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配信終了まで、あと五分。  作者: ゆこた


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4/5

四話

翌朝。


「……眠い」


俺は大学の講義室で机に突っ伏していた。


昨日の配信が終わったのは午前一時。


その後、SNSの反応を確認していたら二時。


切り抜き動画を確認していたら三時。


そして、凛が送ってきたメッセージに返信していたら三時半。


完全に寝不足だった。


「神谷」


隣の席から声がした。


「ん?」


「昨日の配信、見たぞ」


「……」


嫌な予感がした。


顔を上げる。


そこには大学で仲良くしている友人、佐々木が立っていた。


「お前、VTuberやってたんだな」


「……誰から聞いた?」


「SNS」


「……」


俺は机に顔を伏せた。


「終わった」


「何が?」


「俺の大学生活」


佐々木は笑った。


「いや、普通にすごいじゃん。登録者三万人って」


「まあ……」


「しかも妹もVTuberなんだろ?」


「……そう」


「昨日の配信、めちゃくちゃ面白かったぞ」


「頼むから学校ではその話をするな」


「なんで?」


「恥ずかしいから」


「別にいいじゃん」


「俺は静かに大学生活を送りたいんだよ」


その瞬間。


俺のスマートフォンが震えた。


画面を見る。


凛からだった。


『お兄ちゃん』


嫌な予感しかしない。


『今日、学校終わったら事務所来て』


『なんで?』


『新しい企画がある』


『嫌』


『もう決まった』


『俺の予定は?』


『空いてる』


『勝手に決めるな』


既読。


返信なし。


数秒後。


SNSの通知が届いた。


『ミライカナタ、重大企画近日公開』


「……」


俺はスマートフォンを握りしめた。


「おい、神谷」


佐々木が画面を覗き込む。


「また何か始まった?」


「知らない」


「お前の妹だろ」


「俺も知らない」


「兄なのに?」


「兄だからこそ分かるんだよ。あいつが何か企んでるときは、絶対ろくなことにならない」


その予感は。


見事に当たった。


大学の講義が終わり、俺は事務所へ向かった。


ドアを開ける。


「お兄ちゃん!」


凛が飛び込んできた。


「危ない!」


「聞いて!」


「何?」


「次の企画!」


凛がホワイトボードを指差す。


そこには大きく、


『兄妹一日生活交換企画』


と書かれていた。


「……何これ」


「一日だけ、お互いの生活を交換するの」


「意味が分からない」


「お兄ちゃんが私の高校生活を体験して、私がお兄ちゃんの大学生活を体験する」


「無理だろ」


「なんで?」


「年齢が違う」


「そこ?」


「そもそも俺が高校に行ったら問題になる」


「じゃあ学校はなし」


「どうするんだよ」


「家で再現する」


「それなら最初から交換する意味ないだろ」


スタッフが笑いながら説明する。


「実は、ファンからかなり要望が来てまして」


「要望?」


「兄妹の普段の生活が見たいという声が多いんです」


「……」


俺は頭を抱えた。


「俺、普通に生活してるだけなんですけど」


「それが面白いんですよ」


「絶対おかしい」


凛が手を叩く。


「じゃあ決定!」


「まだ決めてない!」


「決定!」


「俺の意見は?」


「多数決」


「誰と誰の?」


「私とスタッフ」


「二対一かよ!」


そして。


企画当日。


朝。


「お兄ちゃん起きて!」


「……」


「起きて!」


「あと五分……」


「配信始まるよ!」


「……」


俺は飛び起きた。


「何時!?」


「朝七時」


「早すぎる!」


「私の生活、これくらいだよ」


「高校生って大変だな……」


寝ぼけながらリビングへ行く。


カメラが設置されている。


スタッフもいる。


「おはようございます」


「おはよう……」


凛は元気いっぱい。


「今日はお兄ちゃんの一日を体験します!」


「まず俺は大学だぞ」


「だから今日は私が大学生になります」


「その前に朝ご飯」


「何食べる?」


「パン」


「分かった!」


凛がキッチンへ向かう。


数分後。


「できたよ!」


