8 進級試験 2
そして運命の進級試験が始まった。
最初に座学が行われた。手ごたえはかなりあった。今回も上位になることは間違いない。終了後、平民の竜騎士たちの表情を見ても明るい。多分、欠点を取った者はいないだろう。
次は模擬戦だ。
これは自信があった。というのもガイゼルの指導が的確だったからだ。そして、ガイゼルの指導というのは・・・
「お嬢様。つまり、試合をしなければいいのです」
「試合をしない?それでは勝てないのでは?」
「模擬戦はポイント制です。一方お嬢様のスタイルは、実戦では無類の強さを発揮しますが、このようなポイント制の模擬戦ではかなり不利です。なので、無理やり実戦に持ち込むのです。やり方は簡単です。詳しくは・・・」
指導を受けて、私が模擬戦にスタイルを合わそうとして調子を崩したのが勝てなかった原因だった。そもそも細かいフェイントや攻撃を受け流す技術なんて、一朝一夕で身に付くはずがない。発想を逆転させ、私の実戦スタイルを模擬戦に落とし込んだ。単純な技だし、タイミングさえ掴めば学生レベルでは躱すことはできないからね。
そして1回戦、私の対戦相手となったのは、伯爵家の令息だ。名前はサーカズ・ガスティン、私にいつも嫌味を言ってくる男で、平民をいつも馬鹿にしている。今日も私を煽ってくる。
「じっとしていればすぐに終わりますからね。模擬戦の最短記録の更新にご協力ください。いくら貴方のようなブタ・・・レディでも、嬲って辱めるのは気が引けますからね」
「ご配慮感謝するわ。私も早く終わらせたいですからね」
試合が始まるとすぐに終了した。多分、最短記録を更新したと思う。
因みに試合内容だが、開始の合図とともに斬り掛かってきたサーカズに私のカウンターが炸裂し、サーカズは場外まで吹っ飛び、そのまま失神してしまい、私の勝利となったのだ。
やり方は簡単で、楯スキルの「シールドバッシュ」と同じ要領で、両手で木剣を中断に構えて、タイミングを見て「俊足」のスキルを発動させ、中段突きを繰り出すだけだったからだ。
コツを掴めば簡単なもので、私はどんどんと勝ち進んだ。
ガイゼルが言うには、指導者が悪いと言う。
「お嬢様に複雑な連続攻撃や華麗に攻撃を躱してカウンターをするなんて、できるはずがありません。指導方法も複雑な型の訓練ばかりですし・・・まるで、お嬢様の良さを消そうとしているような指導方法です。抗議をしてもいいくらいのレベルです。指導者に今度、私が特別指導をしてやりますよ」
若干、私が貶されている感じはするが、短期間で私を強くしてくれたガイゼルには感謝している。
そして、あれよあれよいう間に決勝までコマを進めた。なぜなら、私とサーカズの試合を見て、多くの対戦相手が怖気づいて、私がスキルを発動させて、1ポイントでも取ると棄権してしまうからだ。大した体力の消耗もなく、苦手の長距離走に体力を温存できたことは嬉しいかぎりだ。
そんな私の目の前ではグラース王子とエリザベート王女が白熱した戦いを繰り広げている。まさに剣士と剣士の戦いといったところで、会場は大盛り上がりだ。美しく華麗な技の応酬で、見るものを魅了していた。
私の時とは大違いだ。
しかし、そんな模擬戦も終わりを迎える。グラース王子がエリザベート王女の木剣を弾き飛ばし、喉元に木剣を突き付けた。これでポイントが認められ、5対3でグラース王子が勝利したのだ。
エリザベート王女もなかなかの剣の使い手だが、竜王国で屈指の剣士であったガイゼルには及ばない。そのガイゼルに個別指導を受けたグラース王子には敵わなかったようだ。
そして迎えた決勝だが、グラース王子とエリザベート王女の準決勝とは打って変わって、全く動きのない状況が続き、時間だけが過ぎていく。というのも私もグラース王子も手の内を知り尽くしているからだ。何度か模擬戦をして、グラース王子は、私の技がスキルを利用したカウンターの中段突きだけだと分かっているし、私も私で、グラース王子の連続攻撃や得意なフェイントは熟知している。
なので、考えていることも分かる。私がカウンターではない中段突きを繰り出したのを躱して、攻撃してくるのだろう。私もそうならないように我慢している。
つまり、動くに動けないのだ。
武術に心得がある者は、動かないながらも微妙な駆け引きをしているのが分かるのだが、素人の貴族なんかは野次を飛ばしてくる。
「おい!!つまらん試合をするな!!」
「お腹が空いて動けないのか?」
そういえば、お腹はかなり空いている。
・・・って、そんな場合ではない。試合に集中しなければ!!
そして、試合が動いた。グラース王子が攻撃を仕掛けてきた。大きく上段に振りかぶり、頭を狙って木剣を振り下ろしてきた。私は狙いすました中段突きを繰り出す。
勝った!!
そう思ったが甘かった。それがグラース王子のフェイントだった。グラース王子は私の突きを躱し、木剣を私の喉元に突き付けた。これで1ポイント、グラース王子に得点が入ったところで、試合は時間切れとなった。
後で聞いた話だが、グラース王子は私に勝つために対策を練っていたそうだ。そして最後の最後で、このフェイントを使ったらしい。
「実戦ではカトリーヌ嬢に勝てないからね。せめて模擬戦で勝っておかないとと思ってね」
優しい笑顔でグラース王子は言う。
模擬戦の最終結果だが、グラース王子が優勝、私が準優勝、エリザベート王女が3位となり、スピラを含めた私の派閥のメンバーも健闘を見せた。中でも素人ながらベスト8に残ったスピラは称賛されるべきでだろう。そして注目の最下位、つまり欠点となる者は、私に1回戦で敗退したサーカズだった。模擬戦が終了するまで、意識が戻らなかったというのがその理由だが、自業自得だ。
そして、進級試験1日目の最後の種目、長距離走が始まる。この競技も最下位が欠点となる。長距離走の私の目標はもちろん優勝ではない。とにかく最下位にならないことだ。そのために秘策を用意していた。トップクラスの学生はかなり速いのだが、下位の学生はそうでもない。今のままでは勝てないが、レースにはなるレベルなのだ。そして長距離走が始まった。
食事制限の甲斐もあり、私は何とか最後尾ながらも、ゴール付近まで走って来れた。もう体力の限界が近い。10メートル先には5名の貴族が集団を形成している。それにワザとゆっくりと走っているようだった。私がいる限り、絶対に最下位にはならないと思ってのことだろう。彼らには余裕が見られる。しかし、その油断が命取りになることを彼らは知らない。
私は、ゴール手前20メートルまでは彼らとの距離を維持していた。そして、私は「俊足」のスキルを発動した。20~30メートル程であれば、私は誰よりも早く移動できるのだ。あっという間に私は彼らを抜き去り、何とか最下位を脱することができた。
呆然としている5人の貴族は、打ちひしがれている。私に抜かれたことに気付かないまま、5人一緒にゴールしたので、最下位が5人になってしまった。つまり欠点が5人というわけだ。
これで1日目の日程は終了した。
後は明日のドラゴンの試験で、デミドラが3種目の内1種目でも欠点を取らなければ、私たちは進級できるのだけどね・・・
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