未完成という永遠
降臨祭が終わり次の街を目指す花春達。
西側諸国は野盗なども出るものの、基本的に仕事は国が斡旋してくれる。
野盗に堕ちるというのは結局のところ金を貯金するという概念のない人達だ。
また西側諸国は奴隷を禁止しているが、貴族や王族は使用人を雇うのはステータスでもある。
「しかしこの国は国が仕事を斡旋してくれても、みンなは救えないンだなぁ」
「そもそも病気や怪我で働けない人も少なからずいますものね」
「仕事で大きな怪我をしたりすれば、金に困るようになってしまうからな」
国がいくら仕事を斡旋しても働けない人はいる。
病気や怪我はどうにもならないという現実もまたあるようだ。
「次の街はもう目の前かな」
「はい、あと少しで間違いないです」
そのまま街道を進み次の街に入る。
その街に入ってまず目についたのは大きな時計塔。
この街には巨大な時計塔があり、それが観光名所にもなっている様子。
なお時計塔の工事は今も続いているとかで、それは100年前からという事のようだ。
「立派な時計塔だなぁ、あンな大きい時計塔はなかなか見られないよ」
「あの時計塔はこの街の観光名所でもありますのよ」
「凄く高いです、でもあの時計塔工事してますよ?」
「聞いた話では100年は工事が続いているらしいな」
「それ工事をする人達が無能なのか、わざと完成させてないのかどっちですかね」
西側諸国の価値観として、永遠とは未完成であり続ける事を言うらしい。
花春にとっての永遠は完成したものを守り続ける事でもある。
その辺は日本人の価値観なのかもしれない。
サミヨにはその価値観はどうにも理解出来ていないようである。
「でもあンな時計塔を作ろうっていう事だけでも凄いよね」
「ええ、それだけ建築の技術が高いという事でもありますから」
「ですが未完成を永遠というのは理解しかねますね、そもそも永遠なんて夢幻ですよ」
「あの時計塔の上まで飛んでみたいですね」
「イーリアさん、元々山に住んでいて空も飛べる種族なので、高いところがお好きなんでしょうか」
イーリアは種族的な本能なのか、高いところを好む性格でもある。
なのであれだけ立派な時計塔を見たら上まで行ってみたくなるのか。
空を飛べる種族というのは独特の感性を持っているのか。
「とりあえず冒険者クランに行ってみようか」
「だな、情報なども集めておきたい」
そのまま冒険者クランに向かう。
そこでいくつかの情報を得る。
そんな中財政破綻してフェンゾル国に併合される事になった国の情報が入ってきた。
どうやらその国の中にある一つの領地で暴動が起きたらしい。
領主は何者かに殺され、暴徒と化した領民達が領主邸に火を放ったとか。
そもそもの領主は腐敗が過ぎるような人であり、領民に重税を課していたという。
税金は領主がある程度は決められるのも影響していたと思われる。
国が決めた税率に対して領主はそこからある程度割合を変えられる。
なので領地によって税金には差が出るとか。
なお重税になるような税金は当然国の法に抵触するのだが。
「例の財政破綻した国の領地の一つで暴動かぁ」
「あの国は無能な王太子を後継者にした事が破滅の理由でしょうね」
「そんな酷い王太子をなんで後継者にしたのか、分からないものですよね」
その国は王太子の無能っぷりはもちろん、新たな婚約者も無能の極みだったとか。
前の婚約者がその国の金庫番だったとしたら、確実にそれを追放した事が原因になる。
やはり財政破綻をしたのはどんぶり勘定になった事が原因なのかもしれない。
通貨とはその上に乗っている信用が本体なのだから。
「国っていうのも大変だねぇ、無能一人が国を滅ぼすってマジにあるのか」
「結局は国を滅ぼすのに軍事的に攻め込む必要がないという証明ですわね」
「無能を国のトップにすれば内側から国を滅ぼせるという事ですね」
なんにせよその国はこれから再建への道を進むが、王族達は排除されるだろう。
併合という道を辿った時点で併合した国の人間が王になる事は決まりなのだと。
だからこそ国を滅ぼすのに軍隊は必要ないという事になってしまった。
とりあえずそれを心に刻みクエストなどを見に行く事にした。
「何かいいクエストとかないかな」
「これなんてどうですか?簡単な割に報酬はいいですよ」
「えっと、時計塔の掃除…それだけでいいのか」
「簡単に思えまずが、あの高さだと想像より確実に広いですよ?」
「まあいいや、これ受けようか」
そんなわけで時計塔の掃除のクエストを受ける。
受理してもらった後花春達は時計塔に向かう。
横には狭いが縦には広い建物なので、上に向かいつつ掃除をしていく。
「確かに思ってるより広いね、縦に長い建物だもンなぁ」
「まあ掃除で報酬が美味しいなら楽なものですよ」
そのまま上に向かいつつ掃除をしていく。
なんだかんだで時計塔の一番上にまで来てしまった。
「一番上から見る景色は壮観だなぁ、遠くまでよく見えるよ」
「西側諸国は連合国家なので、他の国の城壁なんかも見えますね」
「ここから見る景色が凄すぎる、この依頼受けてよかったかも」
「とりあえず掃除は終わったので、報告に行きますか」
そのまま報告に行き報酬を受け取る。
時計塔から見えた景色はそれだけ素晴らしいものだった。
しかし時計塔が未完成で工事だけが100年も続いているというのも不思議な話である。
「それにしてもこの街の時計塔って完成させる気はあるのかな」
「未完成を永遠と呼ぶ価値観は私には理解出来ませんね」
「サミヨって永遠はないと思ってるタイプかな」
「永遠というのは求めるものであるとは思いますけどね」
サミヨは永遠を信じていないタイプの性格ではある。
とはいえ人が永遠を求める気持ちも理解出来なくはないようだ。
「時計塔は確かに立派なンだけど、やっぱり完成形を見たいよねぇ」
「マスターは作り始めたからには完成させろという感じなんですかね」
作り始めたのなら完成させろ。
花春はそういう考え方なので、未完成のまま100年とかは流石にどうなのかと思う。
しかしそれが西側諸国の価値観でもあるという事なのか。
「でも西側諸国の建造物は石造りが多いね、中央部だと木造が多かったけど」
「西側諸国は建築に向いている石材などが多く産出されるとは聞きますよ」
「だから石造りの建物が多いのか、納得かも」
西側諸国の建物は石造りの建物が多い。
それは西側諸国は石材や鉱物がメインに使われているという事でもある。
石造りや鉄筋の建物が多いのは産出される石や鉱石なども関係している。
中央部の国は多くが木造だったのは、家造りに向く木材が豊富に手に入るからでもある。
「建物なンかを見ても国の違いを感じさせるなぁ」
「国の環境も影響してるとは思いますけどね」
中央部の国の多くは比較的湿度のある国が多かった。
西側諸国は比較的乾燥しているのもあるのかもしれない。
街を見て回っていると日が傾いてきたので、食材を買ってテントへ戻る事にした。
「さて、明日には首都に向かおうか」
「そうですわね、首都のファロールにはここから徒歩で数時間の距離ですわよ」
「馬車とかを使ってもいいですけど、見て回りたいのもありますしね」
「国を見て回るのも楽しいですから」
「それに魔物はもちろん、野盗なんかにも負けるつもりはないですしね」
明日には首都のファロールに向かう事で決まる。
冒険者クランは首都の本部にしかない施設やサービスも多い。
首都にあるのが各国の本部であり、他の街や村にあるのは支部である。
西側諸国はそれだけ広いのだから。




