7 進級試験
早いもので、竜騎士学校に入校して1年が経とうとしている。
訓練は地獄ではあったが、何とか食らいついている。近況を話すと大の苦手の長距離走は、何とか完走できるようにはなっていた。模擬戦のほうも勝てはしないが、多少はポイントを取れるようになっていた。問題はデミドラのほうだ。飛行訓練のスピードもアクロバット飛行もできず、地上走では未だに完走できていない。
先日学校側から通達があり、試験で3つ以上欠点があった場合は無条件で退校処分にするとのことだった。理由としては、真面目にカリキュラムをこなしていれば絶対に欠点が3つ以上出ることはないというものだった。誰よりも真面目に取り組んで、欠点ギリギリの私は本当に危険な状態だ。だけど、この決定を不安に思っているのは私だけではないようだった。
今日はお茶会なのだが、スピラから相談された。
「私たち平民はどうしても座学が苦手で・・・また基礎実習の試験前にやった合宿をしてもらえれば助かるんだけど・・・」
お茶会自体は以前と同じように多くの参加者が集まっている。スピラを筆頭にした平民の竜騎士15名と下級貴族の竜騎士8名に私とグラース王子を加えた25名が固定のメンバーだ。あまりいい傾向ではないのだけど、今期の学生はエリザベート王女派閥と私の派閥との対立構造ができてしまっている。教官の話でも、ここまで仲が悪い学生は珍しいと言うくらいだ。これ以上対立構造を助長したくはないのだけど、多くの平民たちを見捨てるわけにはいかない。
「分かったわ!!じゃあ合宿をしましょう。今回は2週間の長期休暇だから絶対に脱落者を出さないように頑張りましょうね!!そういう私が一番危ないんだけどね・・・」
★★★
そして、生き残りを懸けた合宿が始まった。聞くところによるとエリザベート王女の派閥も合宿を行うようだった。特に私は対抗意識を持っていないのだが、向こうの派閥はかなり私たちのことを敵意を持って接してくる。そして対立構造を煽るのだ。王女対公爵令嬢、貴族対平民というように・・・
合宿に話を戻すと今回は、欠点を取らないことを一番の目標に掲げて実施することにした。平民の竜騎士は、やはり座学が苦手で、座学を中心にカリキュラムを組んでいた。私はというと恥を忍んで執事のガイゼルに相談した。お父様やお母様に相談しなかったのは、過保護過ぎて対応に困るからだ。そんなことを言えば、騎士学校に乗り込んで、力ずくで試験内容を変更しかねない。
「なるほど・・・お嬢様は長距離走と模擬戦、デミドラは飛行関係と地上走が欠点になりそうですか・・・分かりました。お嬢様は私たち従者が指導いたしましょう。デミドラの指導はマレドーラにさせましょう」
マレドーラというのは、ハワード家にずっと仕えてくれている老ドラゴンだ。竜騎士のドラゴンを引退して、若手のドラゴンの指導や使用人たちのちょっとした用事に付き合ったりしてくれている。温厚で人間でいうところの好々爺だ。私も小さい頃はよく遊んでもらっていた。
ということで、それぞれのカリキュラムがスタートした。
私に課せられたのは、食事制限だった。これは今までの人生で一番辛い経験だった。メイド長のメアリーが言うには、体重が軽くなればそれだけで走るのが速くなるという。仕方なくこれには従った。
模擬戦についてだが、騎士団で剣術の指南役をしていたガイゼルに直接指導してもらった。ガイゼルはナウール王国でも有名らしく、模擬戦にはグラース王子も積極的に参加して、指導を受けていた。私の指導よりもグラース王子を指導するほうがガイゼルも楽しいようで、私は3日目から、一人で習った技をひたすら訓練するだけだった。今もガイゼルは楽しそうにグラース王子と打ち合っている。
「王子!!もっと速く!!素直な攻撃だけでは通用しませんぞ!!」
ちょっと怒りたくもなったが、そもそも目標が違うからね。
模擬戦はトーナメント形式で、1回勝てば欠点は無くなる。勝者の勝ち残りに対して、敗者の負け残りもあり、すべて負けると問答無用で欠点となる。私としては習った技を繰り出せば、1勝くらいはできるだろうと見ている。そしてグラース王子だが、本気で優勝を狙っているようなのだ。指導者とすれば、1勝を目標にしている者と優勝を狙っている者とでは熱の入れようが違う。実際、グラース王子は優勝候補だし。
そして問題のデミドラだが、様子を見に来たら驚愕の光景が飛び込んできた。
訓練なんてせずにマレドーラにこれでもかというくらい甘やかされ、大量のフルーツを食べていた。私は驚いて、マレドーラに苦情を言う。
「訓練はどうしたのよ!!欠点が3つあれば退校処分なんだからね!!」
『なんじゃ、カトリーヌか・・・そんなに怒るでないぞ。可愛い顔が台無しじゃ。それに3つの課題の内、一つでもクリアできればいいのじゃろ?だったら大丈夫じゃ。地上走では絶対に合格するからのう』
信じられない表情をしている私にマレドーラは更に言う。
『心配そうじゃからデミドラ。少し見せてやったらどうじゃ?』
『まあ、仕方ないわね・・・』
そこでも驚愕の光景を目にすることになった。驚いたけど、これなら多分大丈夫だ。
一通り目途がついた私は、安心してケーキを口にしようとする。するとケーキを持った手を専属メイドのマリアに掴まれた。
「お嬢様!!油断大敵ですよ。カリキュラムは最後までやり遂げなければなりません!!」
「そ、そうね・・・私としたことが油断していたわ。ケーキは試験が終わってから食べるとして、少し走ってくるわね」
みんな目標に向かって頑張っているのに、主催者の私が誘惑に負けるなんてありえない。深く反省しつつ、いつもより1周多くランニングをするのだった。
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