32 エルフの里 2
いきなりエルフの族長がマレドーラに抱き着いたことで、私たちだけでなくエルフたちも困惑している。
そんなことは無視し、エルフの族長とマレドーラは親しげに話をしていた。
「マレドーラは元気だった?」
『うむ。年老いたが元気じゃ』
「ところでアベルさんは?今度里に来たら、一緒に空を飛ぼうって約束してたんだけどね」
『もう何百年も前のことじゃが・・・アベルはこの世にはおらん・・・」
「そう・・・」
話を聞くかぎり、アベルというのはマレドーラの何代か前の竜騎士のようだった。
話が見えてこないので、私が会話に入る。
「マレドーラ、こちらの族長さんとは知り合いなの?」
『そうじゃ。色々と縁があってな・・・』
その昔、世界的に魔物が大量発生したことがあったそうだ。
その時、アベルとマレドーラがこの里付近の魔物討伐任務に就いていたらしい。
「マレドーラとアベルさんの活躍で、この里は救われたのよ。本当に凄かったのよ」
エルフの族長は子供に戻ったように楽しそうに当時のことを語ってくれた。
『リリよ。お前が好きだったフルーツを持って来てやったぞ』
「嬉しいわ。一緒に食べましょうよ」
『うむ。肉もあるし、酒もある。リリも酒を飲める年齢になったか?』
「もう私は立派な族長よ」
『そうか。時の流れは早いものだな』
しばらく会話を続けてきたのだが、族長は私たちに向き直って言った。
「マレドーラの連れということで、特別にもてなしてやる。ついて参れ」
『リリが族長のようなことを言っておるな』
「ちゃんとした族長になったんだからね」
よく分からないけど、私たちはエルフの里に迎え入れられた。
サンドラ王女が小声で言う。
「上手く里に入ることができたわ。建国以来、エルフの里に入った者はいないのよ。たとえ王家でもね」
ケルも念話で話しかけてくる。
『マレドーラ殿は、私と違って実力でエルフの里を救ったみたいですね。このことを軸に交渉を進めれば、何とかなるかもしれません。交渉相手を族長に絞り、昔話を中心に・・・』
交渉の計画を立ててくれていた。これにはサンドラ王女もタヌーカさんも同意した。
宴が始まると、デミドラやゲイルが子供たちの相手をしている中、私はマレドーラの傍らでエルフの族長との会話を聞いていた。
『儂も生い先短い。もうこれ以上、竜騎士を見送るのは耐えられん。じゃから竜騎士のドラゴンは引退したのじゃ』
「そうか・・・私たち長命種の宿命ね」
『うむ。理解はしておるのだがな。まあ、そんな儂も残された時間は少ないし、悔いは残さないようにここに来たのじゃ』
そんな話を聞かされた私は、マレドーラに抱き着いていた。
「嫌よ、マレドーラ。そんなこと言わないで・・・」
『カトリーヌや。心配はせんでもよい。後300年、いや頑張れば500年程は生きてやるからな』
「そ、そうなの・・・」
やはり長命種のドラゴンは時間感覚が私たちとは違う。心配して損したと思う。
「だったら私がマレドーラの竜騎士になってあげるわ」
『ほう・・・あのリリが竜騎士とな。ではちょっと試してみるか?』
「望むところよ」
『では儂に乗るがいい。ただし、怖くてお漏らしなんかはするなよ』
「いつの話よ!!じゃあ、行くわよ」
族長は嬉しそうにマレドーラに飛び乗り、マレドーラは族長を乗せて、空に飛び立ってしまった。
しばらくして帰ってきたマレドーラが言う。
『では儂はリリに看取ってもらうことにしようかのう。引退は撤回して、最後のお勤めをしよう』
「分かったわ。じゃあ・・・」
宴の途中で、族長はエルフたちを集めた。
「皆の者、よく聞け!!我は族長を引退する。そして、一介の竜騎士として活動する。里のことは頼んだぞ」
エルフたちは困惑している。
そして、スピラも・・・
「カトリーヌさん、竜騎士っていくら他国であっても竜騎士学校に入校しないといけないんじゃなかったかしら?それに私たちも即報の義務があるし・・・」
そういえば、そんなことを竜騎士学校で習った気がする。
ドラゴンと契約を結んだ者を発見した場合は即報するのが、竜騎士の義務なのだ。
「即報は必須ね」
「この雰囲気で、手続きを説明するのは無理っぽいから、私がゲイルと一緒に国に報告してくるわよ。多分、それが一番早いしね」
そう言うと、スピラはゲイルと共に飛び立った。
★★★
次の日、スピラがバラック教官とグラース王子を連れてやってきた。
バラック教官が説明をしてくれる。
「検討の結果、リリアーネ様を竜騎士学校の教官として招くことになった。流石に何百年も生きているエルフの族長を一般の竜騎士と同じカリキュラムで学ばせるなんて、できないからな。この案はグラース王子が提案してくれたもので、上層部も感心していたよ」
グラース王子が話を引き継ぐ。
「カトリーヌ嬢の活躍は竜王国でも話題になっているよ。そして我がナウール王国の発展に尽力してくれて、改めてお礼を言うよ」
「まあ、大したことはしてませんわ」
グラース王子に褒められると嬉しくなる。
リリアーネ様にこのことを話すと渋々だが了承してくれた。
「仕方ないわね。そういうルールなら従うわ。それとグラース王子、これから同僚となるんだからよろしくね」
実はグラース王子は竜騎士学校の助教をしているらしい。
竜王国との友好関係を強固なものにするためだそうだ。
「それとカトリーヌ嬢とスピラ嬢にはいい話を持って来たんだ。バラック教官、もう伝えてもいいでしょうか?」
「ああ・・・構わないぞ。その件でも少し相談があるからな」
一体どんないい話なのだろうか?
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