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配信終了まで、あと五分。  作者: ゆこた


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二話

「……本当に、俺もVTuberやるの?」


翌日の朝。


俺はリビングのソファに座ったまま、昨日の電話の内容を思い返していた。


妹の凛は、向かい側で朝食を食べながらスマートフォンを操作している。


「やるんだよ」


「なんで決定事項なんだよ」


「昨日、お兄ちゃんもいいって言ったじゃん」


「言ってない」


「心の中で言った」


「それは言ったとは言わない」


凛は不満そうに頬を膨らませた。


「でも、事務所の人もお兄ちゃんのこと気に入ってたよ」


「俺は裏方として手伝うだけのつもりだったんだけど」


「もう無理だよ」


「なんで?」


凛がスマートフォンを俺に見せる。


そこには昨日の切り抜き動画が表示されていた。


再生数は――二百三十万。


「……は?」


「コメント見て」


画面をスクロールする。


『この兄ちゃん誰?』


『声がイケボすぎる』


『兄妹でVTuberやってほしい』


『お兄ちゃんも配信者になって』


『この二人絶対面白い』


「……こんなに伸びたのか」


「うん」


「怖いな」


「私は嬉しいけど」


凛は笑っている。


俺はため息をついた。


自分の活動でも、ここまで一気に注目されたことはない。


三万人の登録者を集めるまで、俺は二年近くかかった。


それなのに。


妹は初配信から、たった一日で五千人。


そして、その勢いは止まりそうにない。


「……本当にやるの?」


「やる」


凛は即答した。


「私、一人だと緊張するけど、お兄ちゃんがいるなら楽しいから」


「……」


その言葉を聞いてしまうと、断りづらい。


俺は小さく息を吐いた。


「分かった」


「本当!?」


「ああ。ただし、条件がある」


「何?」


「学校では今まで通り。VTuberのことは絶対に言わない」


「了解」


「あと、俺の活動名はカナタのまま」


「了解」


「それと――」


「まだあるの?」


「お前が勝手に俺を配信に呼ばない」


凛は少し考えてから。


「それは無理」


「なんでだよ!」


「だって面白いから」


「……」


嫌な予感しかしない。


その日の午後。


俺たちは事務所へ向かった。


案内された部屋には、数人のスタッフが待っていた。


「初めまして、神谷さん。星乃ミライさん」


担当マネージャーが頭を下げる。


「本日はありがとうございます」


「こちらこそ」


俺も頭を下げる。


「早速ですが、お二人のユニット名を決めたいと思います」


「もう決めるの?」


凛が目を輝かせる。


「はい。いくつか候補があります」


モニターに名前が表示される。


『Twin Star』


『Brother & Sister』


『Hoshi Line』


『NEXT BROS』


「どれも微妙」


凛が即答した。


「おい」


スタッフが苦笑する。


「では、神谷さんから何か案はありますか?」


「俺?」


考えたこともなかった。


「……ミライとカナタだから」


俺は少し考えた。


「未来と彼方……」


凛が目を輝かせる。


「それ、いいじゃん」


「二人でどこまでも行く、みたいな意味にもできる」


「いいですね」


スタッフも頷いた。


「では――」


その日。


俺たちのユニット名は、


『ミライカナタ』


に決まった。


そして一週間後。


兄妹ユニットとしての初配信の日。


俺は自分の部屋で深呼吸していた。


「……緊張する」


今まで何度も配信してきた。


それなのに。


今日は違う。


画面の向こうには、自分を知っている人だけではない。


妹のファン。


事務所のファン。


そして、俺たちを初めて見る人たちがいる。


時計を見る。


開始まであと五分。


スマートフォンが震えた。


凛からメッセージ。


『お兄ちゃん』


『何?』


『緊張してる?』


『少し』


『私も』


『お前も緊張するんだな』


『するよ!』


その直後。


『でも、お兄ちゃんがいるから大丈夫』


俺は画面を見つめた。


そして、少しだけ笑った。


『俺も』


