40 幕間 悩める歌姫
~マライア・ヒューストン視点~
私は幼少期から歌の才能がありました。
そして、運がいいことにその才能を伸ばし育むのに最適な環境で生まれ育ちました。私の実家である名門ヒューストン伯爵家は代々儀礼大臣を務める家系で、多くの文官や芸術家を輩出しております。私も幼少期から様々な芸術に触れ、勉学に励みました。
私が国民的人気歌手になれたのは、三つの要因が挙げられます。
一つはもちろん歌の才能です。私は生まれつき魔力量が多く、歌に魔力を乗せて聴衆を盛り上げたり、反対に切ない気持ちにさせることができました。
二つ目は容姿です。
それなりに整っているとは思いますが、竜王国三大美少女と呼ばれるほどではないと思っています。まあ、お手入れには気を遣っていますし、衣装も華やかな物を厳選しておりますから、同じレベルの容姿であれば、私のほうが相対的に勝つのでしょう。
そして三つ目にして、最大の成功要因は分析力と対応力です。
これは長年儀礼大臣を務めてきたお父様とそのサポートをしてこられたお母様の影響が大きいのです。お父様は常々こう仰られていました。
「誰のために歌うか常に意識をしなさい。楽しい気持ちになりたいときに悲しい歌ばかり聞かされたら嫌だろ?我がヒューストン伯爵家が芸術に力を入れているのは、何も芸術が大好きだからではない。もちろん嫌いではないが、それは目的達成のためだ。この国を強く豊かにするためには竜騎士の武力だけでは駄目だ。交渉事を上手くまとめるには、私たちのような者が必要だ」
それで私は幼い頃から常に聴衆を観察し、聴衆が喜ぶであろう曲を選択するようにしておりました。
竜騎士の貴族のパーティーでは、主にその先祖の英雄譚を。貴族令嬢の誕生会では、主賓のご令嬢の美しさや人柄を称える歌を歌いました。
そうした結果、様々な貴族の支援を受けて今の地位まで登りつめたのです。
このまま歌手として生きていくのだと思っていましたが、13歳の時に転機が訪れました。
お庭で歌の練習をしていましたら、一匹の白く輝く美しいドラゴンが目の前に現れたのです。
「き、奇麗・・・美しいですわ・・・」
思わず、声が出ました。
すると不思議なことにそのドラゴンの思いが伝わってきたのです。
『貴方の歌をもっと聞かせてよ』
かなり混乱しましたが、私の歌を気に入ってくれて嬉しく思いました。
「どんな歌を歌えばいいのかしら?」
『貴方が歌いたい歌を歌ってよ』
「では、私たちの出会いを祝福する歌を歌いましょう」
これがダイアナとの出会いでした。
それからダイアナはちょくちょく私の前に現れました。
段々と仲良くなり、個人的な会話もするようになりました。
『私の竜騎士候補は面白味のない奴ばかりだわ。もっと楽しい人がいいんだけどね』
「まあ、そう言わずに。今日も楽しい歌を歌いましょうね」
『そうだ。ちょっと一緒に飛んでみない?』
「えっ!?」
驚きましたが、ダイアナに言われるがまま背に乗りました。
感動の体験でした。地上に戻るとすぐに感動を歌にしました。
「大空を翔る~♪美しく気高いドラゴン~♪ダイアナ~♪」
『いいわね、その歌。もっと歌ってよ』
それからはもっとダイアナと仲良くなりました。
来るたびに空の散歩をすることになりました。時には王都を離れ、見知らぬ町に降り立ち、驚く民衆を前に歌を歌いました。若気の至りとはこのことでした。その時は覆面をして歌えばバレないと思っていました。
「楽しかったですわ!!みんな驚いましたわ」
『そうね。こんな楽しいことは初めてよ』
しかし、そんなことが続くはずがありません。
私とダイアナは近衛隊に拘束されました。お父様とお母様と共に大変なお叱りを受けました。なぜここまで大騒ぎになったかというと、ダイアナは光竜という大変珍しい竜種で、王家が手塩にかけて育てていたドラゴンでした。そんなダイアナと私が勝手に契約してしまっていたのです。知らなかったとはいえ、これは重罪に当たるとのことでした。
結局、私の処遇については国王陛下に一任されることになりました。
そして・・・
「ヒューストン伯爵家のこれまでの忠義には感謝している。マライア嬢、貴殿の竜騎士としての活躍を期待している」
「国王陛下!!娘は竜騎士はおろか、剣も持ったことがありません。どうかご再考を」
私は国王陛下が仰っている意味が分かりませんでした。お父様は分かっていたようでしたが・・・
「儀礼大臣、これは仕方がないことだ。そうでなければ、必死に竜騎士になろうと努力してきた騎士たちが不憫でならん。それにダイアナの飼育係やその責任者を処罰すればいいのか?」
「そういうわけでは・・・」
「マライア嬢は厳しい選抜試験に合格し、光竜ダイアナと契約を結んだ。つまり、そういうことだ。分かるな?」
「御意・・・」
こうして私は、よく分からないまま竜騎士見習いとなり、竜騎士学校に入校することになったのでした。
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