26 獣人の里
次の日出勤すると、サンドラ王女が既にタヌタヌ商会に来ていた。
「最初だから、私も同行するわ。政治的な理由もあるしね」
これは国家プロジェクトだ。王族が同行するのも当然だろう。元祖タヌタヌ商会は国営の商会と言ってもいいくらいだしね。
「自由な商業活動が基本だけど、国内の商会を保護しないとモダリア帝国の商会に乗っ取られるからね」
サンドラ王女とお喋りをしていたところにスタッフさんが呼びにきた。積み込みの準備ができたらしい。倉庫前の広場に案内された。そこには山のような積荷が用意されていた。タヌーカさんが言う。
「本当にこの荷物を1回で運べるの?それに加えてスタッフ10人もだなんて・・・」
「大丈夫ですよ。デミドラ!!巨大化!!」
『はいはい』
デミドラの特殊能力、巨大化だ。今のところ全長30メートルくらいになれるのだ。私とスタッフさんで、どんどんと積荷をデミドラに積み込んでいく。タヌーカさんが言う。
「積み込みはできたけど、落ちないか心配だわ」
「それは大丈夫です。魔力で保護してますからね」
竜騎士がドラゴンに騎乗するのに鞍は使用しない。お互いが魔力を出し合って、魔力で結合するからだ。積荷の場合はそこまで結束は強くないけれど、ドラゴンが魔力で固定するので、激しい戦闘にならないかぎりは大丈夫だ。
積み込みを終えた後にスタッフさんとタヌーカさんを乗せて上空に飛び立った。
「風もないし、寒くないわ!!」
「凄い!!町があんなに小さい!!」
「思った程、揺れないわね・・・」
専用の座席に座ったスタッフさんが口々に言う。
「まず、ドラゴンは羽を動かして飛んでいるのではありません。魔力で飛ぶんですよ。羽はあくまで補助ですわ。飛行中は魔力で結界を張ってくれているので、竜騎士や中の積荷を保護してくれるているのですわ。理論上、水中でも活動できますが、魔力は多く消費しますわね」
「本当に凄いわ・・・騎乗体験でお金を取ったら、かなり儲かるかも?」
発想が商人のそれだ。
サンドラ王女に先導されて、飛行すること約1時間で、目的地に着いた。森の中を切り開いてかなり大きな平地が作られていた。ゆっくりと着陸する。すぐに獣人たちが近寄って来た。サンドラ王女とタヌーカさんが獣人たちと打ち合わせをしていた。しばらくすると私とスピラも呼ばれた。
サンドラ王女が言う。
「獣人たちとの交易の為に開発したのよ。実際は木を切って、更地にしただけだけどね。ここに定期的に獣人たちが集まって、市場にしようと思っているのよ。そうなれば発展するし、獣人たちの食料問題も解決するからね」
もし失敗したら、畑にするとのことで、獣人たちも協力してくれたそうだ。
虎獣人の代表が言う。
「ようこそ、お越しくださいました。それにしても、この量の積荷を1回で運べるなんて凄すぎる・・・」
「そうなのよ。いい人材をスカウトできたと思うわ。それじゃあ、早速やりましょうか!!」
私たちはスタッフさんを手伝い、積荷から商品を取り出して、並べていく。他の獣人たちもそれぞれの商品を並べていく。あっという間に市場が完成した。
私はというと狸獣人だけでなく、熊獣人の子供たちにも囲まれていた。
「僕も竜騎士になれるかなあ?」
「モフモフさせて!!」
抱き着いてくる子もいる。獣人にも私は大人気のようだ。私くらいの美少女になると、獣人にも人気らしい。
市場は大盛況だ。
その脇で、サンドラ王女、タヌーカさん、各部族の代表者たちで今後について話し合っていた。
「大盛況で何よりです。早速、定期開催を望む声が多く上がっています。それにここに常駐する者も決まっていますから、町として発展するかもしれませんね」
「そうなれば、王家としても嬉しいかぎりよ」
「でも、餓狼族の姿がないということは・・・」
「申し訳ありません・・・説得は続けていたのですが・・・」
気になり、声を掛ける。
「何かトラブルでも?」
サンドラ王女が答える。
この付近の獣人たちで、この市場に参加していない部族が一つだけあるそうだ。狼獣人の部族で、餓狼族というらしい。餓狼族の居住区には、魔石やミスリルなどの貴重な鉱石が産出されるので、是非とも参加してほしいとのことだったが、どうやら参加していないみたいだ。
獣人の代表者が言う。
「過去に色々とありましたからね。私たちが逆の立場でも、同じようなことを思ったかもしれません」
「それはお互いに事情があったことで・・・それに50年以上前のことだし・・・」
どうやら、過去に因縁があるようだ。
サンドラ王女が言う。
「一応、話だけはしに行きましょう。期待は薄いけど、行かなかったことで怒らせてもいけないしね。それに空を飛んで行けばすぐだし」
市場から餓狼族の里までは、空を飛んで行けば10分くらいで行けるそうだ。市場はスタッフさんに任せ、私たちは餓狼族の里に向かうことになった。
サンドラ王女が言う。
「50年程前だけど、この付近でスタンピードがあってね。獣人たちが危機を迎えていたのよ。獣人たちは私たち王家に助けを求め、里を捨てて、避難することを選んだの。でも餓狼族だけは、最後まで戦うことを主張した・・・」
一度サンドラ王女は言葉を切る。
「当時は王家も獣人たちも、かなり説得したようよ。『一旦里を捨ててでも生き残ることが大事だ』とね。でも餓狼族は、『何があってもこの土地を明け渡すことはしない』と言って、里に残って戦うことを選んだのよ」
「それで、その時に餓狼族はどうなったんですか?まさか皆殺しに・・・」
スピラが青ざめて尋ねる。
「それがね。奇跡的に魔物を撃退したのよ。どういった方法を取ったか分からないんだけど」
タヌーカさんが話を引き継ぐ。
「ただ、それから関係が拗れたのです。『里を捨てて逃げるような腰抜けと関わることは今後二度とない』と言われ、それから餓狼族との交流がほとんどなくなりました。数年前から行商人が集落の入口で商売することは認められましたが、集落の中に入れてくれることはありませんし、親密な交流はできていないのが現状ですね」
問題は深刻なようだ。
餓狼族は、獣人や王家が自分たちを見捨てたと思っているようだし、王家も獣人も餓狼族には負い目があるようだ。しかし餓狼族の里は、良質の鉱山資源が産出するので何とかして、今回のプロジェクトに参加してもらいたいのが本音だろう。
「とりあえず、もう一度説明をして、駄目なら時間を掛けてってことになるかな?まあ、駄目元で行ってみましょう」
準備は整い、私達は餓狼族の里に出発した。
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