カンナベル枢機卿からの相談 4
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二日後、わたしはリヒャルト様と一緒にカンナベル枢機卿をお出迎えするために玄関で待っていた。
カフェでまったりしていたときに、聖女仲間から教えてもらった夫婦になるときの重大な質問をしたのだけど、リヒャルト様は咳き込みながら「子供云々の話は外ではしてはいけない」と教えてくれた。
そのあと結局有耶無耶にされて、リヒャルト様の意見は聞けなかったけど、まあいっか。結婚式まであと一年あるし。そのうち教えてもらおう~っと。
リヒャルト様がぶつぶつと「君が聖女仲間から聞いた話はいろいろ危険そうだな」なんて言っていたけど、よくわからない。
暇を持て余した聖女たちは、理想の男性とか将来の旦那さんとか結婚とかの話をするのが大好きだったから、わたしもいろいろ教えてもらったけど、危険な事なんてなかった気がするよ。
リヒャルト様と待っていると、約束の時間になってカンナベル枢機卿を乗せた馬車が玄関前に停まった。
元中央神殿の神殿長で枢機卿になったカンナベル枢機卿は、教皇様のいる王都の大聖堂でお仕事をしていて、そこにお部屋も賜っているんだって。
馬車には神殿の紋章が描かれていたから、大聖堂に置かれている馬車だね。
ということは、プライベートじゃなくてお仕事で来たってことなのかな?
カンナベル枢機卿は、緋色の聖職服に同じく緋色の帽子をかぶっている。これは枢機卿の制服みたいなものらしい。この緋色の聖職服は枢機卿にしか許されていないんだって。つまりとっても偉い服装だってことだね。
カンナベル枢機卿はお仕事でいらっしゃったからなのか、お付きの人を一人連れていた。他にも、護衛だろうか、白い服を着た騎士みたいな人が二人いる。
だけど、挨拶をしたあとでわたしたちとサロンに入ったのはカンナベル枢機卿だけだ。お付きの人や騎士さんたちは別室で待つみたい。
「仰々しくて申し訳ありません」
「状況が状況ですからね、お気になさらず」
なんでも、聖女がストライキを起こしているせいで、枢機卿とか司祭様とか、神殿に籍を置く人に直談判に来る人が増えているらしい。
一人で出歩くと聖女の力や薬を求める人たちが押し寄せてくるから、どこに行くにも護衛が必要な状況なんだって。
「スカーレット、元気にしていたかい?」
「はい! とっても元気です! 来年リヒャルト様と結婚するんですよ!」
「ふふ、そうだったね。閣下から聞いているよ。おめでとう」
「ありがとうございます!」
カンナベル枢機卿が好々爺然とした顔をにこりと微笑ませる。
ソファに座ると、メイドさんたちがお茶とケーキを運んで来た。
その量を見て、カンナベル枢機卿はぽかんとした顔になる。
「これはまた……。スカーレット、私がこのようなことを言う資格はないかもしれないが……閣下にご迷惑はかけていないだろうね?」
山のように運ばれて来たケーキを見て、わたしがおねだりしたと思ったらしい。まあ、おねだりはしていないけど食べたいとは思っていて、たぶんリヒャルト様はその気持ちに気づいて買ってくれたんだろうから、遠回しにおねだりしたことになるのかな?
……うーん、ご迷惑をかけていないかと訊かれたら、たくさんかけているとしか答えられない。
思えば最初からリヒャルト様にはご迷惑おかけしていた。
出会いが出会いで、しかも初対面でたっくさんご飯を食べさせてもらって、領地に連れて帰ってくれて面倒まで見てくれた。うん、迷惑しかかけてない自信がある。
わたしが視線を彷徨わせていると、リヒャルト様が笑いながらカンナベル枢機卿に返答した。
「迷惑ではありませんよ。それにこれは、スカーレットがカンナベル枢機卿のために用意したケーキです。お好きなものをどうぞ」
結局選べなくて全部買ってもらったんだけど、物は言いようですねリヒャルト様! なんかわたしがとっても頑張ったみたいに聞こえます。ただ美味しく食べていただけなんだけどね。
「神殿長様……じゃなくて、カンナベル枢機卿、この桃のケーキはさっぱりしてて美味しかったです。あ、でも白ブドウのタルトもとっても美味しくて限定で、あと、それから……」
「ありがとうスカーレット。説明を全部聞きたいところだけど、とっても長くなりそうだからそのくらいでいいよ。じゃあ桃のケーキをいただこうかね」
「はい!」
メイドさんがカンナベル枢機卿の前に桃のケーキを置いて、残りをわたしの前にずらりと並べてくれる。
テーブルの上に乗り切らなかったから、乗らなかった分はワゴンの上だ。食べ終わったら空いたお皿と交換してくれるらしい。
……今日もケーキがいっぱい!
