29 ドワーフの里
餓狼族の里から戻った私たちの次の任務はドワーフとの交渉だという。
ドワーフの里は獣人の里から少し離れた山にある。ドワーフは全般的に筋肉質でずんぐりとした体型で、鍛冶が得意で酒好きの種族だ。そういう私のハルバードと全身鎧も竜王国のドワーフが作った物だ。サンドラ王女やタヌーカさんが是非とも取引きしたい気持ちはよく分かる。
これまでの交渉状況をタヌーカさんから聞く。
「ドワーフは少し排他的なのよね。技術が高い割に物欲はあまりないから、そこまで積極的に交易をしたいわけじゃないみたいなのよ。年に何回かは貴族からの大口注文を受けるだけで成り立っているみたいだからね」
サンドラ王女が引き継ぐ。
「でも国の発展には、彼らの力が必要なのよ。今までは相手にもされなかったけど、今回は違うわ」
サンドラ王女が自信満々に言うには訳がある。
何度もドワーフの里に足を運び、交渉を重ねた結果、ドワーフの族長にこう言われたそうだ。
「儂らと定期的に取引きしたけりゃ、ミスリル鉱石でも持って来るんだな。それを加工してやるくらいはしてやる」
途方に暮れていたサンドラ王女だったが、餓狼族と交渉が成立し、ミスリルを含む希少鉱石が確保できるようになった今、希望の光が見えたようだ。
早速、私たちはサンドラ王女、タヌーカさんとタヌタヌ商会のスタッフと共にドワーフの里に出発した。
ドワーフの里の中央の広場に着陸する。すぐに多くのドワーフたちが私たちを取り囲んだ。まあ、この国でドラゴンは珍しいから、こうなっても仕方がない。
サンドラ王女が族長に挨拶をする。
「ゴムラズ族長、お久しぶりです」
「うむ。それでそちらの者たちは?」
「竜王国ドラーゴからの留学生です。二人とも竜騎士で、約束のミスリル鉱石の運搬を依頼したのです」
「わ、分かった・・・早速確認しよう」
すぐにドワーフたちが私たちが持って来た鉱石の確認を始める。
すぐに驚きの声が上がる。
「こ、これは・・・間違いなくミスリルだ」
「少量だが、アダマンタイトやヒヒイロカネもあるぞ」
「うむ・・・純度も高いな・・・」
サンドラ王女が言う。
「ゴムラズ族長。これで約束は果たしたと思うのですが?」
「う、うむ・・・」
そんな時、一人のドワーフの女性が声を上げた。
「父上、いくらミスリル鉱石を持って来たからといって、嘘つきの人間たちと取引きすることはありません。私たちは今までどおり、信用のおける少数の者たちとだけ取引きすればいいのです」
「ゴレア!!口を慎め!!
娘が申し訳ない・・・これには事情が・・・」
族長の家に案内され、詳しい話を聞く。
「儂らは以前、帝国領で暮らしていたのが、そこでは奴隷のような扱いをされていた。それもこれも悪徳商人に騙されたことが原因だ。雀の涙ほどの金額で大量の武器を作らされ・・・」
私も帝国の噂は聞いている。
亜人や獣人に対して、差別的な扱いをしていることは有名だ。族長の話だと、悪徳商人も帝国の息の掛かった商人ではないかとのことだった。
「それで意を決してみんなで、ナウール王国に逃げてきたのだ。ナウール王国には儂らの居住と自治を認めてくれたことに感謝している。しかしゴレアのように人間自体を憎む者も多くいるのだ。というのもゴレアの母は・・・」
ゴレアの母、族長の奥さんは逃げる途中で帝国軍の襲撃に遭って命を落としたそうだ。もちろん命を落としたのは族長の奥さんだけではなかった。
そんな話を聞くと、流石に無理に交易をすることはできない。
「分かりました。そういう事情でしたら、交易の話は時間を掛けて話合いを続けていきたいと思っています」
「申し訳ない・・・ただ、今回持って来た鉱石については、こちらで加工をさせてもらおう。あそこまで質の良い鉱石を見るのは久しぶりだからな。随分と勝手な話だが・・・」
「今回はそれで構いません」
タヌーカさんが会話に入る。
「私もそれでいいと思うわ。それにいい鉱石が手に入った時だけ、その都度交渉して取引きするかどうか決めるのはどう?そんなことを繰り返しながら、信頼関係を高めていけばいいんじゃないかしら?」
「そうだな・・・」
「そうですね・・・とりあえずは一歩前進といったところでしょうか・・・」
まあ、ここら辺が落とし所だろう。
族長との話を終え、私たちが帰路に着こうとしていた時、ドワーフたちが大勢で付近の森から木を伐採していた。サンドラ王女が族長に尋ねる。
「ミスリルを精製するには大量の薪が必要だからな。だから鍛冶仕事をする前に薪を用意しておるのだ。鍛冶仕事が始まるとみんな夢中になるから、生活に使う薪が無くなってしまうからな」
それくらいなら私たちも手伝えるかもしれないと思い、提案する。
「サンドラ王女、私たちに手伝わせてください。族長さんもいいですわね?」
「有難い話だが、いいのか?」
「もちろんですわ。少しでも信頼関係を築きたいと思いますしね」
私は作業しているドワーフたちに説明し、手伝う旨を告げる。
「華奢なお嬢さんたちには無理だと思うが・・・」
「そうだ。気持ちは有難いが・・・」
「大丈夫ですわ。こう見えて、力は強いほうですわ」
作業を開始する。
まず、デミドラが木を草を抜くように根っこから引っこ抜き、それを私がハルバードで薪にしていく。
ドワーフたちが苦労して木を切っていたが、私たちが加わってから、あっという間に作業が終わってしまった。
「信じられん・・・」
「ハルバードに魔力が付与してあるのかもしれんな」
「お嬢さん、ちょっとそのハルバードを見せてくれ」
快くハルバードを見せた。
「このハルバードは我が竜王国ドラーゴのドワーフが作ったものです。よろしければ、同じくドワーフが作った全身鎧をお見せしますよ」
興味津々で、ドワーフたちが私の装備を観察し始める。
「凄いな。なかなかの名工が作ったに違いない」
「技術的には難しいものはないが、丁寧に作っているな」
「それにしても、お嬢さんはよくこんな重い物を持てるな・・・」
ケルが念話で話しかけてくる
『カトリーヌ様、いい流れです。このまま交流を深めましょう』
早速、サンドラ王女やタヌーカさんがドワーフたちに話し掛けていた。
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