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七辻名無の平凡な日常  作者:
第1章
14/30

ほんわかした人と先輩

「お……………………おお!」


207号室は質素な畳敷きの和室だが、窓の一部がステンドガラスになっていて、とても不思議な風景を作り上げている。


窓から顔を出すと下は庭で、手入れが行き届いているのが分かる。


「意外と綺麗っすね」


「隣部屋が空室だから、定期的に垢舐めが掃除してるよ。」


垢舐(あかな)めって、風呂に出る妖怪じゃ……」


「汚い所を綺麗にするのが好きな妖怪だよ。ただし、風呂掃除しようとすると夢中で垢を舐め始めるから、風呂掃除だけは住人の当番制。」


「了解っす。」



取り敢えずダンボールの山を出来るだけ片付けよう。流石に寝る場所くらいは確保したい。


四ツ谷さんに手伝ってもらい、荷物の半分を片付け終えた時だった。



「ただいまー」


「ただいまです~。縁く~ん、お水ください~。暑くて枯れちゃいますよ~」






他の住人が帰って来たようだ。


「凛太郎君。僕はまだ仕事があるから帰るね。他のみんなと仲良くね。」


そう言い残すと四ツ谷さんは帰っていった。

よく考えれば、四ツ谷さんは仕事がまだあるのだった。

他の人との対面……緊張するぜ!


緊張しながらも軽い足取りで階段を下り、食堂に顔を出す。







「ほれ、水。今日はそんなに暑くねぇと思うんだがなぁ?」


「植物は光合成しますから~。エネルギー消費が激しいんですよ~」


百目鬼さんが女の人に水の入ったコップを渡していた。

ボブくらいの黒髪で低めの身長、のんびりと間延びした言葉使いからふんわりした印象を受ける。


そんな2人の近くで、今日の新聞に目通している青年がいる。


「大将ー、杏珠(あんじゅ)のヤツが言ってた番組ってどれだ?」


「あー、あれだろ?夜七時にやる……最近流行りの俳優が司会のバラエティ番組。」


「ん……ああ。あった。」


細身の長身に浅黒い肌。やや伸びた髪を後ろで括ったその青年には見覚えがあった。


日向(ひゅうが)先輩!?」


「あ?………………………………………………鈴村?」


「あら~?新人さんが来るの、今日でしたっけ~?新人さんとお知り合いですか~?」


「大学サークルの後輩」


「そういや、(れん)は凛太郎と同じ大学だったな。」



日向(ひゅうが)炎人(れんと)

一つ上のサークルの先輩。

大学では経済学部を選考しているらしい。


「先輩も妖怪関係……だったんっすか」


「……まあな。俺は『鬼火の半妖』で、部屋は202号室だ。……住人のよしみだ。困った事があったら言え」


そう言うとポンポンと頭を撫でられた。

日向先輩は俺より身長が高いため、サークルではよく気まぐれで肘置きにされる。

先輩と同じ妖怪関係と思うと、なんだか少し親近感が湧いた。



「炎人君だけズルイですよ~。私も自己紹介しますね~。

私は与那国(よなぐに) (はお)っていいます~。葉でいいですよ~。

こう見えて『植物妖怪』なんですよ~。お花屋さんで働いてます~。お部屋は103号室です~」


「えっと……鈴村凛太郎っす!よろしくお願いします!」



植物妖怪……ほんわかしてるのはそのせいか。


「他ヤツらには晩飯で会えるぜ。お前の歓迎会も兼ねてっから、大将が滅茶苦茶張り切ってら。」


ニヤリと黒猫を連想さするような笑いを浮かべて、慣れた足取りで百目鬼の手伝いをしにいく炎人。

葉さんはカウンターに乗り出して厨房の百目鬼さんと話してる。


「ミネラルウォーターと野菜スティックも欲しいです~。水割りは出ますか~?」


「やっぱり酒が無きゃ始まんねぇだろ。」


「ガキがいんの忘れんなよ。酒飲み共」



葉さん、酒豪なのか……

俺はまだ未成年だし、一口でもだめな下戸らしいから酒は無理だ。



夕餉の匂いに誘われたのか、気が付くと壁や床に小さい異形達がちらほら集まり始めている。


「ただいま」


玄関から人の声がした。

住人達が裏目荘に帰ってくる。

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