テーブルに置かれたものを見る。


「……」


焦げたトースト。


謎のスープ。


そして。


「これ何?」


「卵焼き」


「黒いけど」


「ちょっと焼きすぎた」


「ちょっとじゃない」


スタッフが笑っている。


コメント欄も流れている。


『妹ちゃん料理できないw』


『黒すぎる』


『兄ちゃんかわいそう』


「お兄ちゃん食べて」


「……」


俺は覚悟を決めた。


一口。


「……」


凛が心配そうに見る。


「どう?」


「……水」


「まずい?」


「水をくれ」


コメント欄が爆笑する。


『正直すぎる』


『兄の命が危ない』


『妹料理企画シリーズ化して』


凛は頬を膨らませた。


「じゃあ次、お兄ちゃんの番」


「俺?」


「私に大学生っぽい朝ご飯作って」


「普通に作るよ」


俺はキッチンに立った。


簡単な料理を作る。


完成。


「はい」


凛が食べる。


「……おいしい」


「普通だろ」


「すごい」


「料理くらいできる」


「お兄ちゃんって、実は家庭的?」


「実はって何だよ」


コメント欄が流れる。


『兄ちゃん有能』


『これはモテる』


『妹ちゃんが羨ましい』


凛が突然言った。


「じゃあ、お兄ちゃん彼女にしたい?」


「俺は彼女じゃない」


「そうじゃなくて」


「何?」


「彼女になったら、毎日ご飯作ってくれそう」


「……」


「いいなあ」


「お前、何の話してるんだ」


「配信だよ」


「そういう問題じゃない」


そして午後。


今度は凛が俺の大学生活を再現する。


パソコンを開く。


レポートを書く。


動画編集をする。


配信準備をする。


凛は五分で飽きた。


「……大学生って暇じゃない?」


「暇じゃない」


「ずっと座ってる」


「勉強してるんだよ」


「私には無理」


「お前が大学生になったらどうするんだ」


「お兄ちゃんに全部やってもらう」


「それは大学生じゃない」


その後。


凛は俺の配信準備を勝手に始めた。


「今日の配信タイトルはこれ!」


ホワイトボードを見る。


『妹が兄の秘密を全部暴露します』


「やめろ!」


「なんで?」


「秘密なんてない!」


「本当に?」


「……」


凛がニヤッと笑う。


「じゃあ言っていい?」


「何を?」


「昨日、夜中に――」


「待て!」


俺は慌てて凛の口を塞いだ。


「んー!」


「絶対言うな!」


コメント欄は大盛り上がり。


『何!?』


『昨日何があった!?』


『兄ちゃん必死すぎw』


凛は俺の手を振りほどく。


「危ない!」


「何が?」


「俺の社会的信用が!」


「そんなのあった?」


「あるわ!」


そして。


その日の最後。


企画終了の時間。


スタッフが言った。


「本日の企画はここまでです」


俺は椅子にもたれかかる。


「やっと終わった……」


凛が笑う。


「楽しかったね」


「俺は疲れた」


「でも」


凛が小さな声で言う。


「お兄ちゃんと一日ずっと一緒に配信できて、私は楽しかった」


俺は少しだけ黙った。


「……俺も」


「本当?」


「うん」


凛が笑う。


「じゃあまたやろう」


「……月一回なら」


「毎週」


「多い!」


「じゃあ三日に一回」


「交渉になってない」


その瞬間。


スタッフのスマートフォンが鳴った。


「……あ」


「どうしたんですか?」


俺が聞く。


スタッフが画面を見る。


そして。


「次のコラボについて、白雪アリスさんの事務所から連絡が来ました」


「……」


凛が俺を見る。


俺も凛を見る。


二人同時に。


「また?」


スタッフは笑った。


「はい。次は三人ではありません」


「じゃあ誰?」


「四人です」


「増えた!」


俺は思わず叫んだ。


凛は楽しそうに笑う。


「お兄ちゃん」


「何?」


「もっと大変になるね」


「……もう帰りたい」


しかし。


凛は俺の腕を掴んだ。


「ダメ」


「なんで?」


「まだ配信終了まで、あと五分だから」


俺は時計を見る。


確かに。


まだ五分残っていた。


そして。


その五分の間に。


また何かが起きる。


俺には、そんな確信があった。

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