魔に抗い、屈服させる3
「もはや私の声も届いていないか」
ゆっくりオルトーンが振り返る。
オルトーンの目が真っ黒に染まっている。
「私がお前を止めよう!」
明るい琥珀色のオーラをまとったビブローが前に出る。
「むっ……」
オルトーンもオーラを放つ。
本来オルトーンはビブローと同系色の琥珀色のオーラの持ち主である。
しかし今のオルトーンのオーラはどす黒く濁っている。
元々持っていたオーラの色とはだいぶ違っているのだ。
だがオーラの色は違えど、力強さはビブローのオーラに負けていない。
むしろビブローを上回っているかもしれない。
「あれがビブローさんの本気か……」
ビブローはもう若くない。
肉体的には折り返しを迎えている。
ざっくり言ってしまえば、衰え始めてすらいるのだ。
しかしこれまで培ってきた経験と体に染み込むまで繰り返された技術は衰えることがなく、肉体が衰えを迎えても磨かれ続ける。
まだ肉体的な折り返しの入り口に立つビブローは、全てのコンディションにおいて人生最高潮と言ってもいい。
イースラと戦った時とは明らかに動きが違う。
「押されてる……」
「そうなのですか? 私には良くわかりません」
遠くから見ていても見逃してしまいそうになる戦い。
魔法使いであるエティケントに至っては、ビブローとオルトーンがどのような戦いを繰り広げているのか分かっていない。
ビブローも当然すごいのだけど、ビブローは押されていた。
「ビブローさんの方が緻密で繊細。技術的には上だけど、オルトーンさんの力が上みたいだ。オーラ自体の力もオルトーンさんの方が強いのかもしれない」
技術的な差を埋めて有り余るほどにオルトーンの力が強い。
オルトーンの方がビブローよりも一回りほど体格的にも大きく、通常の状態でも力は強いのかもしれない。
加えて今は魔剣によって理性を失っている。
いつも理性が抑えている力を発揮していることだろう。
「そろそろ行きますか」
「矢面に立つのは好みませんが……仕方ないですね」
イースラはチラリとエティケントに視線を送る。
エティケントは小さくため息をつくと、ゲウィルに近寄る。
「団長殿」
「エティケント様、どうかなさいましたか?」
「加勢しましょう」
「しかし……」
エティケントの言葉にゲウィルは難色を示す。
ゲウィルの目にもビブローは不利な状態である。
しかし父として、上官としてオルトーンを止めようとしているビブローの邪魔もできない。
「このままではどちらも命が危ないです。攻略するためにもビブロー卿を支援しましょう」
「……攻略の方法が?」
「ええ。少なくともオルトーンさんの手に魔剣があっては厳しいです。どうにか制圧して引き剥がしましょう」
「……分かった」
方法があるのなら、とゲウィルは思った。
たとえ恨まれようとも二人とも救えるのならその方がいい。
「ビブロー! 手助けするぞ!」
「………………分かった!」
ギリギリまで見守る。
だが必要なら介入することは言い伝えてあった。
ゲウィルが手助けするというのならその必要が生じたのだとビブローは受け入れた。
「いくぞ! オルトーンを制圧するんだ!」
ゲウィルの命令で傭兵団が動く。
「あとはそちらの出番ですよ?」
「そうですね。だけどちゃんと待機お願いしますよ?」
「もちろん、心得ておりますよ」
傭兵団で動いたのはゲウィルの他、師団長と大隊長、大隊長補佐と少数精鋭である。
オルトーンの実力の高さを考慮して、邪魔にならない人数と実力の高い人だけを選んだ。
「あの人数を相手にもしても暴れ回っているな」
「どうして第二王子が失敗したのか……透けて見えるようですね」
複数人を相手にしてもオルトーンの勢いは衰えない。
むしろ制圧という目的の分こちらの動きは悪くて、圧倒されてしまっている。
第二王子もオルトーンを制圧しようとした。
そして失敗して多くの犠牲者を出してしまったのだ。
「ビブロー!」
「おうっ!」
ゲウィルとビブローでオルトーンを挟撃する。
「はああああっ!」
「ぬっ!」
「うっ!」
オルトーンから濁ったオーラが吹き出す。
二人の攻撃を弾き返して、大隊長補佐の女性隊員に斬りかかった。
「ふんっ!」
師団長のムベアゾが大剣でオルトーンの攻撃の前に割り込む。
「オルトーン! もう止まるんだ!」
必死の形相のビブローは剣を投げ出してオルトーンのことを後ろから羽交締めにする。
やるなら自分が殺すと口では言っていたが、止められるなら息子を止めたいという思いはあるのだ。
「ビブロー! くっ!」
オルトーンはビブローの太ももに剣を突き立てる。
血が噴き出し、痛みに顔を歪めながらもオルトーンから手を離さない。
ゲウィルも剣を収めて、オルトーンの腕を掴む。
「団長、ここからどうするんですか!」
みんなでオルトーンの体を押さえる。
どうにか捕えることには成功したが、ただ押さえているだけで事態は好転しない。
オルトーンは全身に力を込めて抵抗していて、押さえていることも楽ではなかった。
「……エティケント様! ここからどうしたら……」
攻略する方法がある。
エティケントはそう言っていた。
どう攻略するつもりなのかと振り向いたゲウィルが見たのは、剣を手に飛び上がるイースラの姿だった。




