第8話これが恋なのね
【登場人物】
鈴音→主人公の背の高い可愛らしい女の子
楓→鈴音の同僚。スタイル抜群。
霜月→影屋敷の影武者候補の少年。橙次と仲が良い。中性的な美少年。
橙次→影屋敷の影武者候補の少年。霜月と仲が良い。背の高いがっしりしたイケメン。
香風→鈴音の大先輩。おっとりしている。
長月豪→香風の夫
それから霜月は、鈴音の傷の抜糸が終わってしばらく経つまで毎日来てくれた。
鈴音は、毎日霜月に会えることがとても嬉しかった。
ようやく抜糸も終わり、傷も落ち着いたので、鈴音は治療・治癒室へ戻ってきた。部屋へ入ると香風を探す。すると後ろから声をかけられた。
「鈴音ちゃん、傷の様子はどうかしら?」 「はい。時々痛みますが、落ち着きました」
「それなら良かったわ。でも、大丈夫な範囲で仕事をしてね」
そこへ楓が走ってくると、鈴音の手を両手でぎゅっと握った。
「鈴音、大丈夫?」
「ええ、なんとか」
「鈴音ちゃんは、楓ちゃんとまた一緒に仕事をしてね。様子を見ながら量を増やしましょう」
「鈴音、無理しないで、何かあったらすぐに言ってね」
「香風さん、楓、ありがとう」
また仕事の日々が始まった。
楓は頻繁に鈴音の調子を気にしてくれていた。二人で包帯を干しに外へ出る。ここからは広間が少し見えるのだ。
もしかしたら霜月に会えるかもしれない――そんな期待をしてしまう。
楓は、鈴音がちらちらと広間の方を気にしているのを見ていた。そして、くすりと笑って声をかける。
「ふふ、霜月さん、毎日のように来ていたわね」
「えっ? ……そうね」
「鈴音、顔が赤いわよ。何かあったの?」
そう言われて、鈴音はさらに顔を赤くした。
「何もないわよ。でも、霜月が毎日来てくれて嬉しかった」
鈴音は本心をそのまま口にした。
言葉にはしなかったが、霜月が鄧骨への怒りをあらわにしていたことも、鈴音にはとても嬉しかった。
「霜月にもらってばっかりだわ。私も何か返したいな」
「……鈴音、恋してるって顔してるね」
「えっ?」
「あら、嬉しいってことよ。落ち込んでいるより、ずっといいもの」
楓にそう言われて、鈴音は急に霜月を意識し始めた。
――そっか。私は、霜月に恋をしてるのね。
■
それからまた月日が経ったある日、霜月が治療・治癒室に顔を出した。鈴音は部屋の外に霜月の姿を見つけて呼ぶ。
「霜月」
「鈴音」
そう呼ぶと、霜月が近くまでやって来た。
右腕に擦り傷がある。
「右腕の擦り傷以外にもあるかしら?」
「あと足。少し切った」
鈴音はしゃがみ込んで傷を確認する。
「分かった。今、包帯と薬を持ってくるわ」 「ありがとう。ここで待ってる」
霜月はその場に腰を下ろした。
鈴音が包帯と薬を取りに行って戻ってくると、治療・治癒室にいる女の子たちがちらちらと霜月の方を見ていた。
鈴音はむっとして、早足で霜月のもとへ戻る。
そして、さっさと治療を始めた。
その様子を、霜月はじっと見ている。
「そんなに見ないでくれる?」「ふふ、気づいた? 鈴音、治療が上手くなったなって思って」
それを聞いて、鈴音はぱっと顔を上げた。
霜月と目が合う。霜月は笑いかけてくる。
自分の顔が赤くなっていないか、鈴音は気になった。
改めて霜月を見ると、前よりもがっしりして、たくましくなっている。
「霜月もたくましくなったわね」
「分かる?」
霜月は嬉しそうだった。
処置が終わると、霜月は立ち上がった。
その様子を見て、鈴音も立ち上がり、かかとを上げて背伸びしてみる。
「やっぱり! 背も伸びてるわね」
「僕のほうが大きいね」
いつの間にか、小さな少年だと思っていた霜月が、男の人へと変わりつつある。鈴音はそれを意識してしまった。
「霜月、今はどんな感じなの?」
「今? うーん、前にちょっと負けて順位が下がったけど、ようやく戻ってきたところ」
話しぶりからすると、長月殿との対戦に負けたことを言っているのだろうか。
「霜月が負けちゃった人って強いの?」
「うん、強い。橙次にも無鉄砲だって散々言われた」
「ふふ、そうなんだ」
「……でも、僕は止まれないから」
そこで霜月は真剣な顔で鈴音を見た。
「早く八傑にならないといけないんだ」
「そうなんだ」
霜月には何か目的があるようだった。
けれど鈴音は、それを聞いたら遠い存在になってしまいそうで、尋ねることができなかった。
その日を境に、霜月はぱったりと来なくなった。




