
完璧に防いでくれるものではないが、戦いにおける生存率を大幅に上げてくれる効果がある。
邪魔になりにくい胸当てであるし、着けていても不審に思われない。
かなり良いものをもらった。
なのでクラインは嬉しくてしょうがないようであった。
時々思い出したように自慢するのだからサシャももう呆れている。
「着きました」
「おっともう到着か」
イースラたちは教会が用意してくれた馬車でゲウィル傭兵団まで帰ってきた。
依頼を受けて、ゲウィル傭兵団を出発してから長いこと経ったような気もしてしまう。
「ありがとうございました」
「教会の友人のためですからね。こちらこそありがとうございました」
護衛から野営の準備まで全てをこなしてくれた聖騎士たちに頭を下げて別れる。
「ええと……俺は依頼の報告して……」
「イィィィィスラァァァァ!」
「えっ? うわっ!?」
自分のベッドでゆっくりと休みたいところだけど、そうもいかない。
今回の教会でのことはイースラを指名した依頼だった。
なので事後の処理もイースラが行わなきゃいけないのである。
休むより先に報告だなと頭の整理していたら、大声を上げてゲウィルが飛び出してきた。
鬼のような顔をしていて、流石のイースラも心臓が跳ね上がる。
「お前は! また! 危険なことを! しおってに!」
「で、おわっ! ゲ、ゲウィルさん!?」
ゲウィルは怖い顔をしたままイースラの肩を掴む。
激しく前後に揺すられて、イースラは何が何だかわからない。
「戦いにおいて多少の無理はつきものだ! だが毎回毎回お前は、俺の寿命を縮めたいのか!」
「ひっ……ちょ……今は俺の寿命が縮む……」
揺すられすぎていい加減気持ち悪くなってきた。
「団長、このままでは死んでしまいますよ」
「ええい! こんなに心労かける存在だと知っていたらこうなる前にどうにかしていたものを!」
遅れて出てきたサルドゥーラがゲウィルを止めてくれる。
「ぐぇ……うぇ……」
揺するのは止まったけれど、まだ視界が揺れている。
どうやらゲウィルはイースラたちが無茶なことをして怒っているようだ。
配信することはゲウィル傭兵団も知っている。
どんな感じで攻略しているのか見ている可能性があることはイースラも分かっていたけれど、実はゲウィルも配信を見ていた。
仕事をサボってまで見ていたので怒られたりしたのだけど、イースラの攻略を配信を途中で切り上げられた人などいなかった。
子供たちだけの少人数攻略から始まり、背神者の炙り出しと戦闘、そして罠の発動からボス戦まで目を離しているような暇もなかった。
もちろんゲウィルも、イースラたちがボスに挑むことになったのは不可抗力だと分かっている。
しかしそれでもイースラたちがボスに挑むなんて、心臓に悪かったのは否めない。
「お前には心配ばかりかけさせられるな」
ゲウィルは渋い顔をしている。
ちゃんと配信するので、どんなことをしているのか中身は分かるのだけど、分かったところで安心できる行動をしているわけでもない。
「まっ、無事帰ってきたんだから良いじゃないですか」
「何もよくはない!」
「いだいいだいいだい!」
ゲウィルはイースラの頭を鷲掴みにして握り潰さんと力を込める。
ミシミシと頭が鳴って、イースラは暴れる。
「ハァ……まあ、確かに全て丸く収まったからな。ただ教会に行ったり、勝手もすぎるぞ!」
「教皇様に呼ばれたんで、断れなくて……」
「嘘を言うな! お前のことだ、断る気などなかったのだろう」
イースラの考えはゲウィルにバレていた。
「ただ教会からはお前のことを大絶賛する言葉をもらっている。報酬も事前に話し合っていたものの、倍額を置いていった」
「えっ、そうなんですか……?」
報酬を倍にしてくれたのは、イースラも聞いていなかった。
「ご苦労だったな。よく無事に帰ってきた」
ゲウィルは手の力を緩め、イースラの頭をワシャワシャと撫でる。
「ええ、ただいま無事帰還しました」
「ふん、おかえり。依頼に成功してことは分かっている。細かい報告は後回しにして休むといい」
「ありがとうございます」
実力を認めてくれつつも、こうして子供だからと心配してくれる人がいる。
それはそれでいいものだ。
「ふぅ……」
襲われる心配もなく、誰かが寝顔を見るわけでもない。
イースラは自分の部屋に戻って目を閉じた。
すると瞬く間に眠りに落ちてしまったのであった。




