表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七辻名無の平凡な日常  作者:
第1章
11/30

怒られるって幸せなこと

「さてと。まずはアパートの決まり事を確認してネ」


そう言うと、七辻はルールが記入してある紙を凛太郎に渡す。

なになに……


一つ、他の住人と仲良くすべし。

二つ、風呂・トイレ掃除の当番を守るべし。

三つ、住人同士は助け合うべし。

四つ、部屋はなるべく綺麗にすべし。

五つ、力による揉め事厳禁。話し合いで解決すべし。

六つ、大家の頼み事は聞くべし。



「力って……俺みたいな体質の事ですか?」


「体質、ネェ…………」


チラリと四ツ谷に視線を向け、すぐに凛太郎に視線を戻す。


「君さ、真実を知るって事について、どう思ウ?」


「は?」


「真実を知る事で自身に何があると思うのか、って聞いているんダヨ」


「真実…………それが、今の俺に関係あるわけ……」


「関係あるンダヨ」


凛太郎の言葉を遮る。


「君のソレは体質なんて、曖昧で都合の良いものじゃ無いヨ。

立派な遺伝。高貴で力強い、彼女の血サ。

四ツ谷君の話からすると、君の従姉(いとこ)には遺伝していないらしいけど…………君も含めて、何代か後に先祖返りが起こる可能性はあるンダヨネー。」


「さっきから何の話を……!」


「凛太郎君、落ち着いて」


「火車」


「は?」


「聞いた事はあるダロ?民俗学を学んでいるなら、嫌でも耳に入るサ。」


火車って確か…………

文献だと、遺体を攫う猫妖怪で亡者を地獄に連れて行くって説がある妖怪。


「火車って妖怪がどうしたんだよ。」


「まだ分からないのカイ?」


七辻の低い声と冷ややかな視線に背筋が凍る。


「君は火車・珠代の孫ダヨ」



七辻の言葉を理解するまで数秒。


「は?…………何、言ってんだよ。ばーちゃんは人間に決まってんだろ!妖怪扱いすんな!!」


バンッと机を叩く。


「だから言ったデショ?真実を知る事についてどう思うか……ッテ」


「真実も何も妖怪なんて、いるわけないだろ!馬鹿にすんな!!四ツ谷さん、この人何っすか!?妖怪だな、ん…………て……」



隣にいる四ツ谷さんに助けを求めた。

しかし、四ツ谷さんは両手を堅く握りしめて正座していた。

その表情は険しく暗く、忌まわしい事を思い出しているような…………。

流石にそんな表情を見たら、怒りが治まる。



「よ、四ツ谷さん……?」


「っ……ああ、すまない。気にしないでくれ。」


「あーあー…………」


七辻は小学生のようにわざとらしくため息を吐く。


「話を戻してもいいカナ?」


「ぐっ……」


渋々と座布団に座り直す。


「信じないなら、証拠でもあればいいのカイ?」


「証拠?」


「縁君ー。ちょっと来てー」


食堂にいる百目鬼さんを呼ぶ。居間と食堂を繋ぐ戸が乱暴に開く。


「おい、俊は大丈夫か!?」


「煩い、大丈夫だ」


ヤベェ…………さっき大声出したから、聞こえてた……


「話の流れ、“見てた”?」


「まあ…………凛太郎の大声が聞こえたからな」


「そんな訳だから、証拠。見せてあげてヨ」


百目鬼さんが証拠を見せる?

厳しい表情で百目鬼は凛太郎に話しかける。


「凛太郎。良く見とけよ。後な……」


「?」


「話し合いが終わったら、俊に謝れ。」


「は、はい…………?」


え、俺、四ツ谷さんに何か言ったか?

呆然とする凛太郎を他所に、百目鬼は腕の包帯を外し始めた。

何故、包帯を?そんな凛太郎の疑問はすぐに吹き飛んだ。


何故なら




「ひっ!?」



腕に巻かれているのだから、包帯の下には腕がある。

当たり前だ。

でも、


腕に無数の目が着いていたら、どう思う?




「ど、百目鬼さん…………う、腕に…………め、目が…………!」


「俺もお前と同じでな。俺のじいさんは“百目”っつー妖怪なんだよ」


「よ、妖怪……」


自身の目を疑った。

低く、怒気を含んだ百目鬼さんの声


「お前、何にも知らねぇんだな。黎と俊の側にいたクセに。

分からねぇクセに、軽々しく妖怪馬鹿にすんじゃねぇぞ!!」



「き、教授と四ツ谷さん……っ?」


「彼らも妖怪の血を受け継ぐからサ」


「え……」


「黎湘君は(ぬえ)の孫で、四ツ谷君は(さとり)の子孫なんダヨ」


「あ……」


[妖怪なんているわけない]


それは否定の言葉。

今、目の前にいる妖怪の血を引く二人にとっては、自分の存在だけでなく、血を繋いでくれた人をバカにされたようなものだ。


それを今しがた、妖怪の孫と言われ、信じなかった俺に言われたら…………


四ツ谷さんは静かに怒っていた。

百目鬼さんは怒鳴って教えてくれた。



「っ…………ごめんなさい」


謝るべきだ。

謝らないといけない。

彼らの存在を否定したのだから。


「ふん…………分かりゃいいんだよ。」


百目鬼さんは包帯を巻きなおしながら、居間から出ていった。


「コレで分かったカナ?」


「……分かりました」


「ココには純粋な妖怪も居るから頑張ってネー」


マジかよ!!!!??

相手が百目鬼さんで良かった!!命拾いした!


「ん?ってことは、人は居ないんですか?」


恐る恐る聞いてみる。


「居るヨ。全国放浪修行中の霊能者が」


「…………マジですか」


「大マジ」


「えっと…………それじゃあ、俺の体質は治らないって事、すか?」


「治りはしないけど、封じることは、出来るヨ。でも…………」


「でも?」


「封じると君の地味さが増すネ」


「ほっとけコンチクショぉぉぉぉー!!」



最後の最後で俺の心をへし折る大家であった。




「これからよろしくネ。新人君♪」


「アンタとはよろしく、したくねぇー……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