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第17話 生死の分かれ目、鈴音縫合する(後編)

 瞬たちが影屋敷の空間に入ると大通りを突っ走った。大通りにいる人たちは何事かと視線を向けてくる。影屋敷の左殿に近づいてくると向こうから何人もの男の人たちが走ってくる。


「影屋敷の左殿の左側を通って来て下さい。私たちについてきて下さい」

「分かった」


 瞬たちは返事をすると男たちについていった。ある部屋へと促される。部屋の外には“処置室1”と書かれていた。部屋の前で人が待機していた。


「そこで止まって下さい。中へは私どもが霜月殿を運びます。中で容態を確認しますので外で待っていて下さい」


 瞬たちが霜月を乗せた板をゆっくりと降ろす。その人たちは板の隣に白い大きな布を敷くと頭と足を二人がかりで持ち霜月を布へと移動させる。そして処置室へと入っていった。瞬たちはその様子を疲れた顔で見送った。すると瞬たちは声をかけられた。


「諒、瞬、瑛真、こっちで休んでいて」

「楓、ありがとう」

「さっき鈴音も起きて病室の準備をしているわ」


 そうして楓は治療・治癒室へと皆を促した。部屋へ入った左端へ楓は案内した。


 その少し前に鈴音は目を覚ました。


「んっ⋯⋯あれっ?」

「おっ目を覚ましたか?」


 鈴音は横になっているようで橙次が上から見ていた。そして橙次は霜月の縫合は終わって鈴音をここまで連れてきたことを説明した。そして霜月は瞬たちが連れてきているのでもうすぐ来るようだと伝えてくれた。二人は治療・治癒室に行くと霜月の容態を話した。


 鈴音は病室の準備をしたいと立候補した。香風はそれを承諾すると橙次と共に処置室の準備へと向かった。楓も鈴音についていくと言うので霜月を運んで来る瞬、諒、瑛真を休ませてほしいとお願いした。すると楓は頷いた。



 鈴音は一人で霜月が入る予定の病室に入ると準備を始めた。何かしていないと余計なことを考えそうだと思ったていた。しかし誰かがいればとんちんかんなことを言ったりしでかしたりするかもしれないと心配になったので一人になれてホッとしていた。


 鈴音は橙次との処置を見たことを思い出していた。橙次は綺麗で丁寧な処置をしていた。影武者になる武闘派とは思えない処置だった。


 いつも鈴音の話を聞いてくれる優しい人だと感じていたが、霜月の危機に向かう途中に聞いた知らない秘密を思い出して急に遠くに行ってしまったように感じた。


「橙次さんはどこかに行ってしまうのかしら⋯⋯そうなったら霜月だって⋯⋯私だって悲しいわ」


 鈴音はそう思うと頭をぶんぶんと左右に振って手を動かし始めた。部屋の様子をぐるりと見渡す。


「これで多分大丈夫ね。⋯⋯霜月も大丈夫よね⋯⋯」


 部屋の外でばたばたと音がしている。鈴音は部屋を出て治療・治癒室へと向かった。するとすると瞬と瑛真に運ばれた霜月の姿が見えた。後ろから香風がついてくる。香風が鈴音の姿を目で捉えると声をかけた。


「処置室で霜月さんの容態を確認したわ。処置は大丈夫そうだったわ。頑張ったわね。病室へ運ぶところよ」

「あぁ、良かった。香風さん、ありがとうございます」


 そのまま鈴音は皆について病室へ向かった。部屋へ入ると瞬と瑛真は霜月を乗せた板をそっと下ろして板の上の布ごと布団へ移動させた。瞬、諒、瑛真、鈴音は霜月を取り囲んで様子を見ている。霜月が横たわる姿はあまりにも穏やかだ。鈴音の心はざわついた。



 各々いろんなことを考えているかのか誰も口を開かない。そして誰も口を開かないことに気にするものはいなかった。すぐに夜がやってきた。



 鈴音は霜月との出会いからこれまでのことを思い出していた。あの泥に塗れた少年に綺麗な布を渡してから二人で話した月日は昨日のことのように思い出される。


 髪がサラサラと揺れて瞳を覗けば長いまつ毛を持った魅力的な目が鈴音を捉えてくる。鼻筋の通った顔立ちに形の良い唇、そのすべてが自分に向けられ楽しいひと時を過ごす。そのすべての思い出を思い出すごとに胸が焦がれる感覚がする。


 自分に絶望の恐怖を植え付けた相手を亡き者にする、そう宣言してくれた霜月は少しくらいは自分に好意を寄せてくれていると思っていた。だからあの時どんな形でもいいからそばにいたい、そう強く思ったのだ。


「霜月⋯⋯私はどんな形でもいいからあなたのそばにいたいと思ったけど、こんな形は望んでいないのよ⋯⋯」


 はたと周りに人がいることに気がついて慌てて周りを見渡した。夜は更けもう夜明け前の時間だった。瞬たちはおそらく黒獅子の里の反乱で戦い、そして霜月を運んできたので疲れていたのだろう。自分が寝ていることに気が付かないようで座って下を向いて寝ている。幻術がかかった。鈴音は部屋の入り口を見た。すると橙次が立っていた。


「さすがに幻術がかかるのはもう分かるか」

「橙次さん」


 橙次は鈴音の方へ歩いて近づいてくる。鈴音は張りつめていた緊張が緩んだ。


「霜月は目を覚ますかしら?」

「⋯⋯そう願うしかないな」


 鈴音は目に涙をいっぱい溜めた。橙次も顔を歪めている。



「まだ逝かないで⋯⋯私まだ霜月に伝えてないことがたくさんあるのよ。私だって自分が欲張りだって分かってるわ。忍の出会いは一期一会、そう教えられてきたけど、今はもう一度貴方に会いたい⋯⋯貴方の目を見てもう一度話したいの」



 霜月の穏やかな顔は少しも動かない。鈴音は霜月の顔を見続ける。涙はまた鈴音の頬を伝う。長い間鈴音の頬を涙が伝い続けた。鈴音は自分でも気が付かないまま下を向いて眠ってしまった。それを見た橙次は霜月を見続けた。


「霜月、頼むから戻ってきてくれ。俺に鈴音の涙を止めることは出来ない。それに俺にとってもお前は大切な⋯⋯仲間だ」


 そして鈴音を抱きかかえると隣の病室へ寝かせると、どこかへ行ってしまった。

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霜月は目覚めるのかな…?? 橙次はどこにいっちゃうだろう?
 鈴音ちゃんの笑顔のためにも、早く霜月には元気になってもらいたいです。それから、橙次にも幸せになってほしいです。
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