5 幕間 怒れる王女様
~エリザべート・ドラーゴ視点~
私はエリザベート・ドラーゴ、15歳。竜王国ドラーゴの第一王女で二人の兄と弟一人がいる。王女は私だけなので、お父様にはかなり溺愛された。それに国民からの人気も高い。自分で言うのもなんだが、それなりに整った顔をしているとは思う。
そんな私にも目の上のたん瘤のような存在がいる。それは名門公爵家の令嬢カトリーヌ・ハワードだ。絶世の美少女と評判で、竜騎士としての能力もかなり高いという噂を聞く。なぜ噂だけかというとまだ会ったことがないからだ。普通ならば、同年代の同性である私と交流を持とうとひっきりなしにお茶会の誘いがあってもいいようなものだが、父親のハワード公爵が「娘は美しすぎるから、社交界に出れば大きな混乱を招く。混乱を避けるためにも娘は社交界に出さない」と公言していたからだ。
城内でも従者たちが噂話をしているのをよく耳にした。
「エリザベート王女もお美しいが、カトリーヌ嬢には敵わないようだぞ」
「それは俺も聞いた。美しさで失神するってな」
「流石にそれは尾ひれが付き過ぎだが、絶世の美少女ってのは間違いないらしい」
更に彼女の相棒となるドラゴンの話も我が相棒のクーニゲンから聞いた。
『噂の令嬢のドラゴンは、卵の中にいる状態から念話ができたらしいわよ。それに様々なドラゴンから多くの加護を受けているそうよ。私が聞いただけでも両親以外にも水竜、土竜、光竜、火竜、闇竜の加護があるらしいのよ。流石の私でも勝てないかもしれないわね・・・』
「そ、そんな・・・クーニゲンが勝てないなんて・・・・」
クーニゲンは光竜だ。特徴的な白い鱗は、見る者を魅了する。それもそのはずだ。ドラゴンで1番の美しさを誇る光竜の純血だからだ。光竜はその美しさから多くのドラゴンから求愛を受ける。なので、純血は非常に珍しい。光竜はどの能力も平均的に高いので王族が騎乗するドラゴンには打って付けでもある。聞いた話だと、光竜の純血を維持するのに、かなりの費用が掛かっているようだ。そんなクーニゲンと契約できた私もそれなりに竜騎士としての能力は高いと思っている。しかし、サラブレッド中のサラブレッドのクーニゲンが勝てないなんて、どれだけ凄いのだろうか・・・
いつの頃からだろうか、私はカトリーヌ嬢とそのドラゴンに大きな警戒心を抱いていた。私よりも美しく能力の高い竜騎士が、私のドラゴンよりも能力の高いドラゴンに騎乗するのだから・・・
私が王族でなかったり、彼女が女性でなければ、そこまで問題も生まれない。しかし、王女である以上は国で一番美しく、能力の高い女性竜騎士でなければならないのだ。
これでは、私は彼女の噛ませ犬ではないか!!
あるとき、選定の儀で実際に彼女の姿を見たというお父様に問いただした。
「カトリーヌ嬢はどのような方なのですか?そして、そのドラゴンは?」
「ああ、能力は高いようだ。卵の状態でも念話ができていたし、我の話にもキチンと受け答えしていたぞ。生まれたばかりとは思えんかった」
そ、そんな・・・やはり噂は本当だった。
「それで、カトリーヌ嬢はどのようなお方なのでしょうか?」
「そ、それは・・・・ハハハハ・・・まあ、特徴的なお姿だった。我としてはエリザベートのほうが美しいと思うがな・・・」
これで確信した。お父様は私に気を遣ってそのように言葉を濁したのだ。考えてみれば選定の儀の夜、お父様は晩餐会をキャンセルして、すぐに帰還された。従者の話ではかなり落ち込んでいるようだった。
多分、カトリーヌ嬢が美しすぎたのだろう。絶対に私では敵わないということだ。
★★★
時は経ち、私も竜騎士学校に入校することになった。入校生代表としてスピーチをした私は他の学生と別行動だったのだが、パッと見た感じでは、絶世の美少女はいないと思われた。
まさか、竜騎士学校に入校しないつもり?
