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第14話最大の転機(前編)

【登場人物】

鈴音→主人公の背の高い可愛らしい女の子

楓→鈴音の同僚。スタイル抜群。

霜月→影屋敷の影武者候補の少年。橙次と仲が良い。中性的な美少年。

橙次→影屋敷の影武者候補の少年。霜月と仲が良い。背の高いがっしりしたイケメン。

香風→鈴音の大先輩。おっとりしている。

長月豪→香風の夫

 鈴音は、しばらく黙ったまま楓を見つめていた。


 逃げ道を断つように。

 自分自身を追い込むように。

 やがて、ゆっくりと口を開く。


「楓、あのね。伝えたいことがあるの」


 一度、息を吸う。


「洗濯を干すついでに聞いてくれる? ……誰にも聞かれたくないの」

「うん、分かったわ」


 楓は、胸の奥で何かが確信に変わるのを感じていた。


(――告白するんだ)

 そう思った。


 だからこそ、あえて何も言わず、いつも通りに振る舞う。


 二人は洗濯物を籠に入れ、外へ出た。

 足音だけが並ぶ。

 言葉は、ない。


 洗濯干し場に着く。

 誰もいない。


 風が、静かに通り抜ける。

 楓は洗濯物を干しながら、無意識に広間の方を見た。


 霜月の姿はない。


 ――今なら、言える。

 そう思った。


 隣では、鈴音が黙々と手を動かしている。


 その横顔は、ひどく固かった。


 やがて、洗濯物を干し終える。

 楓の胸が、少しだけ高鳴る。

 次の言葉を、待つ。


 鈴音は一度、周囲を見回した。


 そして。


「あのね――」


 静かに、言った。


「霜月が、鄧骨のこと……必ず仕留めるって言ってくれたの」


 一瞬、間が空く。


「……そう」


 楓は、柔らかく笑った。


「良かったね。鈴音の心が少しでも軽くなるなら、私は嬉しいわ」

「……ありがとう」


 その言葉に、鈴音の口元がほんの少し緩む。


 けれど、その次に続いた言葉は――


 楓の予想とは、まるで違っていた。


「楓」


 まっすぐ、見つめる。


「私、霜月が好きなの」

「うん」


 ここまでは、想定通り。


 楓の表情が、少しだけほどける。


 ――だが。


「それでね」


 一拍。


「決めたの」


 その声は、静かで。

 それでいて、揺らがなかった。


「霜月には、想いを伝えない」


「……え?」


 一瞬、理解が追いつかない。


「え……えぇっ!?」


 遅れて、声が漏れる。


 口が閉じない。


 言葉が出ない。


 ただ、目の前の鈴音を見るしかなかった。


 鈴音は、そんな楓を見て――少しだけ困ったように笑った。

「みんな、同じ反応するのね」


 でも、逃げなかった。

 視線も、逸らさない。


「私は、どんな形でもいいから霜月のそばにいたいの」


 静かに、続ける。


「臆病って言われるかもしれない。でも――」


 一瞬、言葉が止まる。


 それでも、続けた。


「言わなくて続く関係なら、私はそれでいいの」


 “好き”。

 そんな一言で片付けられるものじゃない。


 霜月と出会ってから、積み重ねてきた時間。


 交わしてきた言葉。


 笑った日も、苦しかった日も――全部。


 背中に残る、消えない痛み。


 忘れたいのに、忘れられない恐怖。


 一歩踏み出した先に、望む未来があるとは限らない。


 それでも。


 目の前に霜月がいて。


 ここに帰ってきてくれるなら。


 ――それでいい。


 失うくらいなら、届かなくていい。



 楓は、何も言えなかった。

 ただ、見つめる。

 そして気づく。


 自分の方が――泣きそうな顔をしていることに。


「楓……?」


 鈴音が戸惑う。


「大丈夫?」


「……だって」


 声が震える。


「鈴音が、頑張ってその答えを出したんだって思ったら……」


 言葉が詰まる。


「私の方が、苦しくて……ごめん」


 次の瞬間。


 鈴音は楓を抱きしめていた。


「ありがとう」

「鈴音……私はずっと、鈴音の味方よ」


「……うん」


 その言葉だけで、救われる。





 ――翌日。


「おはようございます!」


 鈴音は、まるで何かを振り切ったように、明るく部屋へ入ってきた。


「あら、鈴音ちゃん元気ね」


「はい! 今日もたくさん働きます。縫合もやらせてください!」

「ふふ、いいわね」


 楓が入ってくる。


 目が合う。


 鈴音が笑う。


「楓、おはよう。昨日はありがとう。今日も頑張るね」

「……うん。無理しないでね」


 空は、雲一つない快晴だった。


 ――前に進める気がした。


 けれど。


 その穏やかな時間は、長くは続かなかった。



 ■



 二日後。

 鈴音は、見慣れない相手と向き合っていた。


「あの……長月殿。一体、何のご用件でしょうか?」

「にゃーん⋯⋯」


 目の前には、淋しそうに鳴くだてまきを抱えた長月。


 状況が理解できない。


 長月とは面識こそあれ、直接話すのは初めてだった。


 だが、その腕の中にいる存在が――異様だった。


(なんで、霜月のだてまきが……?)


 長月は周囲を確認してから、口を開く。


「だてまきを、霜月から預かった。鈴音に渡してほしいと」


 胸がざわつく。


「……霜月たちに、何かあったんですか?」


 沈黙。


 ほんのわずか。


 だが、その間がすべてを物語っていた。


「忍の間で反乱が起きた」


 空気が変わる。


「霜月たちは、そこへ向かった」


「……どこの里ですか?」


 鈴音の声が、低くなる。


「黒獅子の里だ」


 知らない名前。


 それでも、嫌な予感だけは、はっきりとあった。


 そのとき。


「長月、何かあったのか?」


 橙次が現れる。


 状況を聞いた瞬間、表情が変わった。


「黒獅子だと?」


 一歩、前に出る。


「……まずいな」

 低く呟く。 


 だてまきが橙次の腕に飛び込む。

 それを受け止めながら、鈴音を見る。


「鈴音」


 その声は、いつもと違った。


「黒獅子の里長は――やばい」


 言葉を選ばない。

 断言だった。


「どういうこと……?」


 鈴音の声が揺れる。


 橙次は、さらに距離を詰めた。


 逃げ場を与えないように。


 突きつけるように。


「杞憂ならいい」


 一拍。


 そして――


「最悪、霜月に会えるのは、これが最後になるかもしれない」


 息が止まる。


「……間に合えば、の話だが」



 次の瞬間。


 鈴音は走り出していた。

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☆*:.。. 二角ゆうの作品.。.:*☆
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大きく動きましたね。 (・–・;)ゞ 果たして鈴音は間に合うのか⁉️ (´・ω・`)
思いを伝えない、という決断をした鈴音ちゃん。 でも、その矢先に……。 霜月どうなっちゃうんでしょう…??
 鈴音ちゃんには辛い決心だったと思うのですが、彼女の決意を優しく受け止めてくれる人がいて良かった、としみじみ思いました。  呑気に「だてまきが抱っこされている、可愛い」と思っていたら、なんとそのような…
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