15 野外実習 4
「ケルベロスか・・・」
「カトリーヌさん、知っているの?」
私の独り言にスピラが反応する。
私たちが討伐しようとしているケルベロスは、私が修行時代に遭遇したことがある。ケルベロスは、頭が三つある犬型の魔物だ。スピラの相棒のゲイルくらいの大きさで凶暴だと聞いていたが、実際は、臆病で逃げ足が速い。追い散らすのは簡単だが、デミドラだと逃げられてしまうかもしれない。
そう思っていたがグラース王子は違う見解だった。
「ケルベロスだって!!なんて凶暴な魔物がいるんだ!!ナウール王国だと、国軍が出動するレベルだぞ」
そんな強そうな魔物には見えなかったけど・・・
「グラース王子、ケルベロスとは頭が三つある犬型の魔物ですわよね?私も遭遇したことがありますが、逃げ足が速くて、臆病なイメージがあります。それで合ってますでしょうか?学生を大量動員したら、逃げられると思うのですが」
グラース王子の顔は引き攣っていた。
「き、君にとったらそうなのか・・・」
結局、グラスウルフの案内で、私たち3人で討伐に向かうことにした。こっちにはスピラとゲイルがいるから、逃げられることはないだろう。
ケルベロスの棲み処に着く。逃げたグラスウルフに対して何やら指示していた三つ首の大型の犬がいた。間違いなくケルベロスだった。
デミドラが念話で伝えてくる。
『ケルベロスは凄く怯えているわ。何か逃げる相談をしているみたいよ』
「そうね・・・だったら一気に制圧する?」
ということで、私とデミドラ、グラース王子とグリー、スピラとゲイルでケルベロスを取り囲んだ。
ケルベロスは慌てて叫ぶ。どうやら、人語も理解できるようで、鳴き声を魔力で人語に変換しているようだった。
「お、お待ちください!!敵対する意思はありません。これには深いわけが・・・」
ケルベロスが言うには、実際噂程は強くないそうだ。ギルドの魔物ランクだと最上位はSランクだが、実際はB~Cランクの強さらしい。
「この怖そうな見た目の所為でかなり強い魔物と思われていますが、三つの頭を使い、ほとんどの種族と意思疎通ができるので、用心に用心を重ねて、ハッタリだけでここまでやってきたんです」
ケルベロスの強みは戦闘力ではなく、知能の高さと口の上手さのようだった。
「そんな貴方がなぜ、人間を襲うような真似を?」
「それがですね・・・これを見ていただければ分かるのですが・・・」
ケルベロスの首に嵌っていたのは隷属の首輪だった。奴隷や魔物を無理やり従わせるのに使う魔道具だ。
「2年程前、私が住んでいた嘆きの森に強力なドラゴンの一家がやって来たのです。そのドラゴンの一家は魔物を狩っているようでした。見つからないように気をつけていたのですが、あるとき、そちらのドラゴンさんに見つかってしまいまして、命からがら森から逃げたのでした。土地勘のない場所をひたすら彷徨っていたところ、覆面をした魔術士に捕獲され、従魔にされてしまいました。そしてこの付近で人間を襲うように命令されたのです」
「なるほどね。話は見えたわ・・・って私とデミドラにも原因の一端はあるようだし・・・」
「命令は「人間を襲え」ですから、なるべく安全な方法を考え、グラスウルフたちを従えて、今に至っているわけです」
少し、グラース王子とスピラと話合う。
「隷属の首輪を壊して、森に返せば問題ないようだとは思うのですが・・・」
「僕もそう思うよ。だが、隷属の首輪は厄介だ。専門知識のある魔術士じゃないと解除は困難だぞ。人を襲わないように誓約させて、森に帰らせるのは賛成だけどね」
ここでデミドラが発言する。
『その首輪が問題なら、私が何とかできるわよ』
そしてデミドラはケルベロスに近付き、隷属の首輪を引きちぎった。
というか、力技なのね・・・何か特別な魔法が使えると思っていたんだけど・・・
ケルベロスが言う。
「本当に感謝してもしきれません。今後のことで少し相談が・・・ここまでしていただいて、頼むのも気が引けますが、グラスウルフたちに情が湧いてきましてね。このまま自分がいなくなれば、グラスウルフたちは討伐されてしまうかもしれませんし、流石に嘆きの森で活動できるほどは、強くありませんからね」
ここで私はいい案を思いついた。
「そうだ!!すべて解決する案を思いついたわ!!」
★★★
次の日、私は野外実習に参加しているメンバーとバラック教官を連れて、ポルガ村を訪れた。
バラック教官が言う。
「すべてが解決したってどういうことだ?ケルベロスが裏でグラスウルフを操り、ケルベロスも得体の知れない何者かに操られていたって・・・それを突き止めただけでも大手柄なのに、一体何をしようってんだ?」
「バラック教官!!それは見てのお楽しみですわ」
ポルガ村に着くとバラック教官もメンバーたちも驚愕していた。三つ首のケルベロスがグラスウルフを指揮し、村人の護衛をしたり、手伝いをしているのだ。タヌーク村長が挨拶に来る。
「バラック教官にカトリーヌ様、この度は本当にありがとうございました。村の未来に光が見えました。特にケルは素晴らしい。非常に賢く、魔物でなければ、次期村長にしたいくらいですよ。今は私のブレーンとしても頑張ってもらっています」
因みにケルというのはケルベロスのことだ。名前が無ければやりづらいということで、村長が命名したようだった。
「バラック教官、これで課題は達成できたように思うのですが?」
「そ、そうだな・・・予想外の結果だが、合格だ」
「それでこれからの実習なのですが、どのようにすればよろしいでしょうか?」
「そうだな・・・実を言うとこの実習は、最初の1週間は小手調べみたいなものだったんだ。そして一旦王都に帰還し、対策を考えて再度この地に来る。こちらに派遣する人員も期間も学生が考えて決めることにしていたんだ。案としてはまた別の場所で同じような実習をするか、引き続きここで実習するかだが・・・」
「それでしたら、ここで実習を致しますわ。流石に25人全員は必要ありませんから、シフトも組まなければなりませんね」
それから私たちの活躍でポルガ村は大発展することになる。
その発展の仕方は異常で、国の文官たちも多くが視察に訪れるほどだった。
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