そうではなかった。彼女は聞いた話と全く違っていたのだ。
「エリザベート王女殿下、お初にお目に掛かります。私はカトリーヌ・ハワードでございます。以後お見知りおきを」
挨拶に訪れた彼女を見て絶句した。
どこが絶世の美少女なのだろうか?世間の目は腐っているのか?
確かに黒髪に黒目で、整った顔立ちはしているようだが、太い!!太すぎる!!
もはやデブだ!!デブリーヌだ!!この年齢で既に0.1トンの大台を突破しているのかもしれない。
そして彼女のドラゴンもこれまた酷い。もはやドラゴンと呼べる姿ではない。巨大なガマガエルと言ったほうがいいかもしれない。ドラゴン特有の羽と角が無ければ、ドラゴンとして認定されなかっただろう。流石のクーニゲンも予想外だったらしく、驚いていた。
『こ、これがドラゴン?同じ竜族として、こっちが恥ずかしい・・・』
これで謎が解けた。お父様が急遽、選定の儀の晩餐会を欠席したのも、期待していた竜騎士とドラゴンがこんな有様だったことが、ショックだったからなのだろう。私は一体何に怯えていたのかと逆に腹立たしくなってしまった。
更に私の神経を逆なでるのは、彼女が、何かにつけて美少女ムーブをするところだ。決してそんな風体ではないのに美少女設定で押し通すのだ。これには開いた口が塞がらない。
それに人気を計るバロメーターとなるお茶会があるのだが、彼女が主催するお茶会は平民たちからは、大人気だった。その原因を探ろうとこっそりと覗いてみると、お茶会と呼べるようなものではなかった。品位の欠片もなく、男子に交じって、女子が大きな塊の骨付き肉を貪っているし、スープにパンを丸ごと突っ込んで食べている者さえいるのだ。
更に許せないことにワザと私の主催するお茶会に彼女の主催するお茶会をぶつけてきたのだ。それで、私が「少しいいな」と思っていたナウール王国のグラース王子も彼女のお茶会に行ってしまった。後で聞いた話だが、グラース王子が彼女のお茶会に参加することに決めたのは、故郷の魚料理が食べられると聞いたからだ。
私が彼女を呼び出して注意しても全く聞く耳を持たない。もっと品位を持つように言ったのだが、私がグラース王子を盗られた的な意味で理解されてしまった。そういう気持ちもなくはないが、私としては他国の王子に品位がないような行いを見せるなと言っただけなのに・・・
「何を失礼な!!貴方は、鏡で自分の姿を見たことがありますの?」
気づいたら怒鳴っていた。容姿をあげつらうなんて最低なことなのに・・・
それからも彼女の空気を読まない美少女ムーブは止まらない。基礎実習の成果を計る試験がそれだ。この試験は伝統的に平民が不利なようにできている。これは王族しか知らない事実だが、そのようになった経緯は貴族たちの溜飲を下げさせるためでもある。竜騎士は完全な実力主義だ。能力により平民が上官となることもある。だが、ある程度の貴族としての威厳を保つために最初の試験くらいは貴族が上位を独占する状況を作っているのだ。
そして合格点を取れずに、補習なんかで困っている平民をしっかり指導するように貴族たちを誘導する。その結果、お互いが協力して頑張ろうという雰囲気を作るのだ。兄二人もこの方法で上手くいったようで、平民からも貴族からも慕われているのだ。
しかし、あろうことか彼女はその伝統をぶち壊した。家の権力を総動員して、試験の上位を平民に独占させるなんてあり得ない!!それに私は平民のド田舎出身の女に順位で負けてしまった。これでは王族の威厳もないではないか!!
もう許さない!!
このままでは、この国の伝統が崩れてしまう。今はまだ学生だからいいが、彼女が正式に竜騎士となれば、絶対に国が崩壊してしまう。彼女を竜騎士にさせないことが、私の王族としての使命なのだ。もちろん暗殺や陰湿ないじめなんかはしない。合法的なやり方はいくらでもあるのだ。
まあ、作戦の一つはカリキュラムを変えることだ。彼女の長所と短所は把握しているから、卒業できない点数制度にすることは可能だ。
見てなさい!!勘違いデブ女!!王女自ら鉄槌を喰らわせてあげるわ!!
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