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残念令嬢と渾名の公爵令嬢は出奔して冒険者となる  作者: 有栖 多于佳


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ガブの出自と秘密を知る者

サリエルへの公爵夫人の発言に、後ろに侍っていたガブは内心驚いてのけ反った。

公爵家のご令嬢として、蝶よ花よと大切にされてきたサリエルにむけて、『家を出て好きなところに行きたい』と言った孫娘に『なら一人で暮らしてみろ』と、叱咤激励、背中を目一杯押したのである。


部屋へ戻ったサリエルが、《一人で暮らす》ことに、ピンときてない様子を見せていたので少なくとも生活するにはお金が必要だよ、という基本的なことを伝えてみた。


やはり、サリエルはお金、単語とは知っていても、貨幣経済として学んではいても、お金を自分で支払った経験もないのである、稼ぐことなど考えたこともないのだろう。


元来、頭が良く努力家で好奇心旺盛な性格のサリエルである。

その一言で、火が点いたのをガブは感じた。


そして、何やら机に向かってブツブツと呟きつつ、紙に何事かを書き始めたのだった。


そんなガブの元へメイドが呼びに来た。

「奥様がお呼びです。」



公爵夫人の部屋へと入室すると、夫人はソファに居た。

その前に座るよう進められて、オズオズと座る。


「ねえ、ガブ。あなたもう15になったのかしら?」

「はい、先日15に成りました。」


そう切り出した夫人であるが、そこで少し躊躇した様子をみせたのだが、意を決したように口を開いた。


「そうよね。・・・ガブ、聞きにくいことを聞くけれど、あなたのご両親ってどちらの方かって聞いている?」


「母は娼婦で」

「あ、その話は聞いているわ。出身地の話よ。」


出身地、母の・・・とずいぶん記憶から遠くに言ってしまった幼い頃の母とのやりとりをうーんと頭を捻って思い出す。


「確か、この国では無いと聞いたことがあります。小さな島のスゴい田舎だったって。

海に囲まれた所だったから、みんなで崖から海へ飛び込んで遊んでいたとか。

私は海を見たことがないのですが、母が絵を描いてくれたことがあって。青が濃かったり薄かったり、白い波が立ったりして砂浜には貝殻が落ちていてそれでネックレスを作ったりして遊んだって。」


「まあ、やっぱりそうなのね。そんな気がしていたのよ!ではお父上のことは何か思い出せない?」

ぱあーっと顔を明るくして、夫人が更に質問する。


「父と母が知り合ったのは偶然で、ある嵐の日に難破船から投げ出された男が砂浜に打ち上げられていて、その男を母がたまたま見つけて介抱したそうなんです。で、二人は付き合うことになったのだけれど、父は自分の故郷に一度戻ると言って島を出たそうなんです。

その後すぐに田舎の小島に奴隷船がやって来て、島の女を拐って行ったとか。」


「まあ、ガブのお母様は拐われたのね!」

「はい、そう言ってました。気がつくとこの国の南部の牢に入れられて、一緒の島の者が次々に売り飛ばされたと言ってました。母は先代のロンデール伯に買われて、王都の南の娼館に連れてかれたそうです。」


「まあ、先代のロンデール伯と言えば、ダニエルじゃない!じゃあ、妾っていうのはアイラなのね!

そうなのね、それなら話は早いわ。で、お父上のお仕事は何て聞いてたの?」


「はい、本当かどうか、わかりませんが、母からはその、ゅぅ者と。」

「え?聞こえないわ、なんですって?」

「ゅぅ者と。」

「え?」

「これは私の母が言っていただけですので。母は父のことを《勇者》と言っていました。」

ガブは自身の父親が勇者だとは信じていなかったので、それを公爵夫人に伝えるのがとっても恥ずかしかった。

真っ赤になって答えた。



「まあまあ、やはり勇者なのね!誇った方が良いわ、勇者の息子なんだもの。ねえ、ガブはお父上に会いたい?」

やっぱりそうなのね、と手を叩いて喜んだ公爵夫人は、少し真面目そうに顔を引き締めて聞いてきた。


「そ、そんなことが可能なんですか?・・・会えるのなら会いたいです、が。」

ガブは今まで父親ということが脳裏に浮かんだこともない。

生まれた時から父親が居ないので、父親を思って泣き濡れることなどは無かったが会えるものならば一度くらい会ってみたいとは思った。


「ええ、会えるわ。きっとお父上も会いたがっていると思うの。会いに行く旅に出たい?」

「でも、私にはサリー様のお世話という仕事がありますから。」


「もし迷惑じゃ無かったらサリーも連れて一緒に旅に出なさいな。そんな大冒険にはならないわ、お父上を探すのもきっと直ぐに会えるもの。」


「良いのですか?その、男の私と、サリー様と二人で。」

ガブは少し赤面しながら、ボツボツと聞いた。


「そうね、まだ二人きりって訳にも行かないから、パーティにクリスとエラを入れましょう。その4人で行くのはどうかしら?」

夫人は指折りながら、フフフと小さく笑って言った。


「クリス様、は、まだわかりますが、エラさんってサリー様の侍女のエラさんですよね?王都に居るのでは?というか、エラさんが嫌じゃないですか、冒険って。」

ガブが夫人の突飛な回答に驚く。


「いいえ、エラはね、この領地でサリーの侍女を続けたいと直談判してこっちに向かっているのよ、父親のタウンハウスの騎士団長と一緒に。あの子は団長が自分の子供の中で一番剣士の腕が立つと言っていたくらいなのよ。


