三話
「それはね――」
妹の凛が、意味深な間を作った。
俺は嫌な予感しかしなかった。
「お兄ちゃんは――」
「待て」
「実は――」
「待てって」
「昨日――」
「だから待て!」
コメント欄が一気に流れる。
『何!?』
『重大発表?』
『兄ちゃん止めてて草』
『ミライちゃん何を暴露するんだ』
俺はマイクに顔を近づける。
「凛、何も言うな」
「えー」
「えーじゃない」
「でも面白いよ?」
「配信は面白さだけでやるものじゃない」
「そうなの?」
「そうだよ」
すると、白雪アリスが笑った。
「お二人、本当に仲がいいんですね」
「違います」
「仲いいよ」
俺と凛の声が同時に重なる。
コメント欄が爆発した。
『息ぴったりw』
『もう夫婦だろ』
『兄妹だぞ』
『アリス困惑してて草』
「ほら、お兄ちゃん」
凛が言う。
「コメント欄も喜んでる」
「喜んでるからって何でも言っていいわけじゃない」
「じゃあ一つだけ」
「一つもダメ」
「昨日――」
「だから!」
俺は凛のマイクをミュートにした。
「!」
凛が驚いた顔をする。
コメント欄はさらに盛り上がった。
『兄が妹のマイク切ったw』
『配信事故』
『兄妹喧嘩始まった』
『ミライちゃん何を言おうとしたんだ』
凛は自分のマイクが切られたことに気づくと、ジェスチャーで抗議を始めた。
「……」
俺は首を横に振る。
「……!」
凛は腕を組む。
「……」
俺はもう一度首を横に振る。
すると凛は、机の上に置いてあったメモ帳を持ち上げた。
そこには大きな文字で、
『お兄ちゃんの秘密を言います』
と書かれていた。
「おい!」
俺は慌ててそのメモ帳を奪い取った。
アリスが笑っている。
「本当に仲がいいですね」
「違いますって!」
コメント欄。
『何の秘密なんだよw』
『めっちゃ気になる』
『今日終わるまでに絶対言って』
『兄ちゃん頑張れ』
俺は深呼吸した。
「……分かった」
凛を見る。
「一つだけならいい」
凛の目が輝いた。
「本当?」
「ただし、俺が許可したことだけ」
「じゃあ質問!」
「何?」
「お兄ちゃん、好きな人いる?」
「却下」
「早っ!」
コメント欄が大爆笑。
『即答www』
『これは怪しい』
『絶対いるだろ』
アリスまで笑っている。
「カナタさん、人気ですね」
「人気というか、妹にいじめられてます」
「でも、少し羨ましいです」
「え?」
アリスは笑った。
「私、兄弟がいないので」
「そうなんですか」
「はい。だから、ちょっと楽しそうです」
その言葉を聞いて。
凛が突然立ち上がった。
「じゃあ!」
「何?」
「今日からアリスさんも私のお姉ちゃん!」
「待て」
「お姉ちゃん!」
「待ってください!」
アリスが笑いながら困惑する。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんができたよ!」
「いや、できてない」
「じゃあお兄ちゃんのお姉ちゃん」
「俺にもできてない」
「じゃあ家族になろう!」
「話が飛びすぎだ!」
コメント欄は完全に祭りになっていた。
『ミライちゃん自由すぎる』
『アリス姉さん爆誕』
『カナタ家族増えてて草』
『今日神回だろ』
『この三人ずっと見ていたい』
そして。
ここからさらに問題が起きた。
ゲームを始めるために、俺がゲーム画面を起動する。
「じゃあ、協力ゲームやります」
「私、ゲーム得意!」
凛が自信満々に言った。
「前回、開始三分で落下死しただろ」
「今日は違う」
「何が?」
「成長した」
「具体的に?」
「気持ち」
「操作技術じゃないのかよ」
アリスが笑う。
「楽しそうですね」
ゲーム開始。
三人で協力して進んでいく。
最初は順調だった。
「右!」
「分かってる!」
「上!」
「今行く!」
「アリスさん、そっちじゃない!」
「あ、すみません!」
三人で大騒ぎしながら進む。
そして。
ボス戦。
「ここは私に任せて!」
凛が突っ込む。
「待て!」
ドン!