配信開始。


画面に二人の姿が表示される。


「こんばんはー!」


凛が元気よく挨拶する。


「……こんばんは」


俺も続ける。


コメントが一気に流れ始めた。


『きた!』


『兄妹VTuber!』


『カナタさん待ってた!』


『ミライちゃんかわいい!』


『声似てるw』


『兄妹感すごい』


凛が笑う。


「今日は私たちの初配信です!」


「……まあ、よろしくお願いします」


『兄ちゃん緊張してて草』


「うるさい」


『もう兄妹喧嘩始まったw』


「喧嘩じゃない」


「いつもこんな感じです」


「お前は黙ってろ」


『仲良すぎ』


配信は順調だった。


ゲームをしたり。


質問に答えたり。


兄妹で昔の話をしたり。


気づけば同時接続者数は三万人を超えていた。


俺は驚いた。


「……三万人?」


凛も画面を見る。


「すごい……」


『もっと増えてる』


『四万人いった』


『新人とは思えない』


数字がどんどん増えていく。


五万人。


六万人。


そして。


七万人。


「……」


俺は言葉を失った。


以前の自分なら、七万人なんて夢のような数字だった。


でも今。


その数字を妹と一緒に見ている。


「お兄ちゃん」


凛が言った。


「何?」


「楽しいね」


俺は少し考えて。


「……うん」


答えた。


「楽しい」


そのときだった。


スタッフから連絡が入った。


『このまま雑談に切り替えてください』


「何かあるの?」


凛が聞く。


『重大発表があります』


「重大発表?」


俺は嫌な予感がした。


スタッフから送られてきた資料を見る。


そこには。


『大型コラボ決定』


と書かれていた。


相手の名前を見て。


俺は固まった。


「……嘘だろ」


「どうしたの?」


凛が画面を見る。


そして。


「えっ!?」


そこに書かれていたのは。


現在、国内トップクラスの人気を誇る女性VTuber。


白雪アリス。


登録者数――二百万人。


コメント欄もその名前に気づいた。


『え?』


『アリス!?』


『あの白雪アリス?』


『いきなり大型コラボ!?』


『ミライカナタすごすぎる』


凛が興奮している。


「お兄ちゃん!」


「分かってる」


「アリスさんとコラボだよ!」


「分かってるって」


「どうしよう!」


「俺に聞くな!」


配信はさらに盛り上がった。


そして。


数日後。


白雪アリスとのコラボ当日。


俺はスタジオに入った。


「初めまして」


振り返る。


そこには。


長い銀髪の女性VTuber――白雪アリスの担当スタッフがいた。


そして、その隣に一人の女性が立っていた。


「カナタさんですよね?」


「はい」


「今日はよろしくお願いします」


「こちらこそ」


その声を聞いた瞬間。


俺はなぜか、どこか懐かしいような感覚を覚えた。


しかし。


その理由を考える暇はなかった。


「それでは本番五分前です」


スタッフの声が響く。


あと五分。


配信が始まれば。


また何万人もの人が俺たちを見る。


俺はマイクを握った。


「……行くか」


凛が笑う。


「うん!」


そして。


配信開始。


「こんばんはー!」


凛の声が響く。


「こんばんは。カナタです」


そして。


白雪アリスが続けた。


「こんばんは、白雪アリスです」


コメント欄が一瞬で埋め尽くされる。


『始まった!』


『この三人やばい』


『どうなるんだ』


『カナタ緊張してる?』


俺は笑った。


「緊張してます」


アリスが笑う。


「私も少し緊張しています」


凛が二人を見る。


「じゃあ、今日は私が司会します!」


「大丈夫?」


「大丈夫!」


そして。


その瞬間。


凛が突然言った。


「実は今日、お兄ちゃんには秘密があります」


「……は?」


俺は固まった。


コメント欄が爆発する。


『何!?』


『秘密!?』


『気になる!』


「凛、お前何言って――」


凛は笑っている。


「それはね――」


俺は思った。


絶対にろくなことにならない。


そして。


俺たちの配信史上最大の騒動が。


ここから始まった。

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