長い一日の終わり。
夜
俺の歓迎会兼交流会が開かれた。
司会は勿論、大家・七辻
「それでは、新人君の歓迎会兼交流会を始めるヨ。新人君、一言。」
「あ、はい。……鈴村凛太郎です。火車の孫で、207号室に住みます!よろしくお願いします!!」
パチパチ、パチパチ!!
拍手と嬉しがるような鳴き声が聞こえる。
「まだ自己紹介してない人は自己紹介しといてネ。まあ、2名ほど不在ダケド。」
「はーい、アタシから自己紹介するわね~。」
滑らかなウエーブの黒髪ナイスバディのお姉さんが挙手をする。
ゆったりした普段着だが、下半身はスカートとかではなく…………
蜘蛛である。
「アタシは鬼蜘蛛 朱音よ♪さっきは驚かせてごめんなさいね。」
ここに来て慣れたつもりだったが、甘かった。
ナイスバディお姉さんのスーツの下が蜘蛛だとは思いもせず、朱音さんが廊下から現れた瞬間叫んでしまった。
ちなみに妖怪小学校の先生で102号室の人。
『女郎蜘蛛』と言う妖怪で兄弟・姉妹が多く、自分を含めて30人はいるらしいが女郎蜘蛛の間では少ない方だと言っていた。
「次……いいですか?」
オドオドした女性が控えめに挙手をする。
「坂口 彰子と申します。……よろしくお願いします。」
日に焼けて茶色くなった長い髪。いじめられっ子系という訳ではないが、単に怖がりなだけらしい。
何故かというと、後頭部にある『小振りな口』のせいだろう。
坂口さんは『二口女の子孫』で105号室の人だ。
普段は販売店に勤務しているそうで、その時は後頭部の口をお団子ヘアーで隠しているらしい。
「よ、よろしくっす」
食堂は飲み食い騒ぎの宴会状態で、司会の七辻さんも隅の席でチビチビ晩酌しながらテレビを見てる。
百目鬼さんの美味い飯をかき込みながら受け答えをし続けていると、袖をクイクイと引っ張られた。
「これ、あげる。新作。」
「あ、ありがとうございます……」
寝癖だからけの色素の薄い髪をした人から、ブレスレットを貰った。
よく見たら女と見間違う顔の美人さんだった。
「あの……」
「雨野……………………瑞花。201号室、在住………………よろしく。」
「よ……よろしくっす」
後から聞いた話しだが、瑞花さんはアクセサリー店で働いている『人魚』。
アクセサリーデザイン・製作が得意らしいが、掴み所の無い不思議系のため話が噛み合わないことがしばしばあるようだ。
「いいなー、瑞花っちにアクセ貰って。」
茶髪のロングヘアーで山盛り飯を淡々と食す女子が話しかける。
「え……?」
「瑞花っちのアクセって、ある意味ご利益あるんだよねー♪
あ、ごめん。私一人で盛り上がって。」
「いや、大丈夫だけど……」
「はいはい、自己紹介ね。
私は天海 杏珠。204号室にいる『天狗の孫』。ヨロシク。」
彼女は今を輝く女子高生で有名な公立高校の2年生だと言う。
「よろしく…………ご利益って?」
「瑞花っちのアクセって結構人気なんだよ?願いが叶うって。しかも、オーダーメイドだから尚更。」
「へぇー……」
大切にしよう。
あと2名ほど不在らしいが、大体の住人はこれで全員だ。
大家室 七辻名無
101号室 百目鬼さん
102号室 鬼蜘蛛さん
103号室 葉さん
104号室 不在の人
105号室 坂口さん
201号室 瑞花さん
202号室 日向先輩
203号室 不在の人
204号室 杏珠ちゃん
207号室 俺
といったとこか。
宴会場と化した食堂で酒豪の大人共に混じって古くから住む“ご近所の人達”もいるらしく、話しかけられてはばーちゃんにヨロシクとか言われる。
宴会を抜けて各自風呂に行くなり、テレビを見るなりと自由な雰囲気に少しづつ混ざりながら裏目荘での一日目が終わった。
久しぶりに多勢で飯を食べて、笑い合ったり、ふざけ合ったり出来て楽しかった。
温かく、安心できる場所。
そんな家族みたいな場所だから、ばーちゃんは俺をここに住ませたのか?
両親を失い、さらに自分もあの世に帰らなければならない。
そんな選択を迫られたら?
ばーちゃんのことだ。
すぐに答えは出ていただろう。
裏目荘に住まわせよう。
妖怪の血が目覚めても大丈夫。
ここなら受け入れてくれる。
どうしたら良いか、道を示す手がかりをくれる。
今日一日で十分に分かった。
明日も頑張ろう。
いつか妖怪の血が完全に目覚めても、この場所なら安心ができる。




