小話 嫁と姑の確執
サリエルが食っちゃ寝と魔工場を稼働させ、クリスとガブが自分の将来を考えて悩み、エラが公爵領へと一路馬車で向かっているその頃
王都のタウンハウスで夕食後の語らいをしていた小公爵夫妻の前に、突如転移魔法で両親が現れたのだった。
二人が結婚してから、早14年、両親の公爵夫妻が王都へやって来たことはなく、それも先触れも無くの突然の訪問に、嫁のサラは何を言われるかがわかって、顔色を悪くしていた。
「突然やって来るなんて、どうしたんですか!」
「ご、ごきげんよう、お義父様お義母様。」
小公爵夫妻は焦っていた。
「まあ、長い話になりそうだから応接室にでも行くか。」
公爵はそう言って、執事のセバスチャンに指示した。
ここは公爵のタウンハウスである。
普段は代理として、息子が主として振る舞っているが、当主が来たからには当然主が変わる。
息子夫婦はセバスチャンの後ろについて行くのだった。
「さて、なぜ来たか、わかるか?」
席に着くなり、公爵はそう言って、息子夫婦を強い視線で見た。
「サリエルのことでしょう。」
小公爵が苦虫を噛み締めたような顔で言った。
「サリエルのなんだ、言ってみろ。」
「サリエルが王太子の第一王子と婚約するという話でしょう。」
「このスコット公爵家の当主は誰だ。」
「父上です。」
「ではなぜ、そんな重要な話が当主に上がって来ない。わしは聞いていないが。」
ジロリと睨んで、息子に圧をかけた声で聞く。
「そ、それは正式にはその話はまだ来ていないからです、あくまで噂の段階です。」
親の重圧に圧されて脂汗を垂らしながら答えた。
「それは嘘ね。そうやって周りに規定路線のように浸透させて、逃げられないようにする気でしょ?それではかつてのセスリー女史と同じ轍を踏むことになるじゃない。あなた、どういうつもりでそんなことをさせているの?」
母が息子の言い訳に切れて、強い口調で言い返し、嫁にも厳しい目を向けた。
「それは・・・・。」
小公爵夫人は目を反らして口ごもった。
「それは何?続けなさい。」
「あ、あの、王妃様からも内々でお話を頂いてまして。サリエルの為にと思って進めたことです。」
「どこが、サリエルの為なの?サリエルは嫌で嫌で人形遊びを終えて公爵領へと帰って来ましたよ。」
「そ、それは。あ、あの子はまだわかっていないのです。親の言いつけを聞くことが将来的には良かったと思うのだと後できっと感謝すると思います。だって、女の子の夢は素敵な王子様と結婚することでしょ?」
珍しく小公爵夫人が姑を睨んで、自分の考えをツラツラと語った。
「そう、それは、間違いないのね。」
「間違いありませんわ。今あの子は第二次反抗期なのです。これを過ぎた時に周りが婚約者だらけで自分が嫁ぎ先も決まってないと気づいても遅いのです。そうならないように、親はある程度子供の行動を制限する方が良いのです。」
「わかりました。」
そう言って、姿勢を正し、公爵の顔を見た公爵夫人が、重々しく口を開く。
「なら、ジョージ、今この時をもってサラと離婚しなさい。公爵家の家訓《自分の伴侶は自分で見つけよ》に背くような嫁はスコット公爵家には要りません。サラ、あなたは自分の嫁入りの時の荷物だけを持って即刻退去を命じます。そこの侍女長、メイドにすぐ指示して支度をさせなさい。」
壁際に控えていた侍女長が驚いて固まったが、公爵夫人の言いつけに使用人が拒否することなどできない。
「は。ただいま。」
そう言うと外に出ていった。
「え?」
「な、何を言ってい、いるのですか母上!離婚などしません。」
「何を言うのですか、親は子供の行動を制限した方が良いのでしょう?今は嫌でも将来はサラと別れたことを私に感謝するのではないですか、ねえサラ。そうよね?」
そう言うと、真っ直ぐに射るような目付きで小公爵夫人を見つめた。
