22 幕間 教官の独り言 2
~バラック教官視点~
今回の合同実習も担当教官になってしまった。全くツイていない。というのも因縁のあるルシルも同じく担当教官なのだ。ルシルは名門のアルモ―ド公爵家の二女で、近衛隊にも配属されるくらい実力もあり、そして容姿も整っている。若干、融通の利かない面を除けば非の打ち所がない。貧乏男爵家の三男の俺とは比べるまでもない。
しかし、アイツの相棒のドラゴンが最悪だ。光竜で見てくれはいいが、軽薄な奴だ。可愛いビオラの相手となると願い下げだ。
まあ、仕事だから必要最低限の会話はするがな。
実習が始まる少し前に、俺はルシルに呼び出された。
「バラック、貴殿に不正の疑いが掛かっている。今度ばかりは見損なった。粗野で乱暴なだけでなく、不正に手を染めるなんて・・・」
「おいおい!!何を言っているんだ?」
詳しく聞いてみると、カトリーヌ嬢とスピラの成績の付け方がおかしいとのことだった。
まあ、普通ならそう思う。しかし、実際に見たら分かる。特にカトリーヌ嬢は規格外だ。
「素直に罪を告白してほしい。貴殿のことだから、やむにやまれぬ事情があったのだろう?ボガード将軍に脅されたのか?」
「何を言っているんだ!!言っていいことと悪いことがあるぞ!!ボガード将軍が不正なんかするわけがない。それに奥様のアンネ様も不正はお嫌いだ!!これ以上言うと本気で怒るぞ」
「あくまで白を切るか・・・もういい。こちらにも考えがある」
そんな事情があり、俺は他の学生の指導から外れ、カトリーヌ嬢とスピラの引率をすることになった。カトリーヌ嬢とスピラは補給部隊のようで、本隊が出発する3日前に出発することになった。
まあ、あの料理が食べられて、温かい風呂に入れて、快適な寝床で寝られるなら、文句はないけどな。
★★★
拠点を構築し、カトリーヌ嬢やスピラと共に受け入れ準備を進める。
やっぱり規格外だった。カトリーヌ嬢は重要な任務を任されたと思っているようで、以前にも増して豪華な拠点を構築していく。実際は、不正の疑いのある三人を隔離しただけなのだが・・・
まあ、俺とビオラは特にやることはない。なので、トレーニングに励む。俺もビオラもあの量の食事を毎日取れば太るからな。流石に太ったままで暴竜隊に戻ったら、何を言われるか分からない。
そして3日後に本隊が到着した。特にエリザベート王女をはじめとしたメンバーは驚愕の表情を浮かべていた。報告書を読むかぎりでは、エリザベート王女たちは連年通りの成果だったようだ。不味い飯と不衛生な環境、慣れない夜間勤務・・・まあ、軍に入る以上は、慣れなければいけないが、それに比べたら天と地ほどの環境だろう。
早速だが、初日の夜にルシルが俺の寝床を訪ねて来た。
「どうした、夜這いか?ドラゴンだけでなく、竜騎士のお前も見境がなくなったか?」
「冗談はよせ!!」
まあ、ここに来た理由なんて想像がつく。エリザベート王女の命令で、ルシルが帳簿を精査していたしな。
「何が聞きたい?カトリーヌ嬢の件だろ?」
「全部だ!!実習であったことをすべて教えてくれ」
あったことを全部って・・・報告書のとおりなんだがな。
多分納得しないだろうと思い、具体的なエピソードを交えて話す。冷静なルシルが驚きの声を上げる。
「ま、まさか・・・本当だったとは。だが、帳簿や今後の見立てを考えれば、予算の3倍の収益が上がる。こんなの正規軍と文官連中が綿密に計画してもできることではないぞ。もはや規格外だ・・・」
「分かっただろ?俺だってビビってんだ。まあ、一つアドバイスするとすれば、自分のことを心配しろ。俺はこれからトレーニングに行く。ビオラもな。また何かあれば、明日にでも来てくれ」
俺も竜騎士だから代謝はいい。だが、それにも増してあの量と質の食事はヤバい。それとこの時間に自分を追い込むのには理由がある。夜食を食べるためだ。夜食のエネルギーを消費するには、これぐらいしないと駄目だ。ビオラが付き合うのも同じ理由だ。
そして次の日もルシルはやって来た。
「これからトレーニングに行くのだろう?私も一緒に付き合わせてくれ。貴殿の言っている意味がよく分かった」
「一日で気づくとは流石だな。俺なんて一週間、気づかないフリをしていたぞ。そのお陰で、戻すのに苦労したがな。まあ、近衛隊は見栄えも大事だからな」
「そのとおりだ。体型が崩れたら、王家の恥になる。我だけでなくファルシも危機感を抱いているのだ」
★★★
それからのことだが、朝食前にランニング、ここでもルシルと一緒に走る。そして、ルシルや他の学生と別れた後は、ビオラと共に竜騎士のトレーニングをこなし、合間にカトリーヌ嬢の手伝いをするくらいで、指導らしい指導はしていない。
そして、夕食後はルシルとファルシと共にトレーニングをするといった具合だ。
実際にトレーニングをしてみて、ファルシというドラゴンは、思ったよりも誠実なドラゴンだと分かった。もちろん、手放しでビオラとの関係を認めるわけではない。
「ファルシよ。他の雌ドラゴンと縁を切るの条件にビオラへのアプローチは認めてやろう」
「何を偉そうに!!ビオラにもっと気品が身に付けば、ファルシとつり合いが取れるんだがな」
いつものように喧嘩もする。
あるときルシルから相談があった
「カトリーヌ嬢の件だが、不正はなかったと進言して、本隊に戻そうと思うのだが、どうだろうか?」
「それはやめておけ」
「なぜだ?」
「他の学生のためだ。考えてもみろ。あんな規格外の実力を見せられたら自信を無くすだろ?それにエリザベート王女の立場もなくなる。俺はこのままでいいと思うぞ。実習終了後に不正はなかったと説明してくれればいい」
「貴殿が言うのももっともだ。不正がなかったと実習終了後に必ず報告しよう。それと話は変わるが、スピラぐらいは戻したらどうだろうか?」
それは俺も考えたことがある。しかし・・・
「それも反対だな。アイツらは特殊だ。パワーはないが、あのスピードを見ただろ?変に同じことをやらせて自信を失わせるよりも、今のままがいいと思う。ここだけの話、暴竜隊に勧誘しようと思っている。暴竜隊の不得意分野である諜報や偵察をメインにやらせれば、更に暴竜隊が強化されるからな」
「そうか・・・我は暗部に推薦をしようと思っていた。あのスピードは特殊任務向きだからな。まあ、貴殿がそう言うなら、今回の借りもあるし、引き下がるとしよう」
「まあ、アイツらもある意味、規格外だからな」
ただ、この判断が大きなミスだったことに俺は気がつかなかった。
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次回から新章となります。