まさか、剣士にならずに侍女になるとは思わなかったわ、けっこうお転婆さんみたいな話だったのに。

だから、こっちに来て、本人にモチロン確認するけれど、きっと行くと思うわ。」


夫人の話って情報量がハンパ無く多い。

50を過ぎているはずなのに、輝くほど美しい顔に似合わず、話の内容は奇想天外である。


「大丈夫よ、ダニエルのパートナーのアイラは私が冒険者をしていた時に一緒にパーティを組んでいたのでよく知っているわ。そこに手紙を私から出しますから、そこで話を聞いて来なさい。そうしたら、あなたのお父上に会う手段がわかるはずよ。」


夫人がそう言った。


「奥さまが、私の父に思い当たる人物がいるようですが、どうしてそう思われるのですか?」

不思議に思って不意に聞いてしまった。


「初めてあなたにあった日、外で日の光を浴びたあなたの髪色が黒で無く濃紺だと知ったの。

髪色は魔術属性を現すでしょ?


例えば神聖魔法を使う光属性の者は金の髪色をしている。ちなみに私は土属性だから、茶色い髪色ね。


このトーホー王国には金の髪の者はもう数えるほどしかいないわ。それは王家の呪いのせいね。

この地には光属性の者は生まれない呪いがかけられているの。


同じように、全属性を持っている勇者と呼ばれる者は青よりも碧、海の深い所のような碧い髪を持っているの。

ガブ、あなた属性を隠しているでしょ?魔力量も。それはお母様の言いつけかしら?


あなたのお母様は金の髪を持った光属性の者だったから拐われたのね。

トーホー王国から南へと進んだ地にあるショーチク共和国にかつてあった、光の乙女の島の出身でしょ。」


「その話は初めて聞いたのでわかりませんが、属性を隠すのは母からの遺言です。魔力量も減らしています。」

「それはお母様の魔法で?」

「はい。死ぬ前に母が自分の魔力を全て注いでくれて、体内の魔力の貯蓄場には蓋をし、魔力の通り道は狭く細くしてくれたのです。下手に多いことが知られると利用されるだけだからと。」


「そう、さすが光の乙女ね。ガブ、あなたは光の乙女と勇者の息子よ。それをそろそろ誇っても良い頃だと思うわ。サリエルだけでなく、あなたもあなたの進む道を自分で決めなさい。」


公爵夫人に自分自身も知らない話をされ、ガブは考え込んだ。


自分の道を進む、か。

俺はどこに行きたいのだろう。




ガブが自分の出自と将来に悩みを深めている中、サリエルは闇魔法で創った強大な空間にせっせと工作した魔道具製造用魔道具を並べて、せっせせっせと稼働させていた。


そう、そこは闇の空間に広がる魔道具工場、魔工場。


そこで、とりあえず、魔道洗濯機と魔道コンロと魔道給湯器を作り始めた。

働いているのは、簡易に作った形代ライン君である。


始める前に家令のギルバードに命じて、魔石やら鉄鉱石やら銅やら魔物の骨やらを公爵領で一番の商人に買い漁らせてそれを全てサリエルの持つポシェット型マジックバッグに納品してもらった。


支払い期日の前に、プロトタイプで作った魔法具3品をその商人に見せると、即価格交渉が始まった。

商品の納品数も決まり、その販売価格から先の素材の代金を引いて、サリエルの手持ち資金が集まった。

これからもその商人から定期的に同じ素材を納品することになり、サリエルの魔道具工場はフル稼働となった。


サリエルの魔力が尽きるまで、黙って働くライン君たち。

朝晩問わず、24時間フル稼働である。


サリエルは、体力魔力を工場に集中的に使うため、一日中ベッドに横になって食っちゃ寝食っちゃ寝と魔力供給に励んでいたのである。


サリエルの魔力が尽きなければ、そして魔道具の素材が尽きなければ永遠に稼働できるシステムを構築し、一見怠けているようでいて、その実どこよりもブラックに働くサリエル(形代のライン君)であった。


そして、エラが王都から公爵領に着くまでのほんの一週間で、サリエルは向こう数年働かなくても暮らしていけるほどの大金を稼いだのであった。



お読みくださいましてありがとうございました。


誤字誤謬があるかもしれません。


わかり次第訂正いたします。


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