17 幕間 教官の独り言
~バラック教官視点~
「俺が教官!?何かの間違いじゃあ・・・」
「辞令も出ている。副官になるにも指導経験が必要っていう上の判断らしい。これで、尊敬するボガード将軍の副官になれるな!!」
当時の上官からそう言われた。現在、ボガード将軍の副官は定年で、勇退が決まっており、俺がその後釜に座るとのことだった。一応これでも第一暴竜分隊の分隊長だから、いつかはそうなるかもとは思っていたが、突然だなあ・・・それにその研修として教官なんて・・・
辞令交付が終わったその足で、俺はボガード将軍に挨拶に向かった。
「バラック、よく来たな!!実は我が愛しの娘、カトリーヌも竜騎士学校に入校しておるのだ!!我の娘と特別扱いすることなく、厳しく指導してくれ。但し!!カトリーヌは相当な美少女だから、絶対に手を出してはならんぞ!!そうなったら・・・」
話の8割が、如何に娘のカトリーヌ嬢が素晴らしいかという内容だった。
いくら美少女と言っても、親がヤバすぎる。「暴虐のボガード」と「疾風のアンヌ」の娘だろ?
アンヌ様とは、若い時に一緒の小隊にいたが、あれは凄まじかった。
このとき俺は、絶対に関わらないようにしようと強く思った。
そして、晴れて教官となったのだが、何と件のカトリーヌ嬢の実習指導教官になっていた。多分、トラブルを避けて、誰もやりたがらなかったのだろう。竜騎士学校といっても軍隊は軍隊だ。命令には従わなければならない。仕方なく、実習計画を作成する。そして予想どおりというか、実習のリーダーはカトリーヌ嬢になっていた。
まあ、俺が学生でもそうするだろう。
そして、職員室で初めてカトリーヌ嬢に会ったとき、腰を抜かすくらいに驚いた。
こ、これが美少女!?
なんというか・・・で、デカい・・・それも横に・・・
容姿以外は、カトリーヌ嬢は完璧だった。言葉使いや受け答えもしっかりしていた。こっちは一応教官だから、口調も命令口調になるのだが、カトリーヌ嬢はその辺を弁えていて、訓練教官と学生という立場を理解していた。
その後、簡単な打ち合わせが終わり、カトリーヌ嬢は教官室で他の教官たちに必要事項を説明して回っていた。どの教官もカトリーヌ嬢を絶世の美少女のように扱っていたが、どういうことだろうか?
美少女の基準が最近変わったのか?
カトリーヌ嬢が教官室から出て行った後に教官連中に聞いてみた。
「カトリーヌ嬢は、人気があるのか?美少女ってことになっているのか?」
「そ、それは・・・ボガード将軍のご息女であらせられますし・・・そのような目で見ることは教官として・・・決して、あのような容姿で美少女ムーブをしていることが不思議でならないとかは思っていませんよ。って・・・このことは内密に・・・」
「そ、そうだよな・・・ボガード将軍の手前、美少女として扱うしかないよな・・・教官皆がそうするなら、そうするよ。本当のことを言って、命の危機が訪れても嫌だしな」
まあ、考えようによれば、悪い虫が付くことがないので、その面で教官の責任問題になるようなことはないだろうから、いいことだと思うことにした。
★★★
そして、実習が始まったが、カトリーヌ嬢には驚かされることばかりだった。
まずは、その戦闘力の高さだった。前期の教官からの引継ぎで、代表の学生に少し強めの魔物の相手をさせ、困っているところを教官が助け、尊敬を勝ち取るといった手法を俺も使った。ホーンブルという大型の牛型の魔物とグレートボアというこれも大型のイノシシ型の魔物を用意した。ともにB級の魔物だ。普通の学生なら歯が立たないだろう。
しかし結果は、代表のカトリーヌ嬢とその相棒のドラゴンのデミドラに瞬殺された。そして驚くべきことに、この程度の魔物は食材にしか見ていなかったようだ。気をつけた点を尋ねたところ、「血抜き」と答えたくらいだからな。
もうカトリーヌ嬢に教えることは何もない。というか、彼女がいるだけで、他の学生が訓練することが無くなってしまう。なので、彼女には悪いが、拠点での雑務を命じた。しかし、これも想像を絶する事態を引き起こす。
到着当初からかなり資材が多いと思っていたが、拠点には馬車を利用した寝床と風呂まで用意されていた。もうこんなの王族の御旅行だ。食事もホーンブルとグレートボアの食材を生かした豪勢なものだった。もはや訓練と呼べるものではなかった。
この実習の目的は、大きく分けて二つある。一つは集団生活や野外活動を通じて、不自由な生活を体験すること、もう一つは失敗をさせることだ。不自由どころか、最高級に近いキャンプだし、あの戦闘力でこの辺の魔物で失敗することなどないだろう。なので、彼女だけ別行動をさせ、予定にはなかったがポルガ村に派遣することにした。
ポルガ村はかなり財政的に切迫している。如何に竜騎士といえども、すべての問題が解決できるわけではない。ここで、身を持って、自分の無力さを感じてもらおうと思ったのだ。
しかし、これも根本的に解決してしまった。
それに他国からの工作活動と思われる証拠も見つけてしまったしな。もうここまでくると諦めた。指導がどうのというレベルではない。もうバケモノだ。
戦闘力は底が見えないし、軍隊として最も凄いのはその輸送力だ。
一般的に竜騎士が30騎いれば、どんな町でも陥落させることができると言われている。しかし、陥落させることはできても統治はすることができない。それには兵站も必要だし、治安を維持する歩兵戦力も必要だ。現在の竜王国ドラーゴの戦力を考えると竜騎士による本土防衛がメインなのだが、カトリーヌ嬢と相棒のデミドラがいれば、その輸送力の高さから、大陸制覇も夢ではないだろう。今のところ、この国にそんな野心はないのだが、それでも、戦術を根底から覆す戦力であることは間違いない。
そして、交渉力と問題解決能力の高さもずば抜けている。
なんで、伝説のSランクの魔物であるケルベロスを従え、厄介なグラスウルフも手懐けているんだ?
もう理解ができない。
そんなことを思っていると俺の相棒のドラゴンのビオラが念話を飛ばしてくる。
『さっきから悩んでるみたいだけど、どうしたの?』
「カトリーヌ嬢とデミドラをどうするかを考えていたんだ・・・指導も何もないだろ?」
『それもそうね。デミドラちゃんのほうだけど・・・多分、私でも勝てないわ。後20年もすれば王国最強のシュワーフ様を超えるかもしれないわね。こっちはお子様を鍛えてやろうと思ってたけど、全くそういうのじゃなかったわ』
言っておくが、ビオラは決して弱くはない。暴竜の中では、ボガード将軍の相棒のシュワーフに次ぐ実力だ。
「お前がそう言うのなら、そうなんだろう。だから、指導は諦めた。他の学生の指導に徹する。評価は最高評価にするが、基本的に他の学生と一緒に訓練をさせないようにと考えている」
『そうしたほうがいいわ。あれは違い過ぎるからね・・・・』
実習自体は、何のトラブルもなく終了した。気掛かりは他の学生だ。
カトリーヌ嬢の所為で、快適に過ごしてしまったからだ。これで軍に配属されたら本人たちが困るだろうが、これも運が悪かったと諦めてもらおう。
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