魔に抗い、屈服させる4
「イースラ!」
イースラが剣を振り、悲鳴のような声が上がった。
「オルトーン!」
「イースラ! 何をしているんだ!」
イースラはオルトーンの腕を斬り飛ばした。
魔剣を握ったままの手が宙を舞う。
「エティケントさん!」
イースラはオルトーンの手を取ると、魔剣を抜き取って手の方をエティケントに投げ渡す。
「どいてください」
「エティケント様! イースラに何を……」
「今は説明している暇はありません」
エティケントはポーションを取り出す。
三角形の瓶の蓋を開けると斬り飛ばされた手の切り口にポーションを振りかけて、腕にくっつけた。
さらに残りのポーションも腕の傷にかける。
「あなた、腕が離れてしまわないように固定してください。他の方もオルトーンさんが暴れて腕が離れてしまうとくっつかないので気を付けておいてください」
エティケントに腕を渡されて、男性隊員は少しひきつった顔をしてオルトーンの腕をくっつけるようにして持つ。
「このまま固定していれば腕はまだくっつきます」
「ほ、本当なのですか?」
「一度でも離さなければ、ですが」
「……俺も押さえよう」
ビブローもオルトーンの腕をくっつけるように押さえる。
「ゲウィルさん、あなたにはやってもらうことがあります」
「むっ? 何をすればいい?」
かなり急なことだった。
一瞬場当たり的な行動かと思ったが、オルトーンの腕をすぐにくっつけるなど対策を考えていた以上は計画をしっかり練っていたのだと見直していた。
イースラを巻き込んだことは少し気になるが、それでもやはり攻略する計画があるのだとエティケントの指示に従うつもりである。
「イースラ君の相手を」
「イースラ、そうだ……イースラ、その剣を放すんだ!」
イースラの名前が出てきてゲウィルはハッとした。
オルトーンの腕を斬り飛ばしたという行動があまりにも衝撃的で、すぐさまエティケントが腕をくっつけたこともあって忘れていた。
イースラはオルトーンの手から魔剣を抜き取っていたことを思い出して、ゲウィルは顔を青くする。
オルトーンのことを他の人に任せて、ゲウィルはイースラの方を振り向く。
イースラは魔剣を手に、黒い刃を見つめるようにして立っている。
もう遅かったかとゲウィルは悲しげに顔を歪める。
「オーラを使ってイースラ君と戦ってください」
「エティケント様……どうしてあの子を……」
「そんな顔をなさらないでください。今は言い争っている時間もありませんよ」
ゲウィルは険しい顔をしてエティケントのことを睨みつける。
イースラの体から白いオーラ漏れ出す。
そして手に持った魔剣からオーラが黒く染まっていく。
「倒さないよう気をつけて、できるだけイースラ君のオーラを消費させてください」
「……それで本当にあの子を救えるのか?」
「それはあの子次第……」
「なんだと?」
「ただこのまま黒いオーラに支配されてしまうと厳しくなります。早く戦ってください」
「くそっ……後で責任を問わせてもらうからな!」
ゲウィルはオーラを解き放ってイースラに向かう。
「くっ!?」
黒いオーラのせいなのか子供とは思えない力がある。
「こんな状況でなければ心躍っていたものをな!」
ビブローとの戦いをみて、イースラが技量的に優れていることは分かっていた。
戦ってみれば面白そうと思っていた。
だがこんな形で戦いたくはなかった。
「出来るだけオーラを使って消耗させてくださいね」
「簡単に言ってくれる!」
オーラは一撃必殺の威力を秘めている。
大体の場合でオーラを使う時は本気の戦いであり、本気で戦うのに手加減なんて矛盾した行いとなってしまう。
「くっ……!」
少しでも油断すると急所を狙ってくるイースラにゲウィルは顔をしかめる。
「チッ……殺さないってのが一番難しいだぞ!」
ーーーーー
「イースラ!」
「どうした?」
布を貼っただけのテントもどきの中に黄色い髪の男ターワンが飛び込んでくる。
床に布を敷いただけの寝床というにも粗末な場所で寝転んでいるイースラが目を開けた。
その姿は子供ではなく、大人であった。
「敵襲だ! 無翼竜人族どもだ」
「チッ……人型トカゲがよぅ……」
「それ、あいつらの前で言うなよ? お前が狙われるぞ」
「どうせ戦えば狙われるんだ。構いやしないさ」
イースラはそばに置いてあった剣を手に取ると立ち上がる。
テントの外に出ると人が慌ただしく動いている。
ここは防衛キャンプ。
人類はだいぶゲートと魔物の侵攻に押されてしまった。
本来なら人を一ヶ所に集めて守りたいところではあるが、まだ残っている人も多くて、いくつかの都市に分けて守っていた。
防衛キャンプはそれぞれの中間地点にあたり、どこへでもすぐに駆けつけられるような場所になっている。
「イースラ!」
「ああ、ユリアナ……」
「なに?」
大人のユリアナがテントから出たイースラに駆け寄ってくる。
イースラがぼんやりと顔を見つめるものだからユリアナは不思そうに笑った。
「いや、なんだか……久々の君の顔を見た気がする」
「何を言ってるの? 毎日会ってるじゃない」
今度は変なことを言う。
寝ぼけているのかと肩をすくめる。
「トカゲどもはどこに?」
「第三区の方らしいわ」
「今度こそ奴らの頭領の頭を切り落としてやる」
「無理はしないでよ?」
「もちろんだよ」
イースラは仲間となる冒険者を引き連れて魔物の襲撃があった都市に向かう。




