第9話鈴音の心に潜む闇
【登場人物】
鈴音→主人公の背の高い可愛らしい女の子
楓→鈴音の同僚。スタイル抜群。
霜月→影屋敷の影武者候補の少年。橙次と仲が良い。中性的な美少年。
橙次→影屋敷の影武者候補の少年。霜月と仲が良い。背の高いがっしりしたイケメン。
香風→鈴音の大先輩。おっとりしている。
長月豪→香風の夫
鈴音は外へ洗った布を取り込みに行くたび、広間を見てしまう。
「はぁ、やっぱりいないのか」
霜月の姿はどこにもない。
そればかりか、橙次も最近は治療・治癒室に来なくなっていた。
楓はそんな鈴音の様子を見ている。そこへ香風が楓に声をかけた。
「楓ちゃん、鈴音ちゃん、元気がないけどどうしたのかしら?」
「最近、霜月さんも橙次さんも来なくて、元気がないんです」
「ああ、そうなの。そればっかりは仕方がないものね……」
鈴音は目を伏せがちのまま仕事をしていた。
鈴音は一人で家を借りられないので、長屋の一部屋を借りて住んでいた。布団を敷くと、うつ伏せになってその上に倒れ込む。
頭に浮かぶのは霜月のことばかりだ。
会えないほど、会いたい気持ちは募っていく。
夢の中でもいいから少しでも会えたらいいのに――そう願いながら、鈴音は眠りについた。
夢の中で、鈴音は暗い闇の中にいた。目の前に何かの気配がある。
「誰なの?」
恐る恐る声をかけると、人影がぼんやりと浮かび上がる。
鈴音は思わず息を飲んだ。足が震え始める。
「やめて……来ないで……」
振り絞るように声を出す。
そこにいたのは、記憶の奥底にしまい込んだはずの鄧骨だった。
ずるり。
夢の中から引きずり出されるような感覚がした。
「痛っ」
夢から現実へ戻したのは、悲しいことに背中の傷の痛みだった。
鈴音はそのままうずくまり、布団をかぶる。
「ぐすっ……霜月……橙次さん……」
鈴音はその後、一睡もできなかった。
■
次の日、ひどい顔のまま楓に会うと、楓は目を丸くした。そしてそのまま鈴音を抱きしめる。
「大丈夫?」
「うぅ……」
「……じゃないわよね」
楓はそのまま、しばらく鈴音を抱きしめていた。
「おい、どうかしたか?」
鈴音の後ろから声が聞こえる。楓は顔を上げた。
「あっ、橙次さん」
「鈴音? 何があったんだ?」
楓の目が泳ぐ。
鈴音が振り返ると、橙次は鈴音の顔を見て驚いていた。
橙次は近くの病室の中を覗き、空いていることを確認すると、楓に中へ入るよう促した。そして部屋に幻術をかける。
「お前、会うたびに泣いてるじゃねーか! 今度は何があった?」
鈴音は部屋へ入ると、その場に崩れ落ちた。
そして、すがるように楓と橙次の手を握る。
「うわーん、楓! 橙次さん!」
鈴音は大きな口を開けて泣き始めた。楓は橙次に目配せをする。橙次は楓を見たあと、鈴音を見た。
「怖い……怖いよ……」
橙次は鈴音を抱き寄せた。
「今は俺と楓しかいない。安心しろ」
鈴音は恐怖の海から少しでも顔を出したくて、心の声を吐き出す。
「最近、霜月もいないし、橙次さんも来ないし……夢にもあいつが出てきた……」
泣きながら訴える鈴音に、橙次は答えた。
「来れなくて悪かった。霜月は八傑になったんだ」
それを聞いて、鈴音はがばっと顔を上げた。
「うそ、八傑って上位八人になったってこと?」
「そうだ。霜月は迎えたい奴がいるって言ってた。あいつは今、それしか見えていない」
「霜月……会いたいよ……」
「俺で我慢しろ」
「橙次さん」
「それから鈴音、ひどい顔してるぞ」
「あっ、ひどい。見直したと思ったのに、乙女に言っちゃいけないこと言ったな」
鈴音は顔を隠しながら笑い始めた。
楓は二人のやり取りをそばで見ていた。
橙次の鈴音を見るまなざしは、とても優しかった。




