72 プロローグ
ゴブリン王国の建国から半年が経った。私たちは相変わらず、忙しい日々を過ごしている。
特に最近は各地で魔物被害が増え、通常の搬送任務以外にも魔物討伐任務に従事することが多くなった。
直轄特務隊は基本的には個人での活動がメインだ。まずスピラだが、いつも通りあちこちに飛び回っている。これは比喩ではなく、本当に忙しく飛び回っている。交流する国や地域が増えたのが大きな要因だ。彼女たちのスピードはどこに行っても重宝がられるからね。
続いてクレーテだが、基本的にはキーグ島での任務に従事している。
セイン川を使った交易が活発になったから、そちら方面の任務に就くことも多くなったけどね。
新規加入した覆面の竜騎士ことフレッド王子も忙しい。
交易が活発になり、街道整備の依頼がひっきりなしに届く。文句を言わず、黙々と任務をこなすので、かなり評判がいい。
それにマライアもフレッド王子に付きっきりだ。
当初は鬱陶しく思っていたフレッド王子だったが、最近ではマライアを評価している。
「マライアは交渉事をまとめるのが上手いな。俺とクレイはこんな性格だから、厄介な交渉事はしたくない。それを全部やってくれるから、多少は感謝している」
『そうだね。ダイアナがいれば、他のドラゴンも指示を聞いてくれるしね』
まあマライアは儀礼大臣の娘で、こういった交渉事は得意だからね。
そしてブーナとネルだが、色々な部署を研修で周っている。
1ヶ月前まではクレーテと一緒にキーグ島での任務に従事していたけど、ここ最近は暗部で研修を行っている。ネルは闇竜だから、本来はこういった活動がメインになるはずだけどね。
そんな感じで、定期報告をまとめていると、メイドのマリアから声を掛けられた。
「お嬢様、部隊員が集合致しました」
「ありがとう。すぐに向かうわ」
「それと、宰相閣下とグラース王子がお越しになっております」
今日は定例のミーティングの日だ。
部隊内で簡単な報告とお茶会を開くだけだけど、宰相閣下まで来られるなんて、何かあるのだろうか?
近況報告が終ったところで、グラース王子が深刻な面持ちで話始めた。
「実は最近、帝国との関係が悪化している。それに・・・」
ブーナがそれに続いて発言する。
「カトリーヌ隊長、どうか同胞を救ってほしいゴブ・・・」
一体、何の話をしているのだろうか?
話が見えてこない。
スピラが質問する。
「何の話?同胞を救うってどういうこと?」
「スピラ嬢、それは僕から話そう・・・」
グラース王子が言うには、私たちがセイン川の迂回工事を行ったことで、帝国は大打撃を被ったそうだ。
「文句を言われる筋合いはないと思っている。帝国だって勝手にダムを作って、多くのゴブリンたちを殺したんだからね。ただ表向きはそうは言えない。だからサンバル王国が勝手にやったことだと主張した。もちろん女王陛下の許可は貰っている」
「セイン川の迂回工事の件で帝国ともめているというのは把握しおりますが、それがどうつながるのでしょうか?」
「かなりデリケートな問題なんだが・・・」
協商連合のバックには、サンバル王国と竜王国がいることを仄めかしたところ、帝国は渋々引き下がったようだ。しかし、帝国の怒りが静まったわけではなかった。
帝国は帝国に住まう亜人種、特にゴブリンなどの戦闘力の低い種族をターゲットにして迫害を激化させた。最近ゴブリン王国に多数の移民がやって来たのもそれが理由らしい。ブーナの願いは、その迫害されているゴブリンを救出したいとのことだった。
「もちろん、その任務は引き受けますわ」
「気持ちは嬉しい。ただ、これはそう単純な話ではないんだ・・・」
ここで宰相閣下が話に入る。
「竜王国としては、国として関与することはできないのだ。それで相談なのだが・・・」
宰相の口から出たのは、衝撃の言葉だった。
マライアが声を上げる。
「流石にそれはあんまりですわ!!功績も残らず、失敗したら個人の責任だなんて、酷すぎますわ」
「私も副隊長として、承認できません」
「それはあんまりですだ・・・」
隊員たちが文句を言うのも分かる。
宰相の話を要約すると、迫害を受けているゴブリンや他の亜人種たちを救う任務を私たち直轄特務隊に依頼しに来たわけだが、その条件が酷すぎる。まず私たち直轄特務隊の隊員はすべて除隊として扱われ、竜王国との関係が一切なくなる。そのうえで、ナウール王国で私が商会長となるハワード商会を立ち上げ、隊員はその商会員となるとのことだった。これは表向きで、実際は暗部に配属となるようなのだけど・・・
「除隊理由は秘匿ということになる。そのため、あらぬ噂が立つかもしれんが・・・」
貴族は総じて噂好きだ。
除隊理由が明確でなければ、不祥事を起こしての除隊だと噂されるのは目に見えている。
「非人道的な依頼をしているのは十分に分かっている。しかし、これが我ら暗部のやり方だ。暗部の隊員は日の当たる道を歩けなくても、称賛を得られなくても、それが民のためになるのならと思って、やっておるのだ」
グラース王子が言う。
「僕もあまりにも酷いと思う。だから、そんなことはしたくないというのであれば、他の道も用意している。これがそのリストだ」
リストを確認すると、暗部への転属を拒めば、スピラは風竜隊、クレーテは水竜隊、マライアは近衛隊に正式配属となるようだ。しかし、私には配属先がなかった。
「私はどうなるのでしょうか?」
「婚姻をしてもらう。ハワード家の了解は既に取ってある。御両親は激怒しておったが・・・」
宰相閣下が言うには、国王陛下直々に事情を説明し、納得させるまで3日を要したようだ。
「相手は選べん。幸い、多くの者から婚姻の申し出が届いておる。一番国益に叶う者が選ばれるはずだが・・・」
グラース王子が言う。
「僕も婚姻の申し出をしている。できれば君と婚姻したいけどね・・・ただ、いきなり言われても困るだろうから、少しみんなで話し合ってほしい」
そうして、グラース王子と宰相閣下は退出した。
私は一体、どうすればいいのだろうか?
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