「それとこれとは話が違います。拡大解釈だ。サリエルはまだ子供で、私はもういい年だ、しかも次期当主でもありサリエルの父親だ。」
小公爵は憤慨して立ち上がると、指を振って怒りを露にした。
「何を言う。サリエルだって、先日成人の儀を終えた大人だ。お前が次期当主というならわしは、現役の当主だ。そして、わしはサリエルの祖父であり、スコット公爵家の代表権を有する者だ。」
公爵がガツンと正論の重たいパンチを打ち付けた。
「お義母様、私の不用意な発言をお詫びします。どうか離縁はお許しください。」
小公爵夫人が頭を下げて、懇願した。
「いいえ、許しません。女の子の夢が王子様と結ばれることなどと、頭に花が咲いたようなことを言う者に、公爵夫人は務まらないでしょう。ましてや、王家の公爵家に対する不介入を誓約している我が家門に対する明確な裏切り行為です。王家も、あなたもです。そんなこともわからず、女の子の夢、娘の為になどという甘言に踊らされて。」
公爵夫人の怒りは収まらない。
「あ!」
「う!」
「そんなことにも気づかない愚か者め。クリスの時に同じことが繰り返されたとお前知っていたな?」
グアッと襲いかかる熊のような圧力に小公爵が焦る。
「それは、はい。」
「それで、何の手助けもせずクリスに我慢をさせるだけで、解決も図らず。その上同じ轍を娘のサリエルにもまた踏まそうとして。お前も公爵としての器ではないな。ケントがキチンと成長すればお前を廃嫡してケントに継がせることも考える。ケントもお前たちのような性格だったら、クリスに継がせる。」
「ま、待ってください父上。」
「お許しください、そんなつもりではなかったのです。」
「ではどんなつもりだったの。」
公爵夫人が厳しい声で聞く。
「そ、それは・・・」
小公爵夫人が口をつぐむ。
「また娘の夢などとお花が舞い散るようなことを言ったらどうしようかと思ったけれど、黙るくらいの思慮はあるのですね。さて、ジョージ、サラ、お前たちは離婚し、ジョージは将来的に廃嫡となる未来が提示されました。親の言うことを聞きますか?あなたたちはどうしますか?」
公爵夫人が強い視線を向けて質問した。
「私は、サラと離婚したくない。廃嫡されるのならば、公爵家から出てもサラと一緒に居たい。」
「私もです。旦那様と過ごせるのならばついていきます。」
「それが答えでしょう?過去多くの大魔法使いがしてきたことは可笑しなことではない、自然なことでしょ?なぜそれがわからないの。良く良く考えなさい。」
公爵夫人が凛とした佇まいで言った。
「あとな、ジョージ。王都の治安が悪くなっているのはどうしてだ、予算が足りないのならば王家が流用しているのではないか?」
公爵が突如違う話を入れてきた。
「え?治安ですか?」
「お前はそんなことも気づかず大臣だなんて言っているのか。情けない。サリエルが馬車から見た大通りに浮浪者や孤児の物ごいが増えていると気づいてわしに聞いてきたぞ、飢饉も疫病も無いのになぜだとな。」
ジロリとまた公爵に睨まれ、小公爵は身を縮めた。
「教会の不正の是正はどうなっている。浮浪者の食事の世話や孤児院の経営は教会の仕事だろう。王立の治療院に治療師を斡旋してもらう関係で王家と教会の繋がりは深い。どうなっているか、きちんと調べて是正しろ。
必要なら王家の断罪をしろ、それが我が公爵家の義務だ。キチンと解決出来たら、離婚と廃嫡のことは考え直してやろう。いいな、猶予はサリエルが貴族学園に入学するまでだ。」
「御意」
「仰せのままに」
言うだけ言った公爵夫妻はまたあっという間に転移して帰ってしまったのだった。
そして、小公爵夫妻が侍女長を急いで止めに走るのだった。
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