紅い髪
永久古書堂
観音開きの扉にはめ込まれた磨りガラスに店名が刻まれている。
ゆっくり扉を開くと、紙の匂いと木の匂いがほのかに鼻をかすめる。
「あのー…………すいませーん。お……七辻さんのお使いで来ました…………誰かいませんか?」
薄暗い店内に並ぶ天井に届きそうな書架。
アンティーク風のランプが飾られてあるレジらしき木製机。
「あのー…………」
恐る恐る店内を歩きながら人を探しながらも、書架に収められている本を物色する。
「すげぇ…………教授の研究室にありそうな本ばっかりだ。」
奥へ進むにつれてマニアックな古書や書物が目を引く。
そのとき、店の扉が開く音がした。
「っ……!?」
凛太郎は扉の方に戻り、書架の影から音の原因に聞き耳をたてる。
「おい、ジジイ。この前注文した本来たんだろ?…………おい、居ねえのか?」
艶のある中性的な、それでもやや低めの声に生意気な口調
そっと書架の影から声の主を見てみる。
第一印象は『紅』
血のように紅く鮮やかな髪。ショートヘアに長い髪をひと房着けたような髪型。
扉から溢れる外の明るさが逆光になり、紅い髪色が薄暗い店内にくっきりと栄える。
顔は逆光でよく見えない。しかし、一つだけハッキリと見えた。
三白眼気味の金色の目。
「っ…………!」
“コワイ”
“コノヒトハ コワイ。”
“ナカニ ナニカ イッパイ イル”
七辻を前にした時とは違う悪寒と危険信号。
七辻がじわじわと侵食する毒の様なものだとしたら。
扉に佇む彼は気を抜いたら殺られる。そんな怖さ。
あの風貌で、この町にいるということは妖関係だろう。
携帯はアパートに置いてきた。
今はメモと代金しか所持してない。
早く逃げないと!
そう思った時
「おい。お前。」
彼が『後ろ』にいた。
「っ!?」
心臓が一瞬止まったような錯覚が起きた。
思わずよろけて尻餅をついた。
あれ、だって今扉の方にいたんじゃ……!?
凛太郎が転んで尻餅をついたことに構わず紅髪の彼は続ける。
「テメエ、仙人みてぇなジジイ見てねぇか?それかハイカラな女かモヤシみてぇなチビ」
そんな言葉は凛太郎の耳には入らなかった。
「………………み」
「あ?なんだよ」
「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
恐怖に抗おうとして叫んでしまった。
猫みたいに。
叫びに叫び。気を失うまで叫び続けた。