凛のキャラクターが吹き飛ばされた。
『GAME OVER』
「……」
「……」
「……」
コメント欄が一気に流れる。
『早すぎw』
『ミライちゃん何してんの』
『さすが妹』
「今のは違う!」
凛が叫ぶ。
「ゲーム側が悪い!」
「ゲームに責任転嫁するな」
「お兄ちゃんが助けてくれなかった!」
「俺は助けに行った!」
「遅かった!」
「お前が突っ込むのが早すぎるんだよ!」
「まあまあ」
アリスが二人をなだめる。
「もう一回やりましょう」
「アリスさん優しい!」
凛が言う。
「お兄ちゃんとは大違い!」
「誰のせいだと思ってるんだ」
二回目。
今度は慎重に進む。
しかし。
開始から十五分。
凛が突然言った。
「トイレ行ってくる!」
「今!?」
「すぐ戻る!」
「ボス戦直前だぞ!」
「大丈夫!」
そう言って凛は席を外した。
俺とアリスだけが残る。
コメント欄が突然ざわついた。
『二人きり』
『これは……』
『ミライちゃん帰ってきてw』
俺は慌てる。
「えーっと……」
アリスも少し困っている。
「……どうしましょう」
「雑談します?」
「そうですね」
二人で話し始める。
大学の話。
配信の話。
最近食べたもの。
普通の雑談だった。
ところが。
凛が戻ってきた。
「ただいま!」
「おかえり」
凛が画面を見る。
そして。
「……何してるの?」
「雑談」
「私がいない間に二人で?」
「普通に話してただけだろ」
「怪しい」
「なんでだよ!」
「浮気?」
「俺たちは付き合ってない!」
アリスが吹き出した。
コメント欄も大爆笑。
『妹の嫉妬w』
『ミライちゃんお兄ちゃん大好きすぎる』
『アリスさん困ってて草』
「違うから!」
凛が慌てて否定する。
「私はただ、お兄ちゃんが変なことしてないか確認しただけ!」
「俺を信用してないのか?」
「してない」
「即答するな」
そして配信終了五分前。
スタッフから終了の合図が来た。
「そろそろ終わります」
俺が言う。
「今日はありがとうございました」
「ありがとうございました!」
アリスも挨拶する。
ところが。
凛が突然。
「最後に重大発表があります!」
「またか!」
俺は頭を抱えた。
『きた!』
『また何かあるw』
『今度は何?』
凛が胸を張る。
「次回!」
「うん」
「お兄ちゃんの部屋を公開します!」
「やめろ!」
「ゲーム配信します!」
「そっちかよ!」
「え?」
凛が首を傾げる。
「何だと思ったの?」
「……」
コメント欄が爆発した。
『兄ちゃん自爆www』
『何を想像したんだ』
『怪しすぎる』
アリスまで笑っている。
「カナタさん、何を考えていたんですか?」
「何も考えてません!」
「顔真っ赤ですよ」
「暑いだけです!」
「今日一番面白い」
凛が笑う。
「じゃあ次回も三人でやろうね!」
俺は深いため息をついた。
「……もう好きにしてくれ」
こうして。
兄妹VTuberと人気VTuberによる初コラボ配信は終了した。
配信終了後。
俺はスマートフォンを確認する。
通知が止まらない。
SNSのトレンドには、
『ミライカナタ』
『白雪アリス』
『妹』
『兄妹VTuber』
そして。
『カナタ何を想像した』
という謎のワードまで入っていた。
「……終わった」
俺が呟くと。
隣から凛の声がする。
「お兄ちゃん」
「何?」
「次の配信、もっと面白くしようね」
「……」
俺は妹を見る。
そして。
「お前、本当に俺の人生をめちゃくちゃにする気だろ」
凛は満面の笑みで答えた。
「もちろん!」
俺は天井を見上げた。
大学生活。
VTuber活動。
妹の暴走。
そして、人気VTuberとのコラボ。
俺の平穏な日常は。
もう二度と戻ってこない気がした。




