大嵐の日
海沿いの国に来てから数日。
次の街に移動した花春達はその街に少し滞在する事に。
イーリアが読んだ通り天気が怪しくなり始め、そして大嵐が来た。
海は大時化となり、街にも外に人は少ない日となる。
「見事なまでの大嵐だね」
「外に出られなくはないが、怪我などをする可能性もあるからな」
「この嵐だと翼が濡れて空も飛べませんからね」
嵐の日は空を飛ぶイーリアにとってはなおさら危険な日となる。
それでも冒険者クランに依頼は届いたりする。
「そういえば雨が降ったら傘を差したりしないの?」
「傘ですか?嵐の日だと寧ろ差さない事の方が多いですよ?」
ペリス曰く大嵐ともなると寧ろ傘は差さない事の方が多いという。
普通の雨なら傘を差す事はあるが、貴族は馬車などで移動する事も多いためらしい。
「つまり大嵐だと寧ろ傘なンて差さない事が多いのか」
「尤もだからこそびしょ濡れになる事は多いがな」
「そうですわね、傘も安い買い物ではないので、どちらかといえばレインコートですわよ」
「つまり雨が降ったら、傘よりレインコートの方が一般的なンだね」
「実際道具屋なんかでも雨具っていうとレインコートの方が買う人は多いですから」
この世界における雨具というのは一般的なものはレインコートらしい。
傘は基本的に高い上に、強風で簡単に壊れる事もある。
なのでこの世界では傘といえば日傘であり、雨具といえばレインコートなのだと。
「でもこの雨でも外に出てる人はいるンだなぁ」
「雨で人が来る数も減るから、あえて雨の日を狙って依頼を受けに行く奴もいるぐらいだからな」
「そういうところは何かとあるンだなぁ」
花山曰く雨の日は冒険者クランに来る人が減るので、あえてその日に行く人もいるとか。
雨の日に大量に依頼を受けて報酬をたくさん得る、という人もいるとの事。
しかし大雨ならともかく、嵐となるとその強風の危険もあるので怪我をする人もいるという。
「海沿いの国は嵐が来やすかったりするのかな」
「そうですわね、海沿いの国は当然山が少ないので嵐がよく来るものですわ」
「だがだからこそ嵐への対処法なども共有している事は強みだな」
「割と頻繁に嵐が来ると、嵐をやり過ごす方法も当然発達していくもンね」
海沿いの国は町や村の建物も簡単には壊れない作りになっている。
それは雨以上に風への対策をしっかりしているという事になるのか。
なので嵐程度の強風ではびくともしないという。
「少し外に行ってきていい?」
「それは構わんが、雨具なしだとびしょ濡れになるぞ」
「まあそれはあとでなンとかするよ」
「なら私も一緒に行きます」
「分かった、みンなは留守番お願いね」
「分かった、気をつけるのだぞ」
そんなわけで花春とサミヨは嵐の街へと繰り出す。
雨具を買うのもあるが、ついでに冒険者クランにも行く事にした。
まずは道具屋に行き、レインコートを買う。
その足で冒険者クランに向かった。
「雨の日はやっぱり来る人は少ないンだね」
「そうですね、とりあえず依頼を見てみますか」
冒険者クランに来ている依頼を確認する。
来ている依頼は少ないが、そんな中から受けられる依頼を見る。
そこに来ていた依頼をとりあえず受ける事にした。
報酬はそこまで多くないものの、とりあえずそれを手に取る。
「これをお願いします」
「はい、それにしてもこの天気でよく来ましたね」
「まあ少し気になったというだけだから」
「はい、受理いたしました、では完了したら報告に来てくださいね」
「はい、では行きましょう」
受けた依頼は街の北の崖にある鳥の巣の様子を見てきて欲しいというもの。
その鳥の巣は珍しい鳥の巣らしく、この国にしか生息していないという。
なので国としてもその鳥を保護しているという事らしいが。
「ここがその崖か、ここを進むのはきつそうというか」
「鳥の巣は上の方にあるみたいですね」
