数奇なる運命3
「不思議でも何でもないですよ。今俺はいろんなものも持ってます。背中を預けられる仲間、帰りを待ってくれている家、俺たちを厳しく鍛えてくれる師匠、良い武器もありますし、環境も恵まれてる」
イースラの口調はとても穏やかで、本当に子供なのかとエリンデアは疑いたくなるほどだった。
「俺の手は神様ほど大きくない。いっぱいいっぱいなんです。無理に何かを望んでも、手からこぼれてしまう。でもいつか……無理にでも手を伸ばす時が来る。そんな時に助けてほしいんです」
焦りはある。
しかしイースラがいくら焦っても手に持てるものの量は変わらない。
今手を伸ばして掴んでも、きっと掴みきれずに落ちてしまう。
教会の力は大きく、そのうちに必要となるだろう。
今はまだただ恩を売っておく。
「分かりました。あなたが何が悪に手を染めない限り……我々はあなたに手を貸しましょう。二回……ボスの討伐と背神者を見つけ出した件で二回までは全力を尽くします」
「……ありがとうございます」
一回でもありがたいのに、二回も力を貸してくれるというのなら破格だ。
「あなたたちは何を望みますか?」
「えっ!? 私たちも?」
「あー? それ考えてなかったな」
「もちろん、あなたたちにも感謝をしていますからね」
エリンデアはサシャとクラインのことを見る。
二人は予想外のことに驚いてしまう。
「え、ええと……」
「どうしたらいいんだ?」
自分たちも何かもらえるだなんて思わず、何も考えていなかった。
サシャもクラインも困惑してイースラのことを見てしまう。
こういう時にパッと対処できないのはまだ子供だなと、イースラは少し笑ってしまう。
「サシャはそうだな……中ボスから得られたあの剣、もらってもいいですか?」
教会相手に何を要求したらいいか、二人も困るだろう。
イースラも二人に何がいいかを考える。
達人は武器に依らず実力を発揮できるなんていうが、達人だからこそ武器にもこだわる。
サシャはまだ達人ではない。
良い武器があればそれだけ身を助けることもあるだろう。
白い剣と白い槍をボスの子供らしき中ボスがドロップした。
ボスとの戦いでは勝手に使ったものの、攻略主体は教会であり、こうしたゲットした物の所有権も教会にある。
アルドッグのようなエゴソードではないが、ボスが落とした物というのは普通の物より品質がいい。
これから魔法をメインにするとしても、良い剣を持っておくのは大事である。
「ええ、それぐらいなら持っていってください。剣も素敵な主人が見つかって嬉しいことでしょう」
「俺は?」
クラインが手を挙げてイースラを見つめる。
「……うーん、お前はどうするかな?」
「サシャだけ!? 俺もなんか欲しいよ!」
「でしたら先日、別のダンジョンから剣を入手したのですが、そちらはいかがですか?」
「ほんとっすか!? 剣、欲しいです!」
良い剣は男子の憧れでもある。
「良いんですか?」
「もちろんです。これで喜んでいただけるなら……」
「大丈夫ですか?」
エリンデアが突如としてふらつく。
近くにあったデスクに手をついたエリンデアは頭を押さえて険しい顔をする。
「教皇様、ご体調が優れないのですか?」
「いえ、これはむしろ……」
エリンデアが目を閉じる。
「むっ、これは……」
エリンデアの体から白いものが溢れ出す。
それを見てバナーバーが驚いた顔をする。
「わっ、何あれ?」
「オーラ? ……なんかちょっと違うな」
エリンデアの体から溢れるそれはオーラのようにも見えるが、オーラのような周りを圧倒するような感じはない。
むしろどこか優しくて、穏やかな気分になる。
「降臨なさいました」
「こうりん……?」
「何が起きてんだ?」
バナーバーの顔が固くなる。
「おお、我らが神よ。かように姿をお見せになられたのには何か深いわけがあるのでしょうか?」
バナーバーが膝をつき、エリンデアに向かって頭を下げる。
サシャとクラインは何が起きているのか分からなくて困惑してしまう。
エリンデアが目を開く。
深いブルーの瞳をしていたはずなのに、色を失ってほとんど白目と同じく瞳が白くなっている。
明らかに雰囲気が変わった。
「イシュタハン様、ご啓示を」
「イシュタハン……って」
「神様の名前だよな?」
「初めまして、数奇なる運命の勇士よ」
エリンデアはイースラのことを見つめていた。
「数奇なる運命……俺のことですか?」
「その通りです。あなたの運命は先が見えない。複雑に絡み合い、どのような選択でも出来て、その先に数多の運命が広がっている。そして他の人の運命もあなたの選択にかかっている」
「一つ教えてくれ」
「何ですか?」
「俺は……正しく歩めているか?」
未来は誰にも分からない。
それは神にもである。
「……あなたが正しいと思って歩んだ道が正しい道なのです。これまでも、これからも。だから正しいと信じる道を行きなさい。それがあなたの正しい道となっていくでしょう」
「…………そう、ですか」
「大切な我が子たちに、全てを押し付けてしまって申し訳ありません。私たちは手を出せない。ほんの少し……手助けができるだけ」
「なら俺たちの配信見てくださいよ」
イースラがニヤリと笑うと、エリンデアはほんの少し驚いたように目を見開いた。
「……不思議な運命の持ち主。あなたに期待していますよ。是非とも、あなたの配信も注目させていただきます」
エリンデアの体から出る白いものが収まっていく。
「…………何が起きてんの?」
「降臨……神が教皇様のお体を借りてこの場に現れなさったのです」
エリンデアが目を閉じて、再び開いた時には綺麗なブルーの瞳に戻っていた。
「………………こんなこと久々ですね」
「俺も神様と話したのは初めてです」
とても奇妙な時間だったとサシャは感じた。
エリンデアに神様が宿ったことも、イースラが普通に対応していたことも全部理解するには突拍子もなさすぎる。
その後もイースラたちは教会から最重要な貴賓扱いを受けることになる。
クラインは剣を受け取り、聖騎士たちが厳重に護衛する馬車に乗って家であるゲウィル傭兵団まで凱旋したのであった。




