23 落第!?
合同実習が終わり、私たち学生はしばらくは休暇となる。竜騎士学校二年目のカリキュラムは野外実習が6ヶ月、合同実習が3ヶ月、そしてこれから始まる基礎研修が3ヶ月である。基礎研修というのは、自分が希望する部隊や部署で研修をする。最短で1ヶ月、最長で3ヶ月行う。色々と候補がある場合は1ヶ月を3回行い、これと決めている部署があれば3ヶ月すべて同じ部署で行うことが通例のようだ。
まあ、この件でお父様とお母様、それにそれぞれのパートナーであるシュワーフとシュネールがもめている。
というのも、お父様は私を暴竜隊に入れたいらしく、お母様は古巣である風竜隊に入ってほしいらしい。なので、昨日も普段仲の良いお父様とお母様が珍しく喧嘩をしていた。
私はデミドラに念話で話し掛ける。
『難しいわね。一応暴竜隊と風竜隊を1ヶ月ずつで、後の1ヶ月は他の部署で研修をさせてもらおうかしらね。でも、これは問題を先送りしただけだし・・・』
『大変よね。ウチのお父様とお母様も、もめてるからね。いっそのこと、別部隊に配属を希望するのも手かもしれないわね』
そんな話をしているところにお父様の怒鳴り声が聞こえてきた。場所は応接室だ。私は急いで応接室に向かった。
「バラック!!どういうことだ!?カトリーヌが落第だと!?貴様という奴は!!」
「も、申し訳ありません。将軍・・・これには深いわけが・・・」
私が落第?
不安になり、悪いとは思いつつもこっそりと応接室のドアを開けて、中の様子を窺う。
バラック教官とルシル教官が平身低頭して、謝罪の言葉を口にしていた。
「カトリーヌ嬢は、それはそれは立派に任務をこなされました。私としましても過去最高点の評価をつけさせていただきました。それにこちらにいるルシル教官も同じでして・・・」
「私も満点の点数をつけさせていただきました。私たちですら、なぜこのようなことになったか、分からない状況でして・・・」
「だったら、なぜカトリーヌは落第なのだ!?」
詳しく聞いてみると今回は、教官の評価ではなく、純粋に討伐数で評価を決めたようだった。それを知らされていなかったバラック教官とルシル教官は、他の学生のことを考えて、私に魔物討伐をさせなかったみたいだ。なので、討伐数が極端に少ない私とスピラが落第となったようだ。
「私が今回の評価制度をしっかりと確認しておけばよかったことです。本当に申し訳ございません」
「それは私も同じです」
バラック教官とルシル教官が再度頭を下げる。
私は少しパニックになったが、深呼吸して気持ちを落ち着かせた。私は、お父様やお母様から「窮地のときこそ、人間性が出る。そのときこそ、冷静にそして誇り高く行動するように」と厳しく教えられていた。今こそ、それを実践するときだ。
無礼とは思ったが、応接室のドアを開けて中に入る。
「失礼かと思いましたが、ある程度の事情は聞かせてもらいました。教官だけに落ち度があるわけではありません。評価基準を確認しなかったということであれば、私にも責任があります。ですので、今回の処分は甘んじてお受けいたします」
これにはお父様もお母様も呆気に取られていた。しかし、気を取り直したお父様が言う。
「カトリーヌ・・・・立派になって・・・我は嬉しいぞ。美しさだけでなく、気品も身につけて・・・感動した。これしきのことで取り乱した我を許してくれ、バラック」
「そんな、もったいないお言葉・・・・」
どうやら、バラック教官は許してもらえたようだ。
「それでボガード隊長、単位は落第ということになりますが、救済措置を検討させていただき、承認も下りています。明日、詳しい説明をしに再度伺います」
そう言うと慌てた様子で、バラック教官とルシル教官は去って行った。
★★★
次の日、バラック教官とルシル教官が再度やって来た。今度は同伴者を連れている。スピラとグラース王子だ。早速、応接室で説明を聞く。
「申し上げにくいのですが、こちらのスピラと同じく、カトリーヌ嬢は野外実習と合同実習が二つとも落第ということになり、補習では補いきれないとの判断がありました。それで、卒業は延期となってしまいますので、留学を提案させていただきます」
バラック教官の話によると私とスピラの落第の話を聞いたグラース王子が提案したことだという。2年間の留学で、単位は貰えるように交渉したようだ。ただ、卒業は2年後になってしまう。
「話は分かった。しかしそれでは、カトリーヌの暴竜隊入りが延びてしまうではないか!?」
これにはずっと黙っていたお母様が口を出す。
「何を仰っているのですか?カトリーヌは私の古巣である風竜隊に入れるつもりです。そして私も、特別顧問として部隊に復帰するつもりでおりますわ」
「あの・・・留学の話からかなりズレているようですが・・・・」
バラック教官が止めるのも聞かずにお父様とお母様は喧嘩を始めてしまった。最近よく見る光景だ。
ここでいきなりバラック教官にお父様が話を振る。
「ところでバラック、教官の目で見て、カトリーヌはどっちの部隊が相応しいと思う?私見でいい、答えてみろ」
これは少し卑怯な気がする。だってバラック教官はお父様の元部下だし、次の人事異動でお父様の副官になることがほぼ内定している。お父様に不利になる発言はしないだろう。
「はい、暴竜隊の副官としては是非ともほしい人材ですが・・・・」
「うむうむ」
満足そうに頷くお父様とバラック教官を睨みつけるお母様が対照的だ。
「ただ、教官目線で言うとカトリーヌ嬢は、カトリーヌ嬢独自の部隊を率いるべきかと」
怪訝な表情を浮かべながらお父様が尋ねる。
「その理由は?」
「カトリーヌ嬢とデミドラは規格外過ぎるのです。カトリーヌ嬢とデミドラが入った部隊は大きな戦力アップとなること間違いなしでしょうが、各隊のバランスが崩れてしまいます。ですので、カトリーヌ嬢独自の部隊を・・・」
言いかけたところで、執事のガイゼルが口を挟む。
「僭越ながら申し上げます。今はまず、お嬢様の留学の話を先にされるべきかと・・・」
「そうでしたね。それでは留学の詳細を説明させていただきます。グラース王子、よろしいでしょうか?」
「分かりました。詳しい説明の前に一つ提案させていただきます。せっかくですので、カトリーヌ殿とスピラの送別会を企画させていただきます」
★★★
よく分からないまま、私とスピラの留学は決まってしまった。ということで、今はそんなことは置いておいて送別会を楽しむ。私の派閥のメンバーは全員参加で、エリザベート王女の派閥からも10名が参加してくれた。皆、私たちとの別れを惜しんで、声を掛けてくれる。
「これで、この料理も食べ納めか・・・」
「休暇には留学先にお邪魔しますよ」
「今日はしっかり食べるぞ!!」
そんな中で私はグラース王子にお礼を言う。
「気にすることはないよ。我が国にとってもプラスになるからね」
「そう言ってもらえると有難いですわ。ところで殿下の研修先は?」
「近衛隊に配属されることになった。これはエリザベート王女の意向が強かったようだ。まあ、僕の身分を鑑みれば当然かな・・・本当はすぐにでも国に帰りたいのだけどね」
そう冗談めかしていう王子は凄く魅力的に見えた。
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