リヒャルト様は甘いものをあまり召し上がらないから、今日もいらないんだって。
「それで、本日はどのような用向きで? 手紙には子細が書かれていませんでしたが……」
「手紙には書きにくい内容だったもので、申し訳ありません」
アポイントを取るときには、こういう内容のご相談があるから予定を取ってほしい、みたいな形で連絡を入れるのが基本らしい。
とくに、リヒャルト様のように忙しい方の予定を抑える時は、内容によって優先順位をつけることもあるから、内容を伏せて時間を作ってほしいと連絡が入ることは少ないんだそう。
カンナベル枢機卿はわたしと違って常識のある方だから、基本を無視するとは思えない。リヒャルト様もそこが気になっていたみたいだけど、手紙に書きにくいことについてのご相談なら仕方ないよね。
ちょっと前に教えてもらったんだけど、手紙の配達方法には主に二種類あるらしい。
一つは郵便屋さんを介してのやり取り。
もう一つは、誰かに頼んで届けてもらう方法。
国王陛下がお手紙を出すときは後者で、側近や騎士さんが動くことが多い。
リヒャルト様もお邸の使用人さんにお願いして手紙のやり取りをしてもらっている。
だけどカンナベル枢機卿のお手紙は郵便屋さんが持って来た。
カンナベル枢機卿は偉い方だから、側近もいるし、大聖堂で働く使用人さんに言づけることもできるはずだけど、わざわざ郵便屋さんを使ったのならそこに意味がある。
わたしには難しいことはわからないけど、カンナベル枢機卿の立ち位置が神殿で少々危ういのではないかとリヒャルト様が言っていた。
例えば、側近に頼んだり使用人に頼んだりした場合、大聖堂に住む他の誰かに手紙を奪い取られて中を検閲される可能性とかだ。
だけど郵便屋さんを使っても絶対に安全と言うわけではなくて、リヒャルト様の手元に届く前に誰かが中身を確認する危険性を考えて、わざと詳細は書かなかったのではないか、というのがリヒャルト様の推測らしい。
……うん、ややこしい!
だけど、カンナベル枢機卿が大変なのはなんとなくわかったよ。
そしてリヒャルト様の推測はどうやら間違いではなかったみたい。
カンナベル枢機卿が肩をすくめて、細く息を吐き出した。
「ご慧眼恐れ入ります。ご推察の通り、現在神殿内部は荒れております。お恥ずかしながら、内部争いと申しますか……、来るべき日に備えて、皆、ピリピリしているのです」
「来たるべき日、と申しますと?」
カンナベル枢機卿は、一度きつく目を閉じると、ゆっくりと瞼を上げ、リヒャルト様をまっすぐに見つめた。
「……教皇猊下が、生前退位なさる可能性がございます」
リヒャルト様が、大きく目を見開いた。
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☆あらすじ☆
癒やしの力が強くなったアイリーンだが、
今度は聖獣が人間の姿に変身!?
ますますドタバタな聖女ライフ第5巻!
グーデルベルグが抱える「リアースの祟り」や
王子間の問題も解決に向けて一歩前進…のはずが
ランバースのとある町では
新たに聖女が絡む事件が起こっていて――。
描き下ろし短編も収録!
出版社 : 一迅社 (comic LAKE)
発売日 : 2026/5/25
ISBN-10 : 4758099022
ISBN-13 : 978-4758099028







