56 学生の指導 2
~セリーナ・ウインドミッド視点~
名門ウインドミッド家の分家筋に生まれた私は竜騎士の才能があった。
お祖父様から受け継いだ風竜ウィルに乗り、幼い頃から厳しい訓練を受けてきた。風竜隊の訓練にも定期的に参加させてもらっているし、隊長直々に「将来は風竜隊のエースになれるぞ」と褒められたこともある。
そんな私が平民で竜騎士になったばかりの者から教えを請えと?
私が実習で指導を受けるのは、スピラという小柄な平民の女で、パートナーのドラゴンは雑種だ。
ドラゴンは基本的に同じ竜種で番う。稀に他の竜種と番うドラゴンもいるが、その子らは総じて能力が低くなる傾向にある。だからだろう、雑種は雑種同士で番い、更に能力が低くなる。ごく稀に優秀な雑種もいるようだけど、体つきを見るかぎり、そんなことはなさそうだ。ドラゴンにしてみたら、かなり小型の部類に入る。
ウィルもそう思ったようで、念話を飛ばしてくる。
『なぜ儂があんな小僧に教えを請わなければならんのだ?百戦錬磨のこの儂は、幾多の戦場で・・・』
ウィルの愚痴が続く。
ウィルは高齢のドラゴンなので話が長い。だが、実力は確かだ。数々の戦場を経験し、武功も上げている。因みに私がウィルの五代目の竜騎士になる。
『そう言わないでよ。まあ、お手並み拝見と行きましょうよ』
『まあ、セリーナがそう言うなら我慢してやろう』
指導員のスピラが、本日の実習内容の説明を始めた。
「じゃあ、今日は手紙を配送します。町に着くまでは集団で飛びますが、町では皆さんが個別に配送してもらいます。場所を間違えないようにしてくださいね」
これは私たちを怒らせることになった。
実習内容が、ただ手紙を運ぶだけだったからだ。
『もう我慢ならん!!この儂に飛び方でも教えるつもりか?』
『そうね。ちょっと分からせてあげたほうが、いいかもしれないわね?』
『そうだな。逆に小童どもを指導してやろう』
ウィルも同じ気持ちだったので、私はスピラの説明を遮って言った。
「スピラ副隊長、指導の前に貴方とそのドラゴンの実力を知りたいのですが?私は名門ウインドミッド家に連なる者で、こちらのウィルも百戦錬磨のドラゴンです。正直な話、貴方方に私たちを指導できる実力があるとは思えないのですが・・・」
スピラはため息をつきながら言った。
「分かったわ。模擬戦をしましょう。そちらは風竜だから空中戦でいいわね?」
「それで構いませんよ」
『儂に空中戦を挑むとはな・・・その勇気だけは褒めてやろう』
ウィルがそう言うのも分かる。
風竜に空中戦で勝てるわけがない。風竜は最速の竜種で、別名「空の帝王」とも言われている。風竜に勝とうと思うなら空中以外で戦うのがセオリーだ。だから横柄で粗暴な暴竜も絶対に空中戦は挑んでこない。
「じゃあ、行くわよ!!」
「望むところです!!」
私とウィル、スピラとそのドラゴンは空中に舞い上がった。
結果は・・・
★★★
スピラのドラゴンであるゲイルは尋常ではないスピードをしていた。それに小柄なだけに小回りも利く。アッという間に背面を取られ、喉元に剣を突きつけられた。
「私の勝ちね」
「まだまだ!!ちょっと油断をしてしまいましたわ。そうよね、ウィル?」
『そうだ。これからは本気で行くぞ』
しかし結果は同じだった。
何度も背面を取られ、喉元に剣を突きつけられた。それでも私たちは諦めなかった。
「もう時間がないのよ。これで最後よ」
「分かりました」
『もう我慢ならん!!我が奥義を見せてやる』
『ウィル、流石にそれは・・・』
『大丈夫だ。ちゃんと加減はしてやる。多少痛い思いをするであろうがな』
ウィルが言う奥儀とは、高火力の風魔法だ。ウィルと私は風魔法が得意で、近接戦よりも遠距離からの攻撃が得意だ。間合いを取りながら遠距離攻撃を繰り返せば、それだけでほとんどの相手は完封だ。竜騎士学校に入ってからは一度も使っていない。教官から「学生に使っていい技ではない。実習や訓練では近接戦で戦ってあげなさい」と指導を受けていたくらいだからね。
私とウィルは無数のウインドカッターを放った。
流石にすべて当てることはできないけど、逆にすべて躱すことはできない。それにあの小柄な体つきでは、一発でも被弾すれば、地上に落下するだろう。
しかし、予想外のことが起きた。
全ての攻撃を躱され、また背面を取られた。
「もう終わりよ」
「は、はい・・・」
地上に降りるとスピラに他の学生たちが群がっていた。
「副隊長!!凄いです」
「どうやったら、ああなれるんですか?」
「教えてください!!」
「そうね・・・その前にまずは任務を完遂しましょう。手紙搬送も重要な任務よ」
私とウィルはこれに従うしかなかった。
★★★
2日目からは地獄だった。
任務自体はなんてことはない。手紙を運んだり、都市を周って相場をチェックしたり、注文を聞いて周るだけだ。
しかし、スピードが異常だ。私を含め、ほとんどの者がついていくだけで必死だった。
「ちょっと!!もっとスピードを上げないと間に合わないわよ!!情報はスピードが命なのよ」
「そ、そう言われましても・・・」
一人の学生が言った。
「副隊長!!人数が多いのですから、手分けして周ればいいのではないでしょうか?私たちを信じてください。私たちも手紙の配送や相場チェックくらいはできます」
「それもそうね。明日からそうするわ」
これで幾分かは楽になったが、ウィルが落ち込んでしまう。
『もう儂は年齢かもしれん・・・引退も近いな・・・』
『ウィル、彼女たちが異常なのよ。あんなスピードのドラゴンなんて、風竜にもいないわ。だから元気を出して』
『うむ・・・』
実習10日目、私たちは最も厳しい任務に就くことになった。
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