「なら進ンでいくしかないね、行くよ」
そのまま鳥の巣のあるところへと向かっていく。
道はほぼないような断崖絶壁を足元に気をつけて進んでいく。
大嵐が来ているという事もあり、足元はさらに悪くなっているようだ。
「この先なのかな、その鳥の巣があるのって」
「はい、ここの上みたいですね」
そのまま足元の悪い岩場を進んで鳥の巣に辿り着く。
鳥の巣は今のところは無事のようである。
鳥の巣が作られていたのはちょうど風を遮る岩場の陰だった。
とりあえずそれを確認した上で報告に戻る。
「確かに報告完了です、ではこちらは報酬になります」
「ありがとうございます、あと一つお尋ねしたいのですが」
「あの鳥の巣の鳥って珍しい鳥なのかな?」
「ああ、冒険者なのでご存知なかったですか、あの鳥はこの国で保護してるものなんです」
「保護ですか?それも国策でとは」
クランの受付の人曰く、あの鳥の巣の鳥はこの国が国策で保護しているという。
絶滅寸前の鳥であり、今は少しではあるが数も増えてきているとか。
なお鳥の巣は珍味としても有名で、それを狙う人達もいるらしい。
尤も鳥が巣を作るのは険しい崖が多いらしく、簡単には取りに行けないとか。
そんな珍味の鳥の巣を求めて崖に近づき、足を踏み外して下に落下して亡くなる人もいる。
そういうものらしいので、嵐の日にこの依頼が来たのも納得である。
「あの鳥の巣を狙う人達はたくさんいるんですが、実際に持ち帰れた人は少ないですから」
「それだけ危険な場所にあったのは確認してるし、まあ納得かも」
「鳥の巣は珍味としても有名なんですよ、それを狙う貴族などからの依頼も来るんです」
「つまりツバメの巣みたいな感じなのかな」
「まあ鳥は国策で保護されてるのもあって、依頼が届いた時点でお断りなんですけどね」
珍味を求める貴族などから依頼が届く事はあるが、当然お断りらしい。
鳥そのものを殺したりはしないが、それでも依頼は断るという。
それだけ珍しい鳥であり、鳥を殺さなくても巣を求める美食家などが他国からも来るとか。
「教えてくれてありがとうございます」
「いえ、あの鳥の事を理解していただけるのなら幸いです」
「それじゃテントに帰ろうか、食材も買って帰るよ」
そのまま店で食材を買ってテントに帰る。
大嵐で船は出せないので、魚などは鮮度の落ちたものしか並んでいない。
それでも魚などを買って帰る事にした。
「ただいま、食材とかも買ってきたからご飯にしようか」
「おかえりなさい、こっちは特に異常はなしですよ」
そのまま調理を済ませ簡単な食事を作る。
花春が作ったのはエビドリアだった、海産物が比較的安く手に入るからこそ作れるもの。
テントのキッチン設備にはオーブンなどもついている。
なのでグラタンなんかも作れるらしい。
「ふぅ、海沿いの国だけあって海産物が美味しいね」
「鮮度は少し落ちていますが、それでも美味しいものですね」
「そうだな、やはり海産物はいいものだ」
「花山ってお酒も飲むンだ、それも日本酒?」
「日本酒…とは?和酒の事ではないのでは?」
花山は服装などからも分かるように、東方の国の出身だ。
なので海産物には馴染みがある。
あと酒も嗜むようで、日本酒というか和酒が好きな様子。
日本という名前の国はないので、東方の国の酒は和酒というらしい。
「お酒って美味しいのかな?」
「私達は未成年なので、お酒の美味しさはよく分かりませんね」
「まあ大人になれば少しは分かるさ、酒を美味しく感じられたら大人になった証拠だぞ」
「ええ、私は葡萄酒が主ですが、花山さんの和酒も美味しいと思いますわよ」
「お酒の美味しさはまだ分かりそうにないなぁ」
そんな嵐の日は数日続いたという。
嵐が過ぎ去ってからはそのまま首都へ向けて出発した。
首都まではこの街から徒歩で数時間かかる距離だ。
海沿いの国の気候は変わりやすいという事なのだろう。




