70 ゴブリン王国
とうとうセイン川の迂回工事が完了した。
完成までに約1年を要したが、この規模の工事としては異例中の異例の早さだ。
農地も広がり、それに合わせて周辺のゴブリンたちがゴブリン自治区に多く移住してきた。
人口もかなり増えた。覆面の竜騎士を中心にした水害対策もバッチリで、それも移住者が増えた原因だと言われている。
それに交易も活発になった。
竜王国以外とは、ほとんど交易をしてこなかったサンバル王国もセイン川を利用した交易を開始することになり、高品質のエルフやダークエルフの特産品が良心的な価格で取引されることになった。それに目を付けた多くの商人たちもゴブリン自治区に押し寄せ、町は更に発展を遂げている。
私はというと、ブーナの指導で大忙しだ。
というのも、ゴブリン自治区は飛躍的に発展したので、自治区ではなく国にしようという話が持ち上がった。これには様々な思惑があり、結局はゴブリン王国を建国することになってしまった。
一番の理由は帝国への牽制だ。
ブーナとネルは特例で竜騎士学校の卒業が認められた。つまり竜王国が正式に認めた竜騎士ということになる。そのブーナがいるゴブリン王国が協商連合に加盟するということは、それだけで大きな意味を持つ。何かあれば竜王国がバックにいると帝国に示せるからだ。
当然、竜王国も協商連合も戦争は望んでいない。だからこそ、牽制で戦争が防げればという思惑が一致している。
そういった事情なので、自治区のままでは体裁が悪いということになり、ゴブリン王国を建国するに至ったわけだ。
今もブーナは必死でダンスや社交関係のマナーを必死で覚えている。
「難しいゴブ・・・それに私が王女って・・・」
「兎に角、やるしかないわよ。建国祭まで時間はないし、覚えることは山ほどあるのよ。それに貴方は王女かもしれないけど、竜騎士でもあり、我が直轄特務隊の隊員でもあるのよ。だからこそ、失敗は許されないわ」
「分かったゴブ・・・」
少し厳しいようだけど仕方がない。外交関係での失点はしたくないからね。
★★★
建国祭が始まる。
努力の甲斐もあり、ブーナもそつなくこなしている。建国祭の式典に合わせて、ブーナの竜騎士学校の卒業証書も授与される。授与するのは副校長のエリザベート王女だ。
グラース王子が解説してくれる。
「この中には帝国の間者も紛れ込んでいるはずだ。だから、その間者に向けて竜王国との関係が良好であることを見せつける意味もあるんだ」
そのため、セリーナを筆頭に多くの同期生たちもやって来ている。これも演出らしい。
壇上では誇らしげに卒業証書を受け取るブーナがいた。
「ご卒業おめでとうございます。今後も民のためにパートナーである漆黒竜ネルと共に精進してください」
「はいゴブ!!」
漆黒竜?
私が疑問に思っていると、マレドーラから念話が飛んできた。
『闇竜は国家機密で表に出せんからのう。急遽、漆黒竜という竜種にしたのじゃ。まあ、竜王国以外では特に気にせんからのう』
そういった事情なのか・・・まあ、私のたちの隊は多種多様な竜種で構成されているから、特に問題ないけどね。
式典が終わり、晩餐会が始まる。
私はというと、今度こそ目立ってはいけないと思って、晩餐会が始まってすぐに会場から離れた。私が表に立たなくてもエリザベート王女がいるし、マライアが歌で盛り上げてくれるしね。
ただ、料理は豪華で美味しそうだったので、マリアに行って持って来てもらい、物陰でデミドラと食べることにした。
『美味しいわね』
「そうね。やっぱり交易が盛んな場所は美味しい物が多いのね」
そんな呑気な話をしていたところ、男女の言い争う声が聞こえてきた。
「お兄様!!もう戻って来られても、いいのではありませんか?お兄様が国王となることに誰も文句は言いませんわ」
「しかし・・・」
「しかしではありませんわ。これまでのお兄様の功績を考えると・・・」
気になって覗いてみる。そこに居たのは、なんとエリザベート王女と覆面の竜騎士だった。
状況から考えて、いつも通りに晩餐会から立ち去ろうとした覆面の竜騎士をエリザベート王女が呼び止めたようだ。
一体どういうことだろうか?
それにエリザベート王女が覆面の竜騎士のことを「お兄様」と呼んでいたし・・・
まさか・・・フレッド王子?
私の推測が正しければ、覆面の竜騎士はエリザベート王女とジョージ王子の兄のフレッド王子ということになる。
フレッド王子はほとんど公の場に姿を現さない人物として有名だ。噂では重病説や竜騎士としての能力が低すぎて表に出せないといった話もあった気がする。
そんな人物が目の前にいる。
私はそっとその場から立ち去ろうと思ったのだけど、状況があまり飲み込めていなかったデミドラが、クレイに念話を送ってしまった。
『クレイ、パーティー会場から料理を持って来てるから、一緒に食べましょうよ』
二人の視線が私とデミドラに向けられた。
私は居た堪れなくなって、二人の前に歩み出た。
「申し訳ありません。盗み聞きをするつもりはありませんでした」
覆面の竜騎士が言う。
「分かった。君には俺の秘密を打ち明ける。だから、他言は無用だ」
私だって覆面の竜騎士の秘密には興味はあった。
しかし、受け止めるには重すぎるわね・・・
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