28 宴
現場に着くと、スピラの報告のとおり、大きな木に餓狼族たちが避難しており、グレートボアの群れがその木に体当たりしている。
私とデミドラはグレートボアの群れの真ん中に降り立った。一斉に5匹のグレートボアが突進してくる。
「右は私、デミドラは左をお願いね。宴のご飯にしようと思うから、奇麗にお願いね」
『分かったわ。BBQと鍋にしましょう』
私は向かってきた3匹のグレートボアの突進を楯で受け止め、ハルバードで首を落していく。我ながら、血抜きも完璧だ。デミドラはというと、2匹のグレートボアを前足で受け止め、その前足で首を引きちぎり、逆さ吊りにしていた。
「デミドラ、こっちのグレートボアも血抜きをお願い」
『任せて』
しばらくして、木の上から餓狼族たちを救出したサンドラ王女とスピラが声を掛けてくる。
「グレートボアが・・・こんなにあっさり・・・」
「カトリーヌさん。1匹残してくれるって言わなかった?」
「ごめんなさい。ちょっと勢いで・・・」
「まあいいわ。次はお願いね」
そんな話をしているところに先程のグレートボアとは比べ物にならないくらい大きなグレートボアが怒り狂ってやってきた。
サンドラ王女が叫ぶ。
「気をつけて!!群れのボスよ。これまでのグレートボアとは比べ物にならないくらい強いわよ」
私とデミドラが臨戦態勢を整えて、群れのボスの向かっていこうとしたところ、スピラに止められた。
「ここは私に任せて。私たちだって、訓練を積んできたんだからね」
スピラはそう言うと、ゲイルに騎乗して群れのボスに猛スピードで向かっていく。
正面衝突しそうになったところで、ゲイルが急上昇した。正面衝突すると思っていた群れのボスは肩透かしをくらったようで、急上昇したゲイルを見上げている。そして・・・
「グギャ!!」
それは群れの主の断末魔の叫びだった。
急上昇したのはゲイルだけで、スピラはゲイルと一緒に急上昇すると見せかけて飛び降り、群れの主の腹に潜り込んだ。そして、グレートボアの弱点である腹から刺突剣で心臓を一突きにしたようだ。
「スピラもゲイルもやるわね」
「スピードなら負けないからね」
『結構、練習したんだよ』
スピラもゲイルも成長している。
竜騎士学校時代は、戦闘関係の科目は得意ではなかったようだけど、陰で努力をしていたようだ。
「じゃあ、早速下処理をしましょう。宴に持って行けば、喜ばれるでしょうしね」
「そうね。運搬は・・・任せていい?」
『もちろんよ』
そんなやり取りをしているところに餓狼族の族長が近寄って来て、跪いた。
「竜騎士殿、我らを救ってくれて、礼を言う。竜騎士殿にグレートボアの運搬までさせては、申し訳ない。こちらで運ぼう。盛大なもてなしをしたい」
私は「気にしなくてもいい」と伝えたけど、固辞された。
ケルが間に入ってくれる。
「ルミナよ。これだけの量は食べきれないし、処理も大変だろう。新たにできた市場から人を連れて来させて、処理させよう。余った分は買取りもしてくれるだろう」
「ケルベロス様、何から何まですみません」
「うむ」
ケルが念話を飛ばしてくる。
『宴にかこつけて、他の獣人たちと交流を持ってもらいましょう。それとなく、交易の話に持って行ってもいいかもしれませんよ』
『流石はケルね。それで行きましょう』
それから私はデミドラに乗って、タヌーカさんと共に市場まで戻り、多くのスタッフとメイドのマリアを連れて餓狼族の里まで戻った。マリアが言う。
「お嬢様のために料理長から料理を習ってきましたからね。今日はその成果をお見せいたしますね」
「ありがとう、マリア。楽しみにしているわ」
マリアも成長しているようだった。
★★★
宴は大盛り上がりだった。
一番人気はもちろんケルだ。ケルが指示して、グレートボアを討伐したという話になっているようだった。まあ、そちらのほうが話が上手くいくなら、それはそれでありかもしれないと思った。
ケルが念話を飛ばしてくる。
『族長は、獣人たちと旧交を温めています。子供の頃にタヌーカさんたちと交流があったみたいですからね。自分もそれとなく、交易が上手くいくように話をもっていきますよ』
『ありがとう、ケル』
『そういうことなので、カトリーヌ様は宴を楽しんでください』
言われなくても十分楽しんでいる。
マリアが作ってくれた料理はどれも美味しく、餓狼族たちも大絶賛だったしね。
宴の盛り上がりも最高潮を迎えた頃、族長が広場の中央に歩み出て、声を上げる。
「皆の者!!よく聞け!!
まずはケルベルロス様に感謝を。一度ならず二度までも我らを救っていただき、感謝を申し上げます。そして竜騎士殿、貴殿らにも感謝を」
そこで一旦話を切る。
「我らは礼をせねばならん。そのことをケルベロス様に相談したのだが、偉大なるケルベロス様は『獣人たちと交流を持ち、共に発展せよ』と仰られた。我らも変わる時期が来ているのだと思う。よって、限定的だが、他の獣人たちと交易を再開しようと考えている」
これに反対意見は出なかった。
話を終えた族長にタヌーカさんが声を掛ける。
「また一緒にお話したり、ご飯を食べたりできるのね?」
「ああ・・・いきなり昔のようにはいかないが、そうなるだろう」
「じゃあまた、よろしくね」
「うむ」
タヌーカさんと族長は抱きしめ合っていた。
そんな光景を見ていたところ、サンドラ王女が声を掛けてきた。
「本当にありがとう、カトリーヌさん。こんなに上手くいくとは思わなかったわ。グラースに言われた時は半信半疑だったけどね」
「グラース王子は私のことを何と言っていましたか?」
「それはね・・・『世界を変える竜騎士だ』ってね」
詳しく聞いたところ、私たちを受け入れるのに、それなりに反対意見もあったという。それでも、グラース王子が強く主張したため、私たちの留学が決定した経緯があったようだ。
「ところでカトリーヌさんは、婚約者とかいるの?」
「いませんわ。お父様もお母様も厳しくて・・・」
「そう・・・じゃあ、グラースにもチャンスがあるってことね?」
「そ、それは・・・」
どうやら私は、グラース王子に想い人のようだ。
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