数奇なる運命2
「なぁ」
「ああ?」
「こんなところまで来ちゃってよかったのか?」
イースラたちはイシュタハンの神殿にいた。
身を清め、用意されていた綺麗な服に身を包み、豪華な部屋で待たされている。
仕事が終われば本来はまっすぐ帰るはずなのに、今回は寄り道どころではないところまで来てしまっていた。
怒られるのではないか、とクラインはちょっと不安そう。
「大丈夫だって。教皇様のお誘いを断れるわけないだろ?」
もちろんここまで来たのはイースラがワガママを言ったり、勝手についてきたりしたわけではない。
呼ばれたからここにいるのだ。
攻略に貢献の度合いも大きく、教皇から挨拶がしたいとイースラたちは言われた。
当然ながら教皇というのは偉い立場の人である。
挨拶したいなら来いとイースラたちが言えるはずもない。
つまり挨拶したいと向こうが言おうとも、イースラたちが会いに行かねばならないということなのである。
ディルキンたちはイシュタハンの神殿に戻るし、一緒に行くなら全部教会持ちで行くことができる。
なのでイースラは教皇に挨拶するためにここに来ていた。
勝手なことしていると小言ぐらいはあるかもしれない。
しかし教皇直々に誘われたので、といえばゲウィルも文句は言えないだろう。
「失礼します。お待たせしていて申し訳ありません。教皇様の準備ができました」
イースラたちを呼びに来たのはバナーバー。
一緒にいたために忘れがちだが、バナーバーも枢機卿という教会の中でもトップに近い立場の人である。
そんな人が呼びにくるというのは意外と贅沢なことだったりする。
イースラたちはバナーバーについて神殿の中を移動する。
誇り一つなくピカピカにされた神殿の中は、歩いているだけでも厳かな気分になる。
「こちらに」
白い鎧を身につけた聖騎士が守る部屋に、イースラたちは案内された。
正面には大きなデスクがあり、そこに一人の女性が座っていた。
「うわっ……綺麗な人……」
ふわりとした金髪に、やや垂れ目の女性はいかにも包容力がありそう。
その人が教皇のエリンデアであることをイースラは知っていた。
そしてエリンデアの顔を見て、クラインが顔を赤くしている。
イースラ以上に周りの女性に興味を示してこなかったクラインが、珍しく反応を示したことにイースラの方がちょっと驚く。
「ふふ、初めまして。私が教皇のエリンデア・リグルフェンダー・ノシュタヘンと申します」
エリンデアが微笑みかけるとクラインはさらに顔を赤くする。
サシャはクラインの反応を見て、イースラはどうなのかと不安になったが、イースラは平然としている。
属性でいうならエリンデアはお姉さんタイプだ。
あまりこうした感じの人は周りにおらず、クラインの趣味に合致する人がこんな人だったのかと新発見である。
イースラの方はお姉さんタイプが趣味というわけではない。
エリンデアは綺麗な人だけど、実は回帰前の記憶からどんな人なのかもある程度は分かっていた。
「今回あなたたちが大神殿地下にあるダンジョンを攻略してくれたと聞きました。さらには背神者を炙り出し、起こるべき悲劇を未然に防いでくれたこともまた、感謝の念に堪えません」
エリンデアは恭しく一礼する。
いい加減ボケっとエリンデアの顔を見るのはやめてほしいな、とイースラはクラインに対して思っていた。
「大きな苦労をかけてしまいましたね。全ては私たちの不徳の致すところ……ゲウィル傭兵団にもあとで正式に謝罪と感謝をしておきます」
「いえ、結果的に無事だったのですから……これらも全て神のお導きです」
イースラはニッコリと笑って対応する。
全部事前の準備と実力の賜物であって、神様なんか関係ないと思っていてもここでは口に出さない。
「なかなか出来た子ですね」
本心はどうあれ、正しい答え方をしたイースラにエリンデアは少しだけ驚いた顔をした。
「ですが神の導きだけでは腹も膨れません。感謝は形にしてこそでしょう」
エリンデアはやや俗物的なところがある。
回帰前には腹黒教皇とまで呼ばれていた人で、神に祈るだけの聖職者とは少し毛色が違う。
教会を守り、破滅に抗うために策略を巡らせたり人を裏切るように誘導したりと食えない人であった。
今のところただ綺麗なお姉さんであるが、言葉からするに腹黒さはもうすでにありそうだ。
「何か欲しいものはありますか? 私たちにできることなら叶えて差し上げましょう」
「……いつか、俺が教会に力を貸したように、教会も俺に力を貸してくれませんか?」
「…………難しいことを言いますね」
形のあるものではなく、さらに今すぐでもなく、そのうち力を貸してくれとイースラは要求した。
教会の力は大きい。
何をするのかも分からないのに、容易く力を貸すともエリンデアは答えられない。
「力を貸してくれるかどうかは、その時に判断してくれても構いません。ただすぐに門前払いはせずに、話ぐらいは聞いてください」
「……不思議なことを願いますね」
子供の要求など高が知れているだろうとエリンデアは思っていた。
しかしイースラの要求ははるか未来を見た、大局を考えているような雰囲気のあるものだった。
イースラが何を考えているのか、エリンデアは図りかねている。




