魔に抗い、屈服させる5
「チッ……相手も本気らしいな」
遠くに見える町並みから火の手が上がっている。
簡単には町中にも踏み込めないように備えていたはずなのにとイースラは苦い顔をする。
イースラたちは足を速めて、町中に突入する。
「くそっ……手当たり次第に殺してるようだな」
ターワンは顔をしかめる。
報告を受けてすぐに飛んできたというのに町中はひどい有様だった。
家々が焼けているだけじゃなく、死体にまで火がついて頭が痛くなるような臭いが充満している。
血の臭いもひどく、そこらに死体が積み重なっている。
「いたぞ!」
「助けて!」
子供を追いかける魔物の姿を見つけた。
一見するとリザードマンのように見える魔物だが、そいつらは自分のことを竜人族と名乗った。
確かに言われてよく見ると顔つきもややシュッとしてトカゲよりドラゴンのような顔をしているかもしれない。
だが、そんな崇高な名前を名乗ったところで、人を殺す魔物なことに変わりはない。
イースラは足に魔力を集めると、一気に加速する。
「このトカゲ野郎が!」
「ゲヒュッ!」
わざと子供に追い付かないように速度を落として追いかけ回すクズみたいな竜人族の首を一太刀で切り落とす。
「トカゲどもを倒すぞ!」
イースラたちは分散して竜人族を倒し始めた。
町の惨状に怒りが込み上げ、ひたすらに目の前の竜人族を切り捨てていく。
「イースラ! 急ぎすぎよ!」
「こうしている間にも人が死んでるんだ!」
「せめて治療の時間ぐらいちょうだい!」
イースラは一人ではなく、ユリアナが一緒だった。
しかしイースラが突っ込み、敵を倒していくだけでユリアナはただついていくだけのような形になっている。
「……少しでいいから」
「…………分かった」
気づいたらイースラはボロボロになっていた。
相手も弱くはない。
無理に戦うので反撃で傷だらけだった。
「あなたが怪我をすると悲しい顔をする子がここにいるって……忘れないでね」
「……すまない」
ユリアナがイースラの体に手をかざす。
温かい魔力がイースラに流れ込んできて傷が治っていく。
立ち止まると頭も冷静になってきた。
少し無理をしすぎていたと反省する。
「敵もだいぶ減ってきたな」
イースラは目を閉じて、町中の魔力を感じ取る。
最初はどこに何がいるのか分からないぐらいだったけれど、今は残っている竜人族もはっきりわかるぐらいになっている。
「奴らのボスを倒しに行こう」
「大丈夫なの?」
リーダーを倒せば竜人族も統制を失う。
何回か衝突を繰り返してきたこの戦いもここで終わりにしてやると、イースラはユリアナの目を見て頷く。
「向こうだ、行こう」
イースラはより強い力を感じる方に走り出す。
「この因縁、今日こそ終わらせて……あれ?」
走っていると景色が歪む。
耳鳴りもして、視界がグニャリと大きく歪んで、だんだんと何が何だか分からなくなってくる。
「ユリアナ! ……くそっ、どうなってるんだ!」
すぐ後ろを走っていたはずのユリアナもいない。
景色の歪みが大きくなって、目を擦ったりしても治らない。
敵の攻撃か、と警戒していると少しずつ歪みが治っていく。
「……これは……?」
景色の歪みが治った。
すると周りの様子が一変していた。
町中にいたはずなのに、荒れ果てた茶けた大地が広がる場所にイースラは一人立っていた。
ユリアナはいない。
死体も町もなく、先ほどまで感じでいたひどい臭いもない。
ただ埃っぽく、生命を全く感じない荒野。
「世界が終わる前……」
突然イースラは今どこにいるのか、パッと理解した。
これは世界が滅ぶほんの少し前の景色。
魔物との戦いによって世界は完全に荒れ果ててしまった。
「なんで……どうして……」
こんな荒れ果てた場所のことが突然分かった自分も理解できないし、先ほどまで竜人族と戦っていたはずなのに急に滅亡前に飛んできたことも理解できない。
さらに気づくと左腕もない。
「……お前は…………」
振り向くと、そこには魔物がいた。
六対十二の黒い翼に、仮面を貼りつけたかのような顔。
姿は人にも似ているが、細く伸びた手足の表面は鉄のような艶やかさを持っている。
誰が言ったか、黒い天使。
馬鹿馬鹿しい。
あんなもののどこが天使なのかとイースラは思うが、見た目だけならそれっぽいのかもしれない。
人類最大の敵にして、人類最後の敵。
イースラは思わず胸を撫でる。
剣で貫かれた時の思い出していた。
「おー……そんなにたくさん、いいのか?」
黒い天使は一体だけじゃない。
まるで天から降りてくるようにイースラの周りに次々と現れ始めた。
「どれだけ倒したって世界中の恨みは晴れない。ユリアナの恨みは……消えないだろうな」
「力が欲しいか……?」
まずは目の前のやつから。
そう思った瞬間に声が聞こえてきた。
「何者だ?」
黒い天使じゃない。
頭に直接響いてくるような、不愉快な声だった。
「目の前の敵を討ち果たし、復讐する力を得たくはないか? このままではお前は負ける。分かっているだろう?」
何かが後ろからまとわりついてくる。
「これは……」
イースラがまとわりついてくるものを振り払うようにして振り向くと、そこに剣が浮いていた。
黒い刃の剣は怪しく光を放っている。




