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ハイペリオン戦記  作者: 松本 ゆうき
第9章 北方の支配者
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第66話 エルフェンへの侵攻

 カミラ・ローゼンハイムは総統官邸へと呼び出され、執務室へ通された。

 そこには難しい表情をしているクラウス・ヴェルマーだけがいた。


「ローゼンハイム、我がブロデア帝国はロマノヴァ連邦との不可侵条約を結んだ」

 彼女にとって、その決定はさほど驚くものではなかった。双方とも今は争いたくない、という利害が一致している。

「とは言え、ロマノヴァ連邦がいつまでも黙っているとは思えない」

「同感です、閣下」

「だが、当面は東の驚異は去った。あとは西だけだ」

 西、つまりハイペリオンがブロデアの驚異となった。

「エルフェン共和国に侵攻する」

 ついに来た。カミラは内心そう思っていた。やっと復讐するチャンスを与えられたのだ。

「第一機甲師団には、すぐにでも侵攻してほしい。部隊を動かせるか?」

「はい、閣下。20騎のメックを配備しております。ヴリル・エネルギーの補充と補給物資の手配を含め、5日以内に全騎稼働できます」

「他の部隊からも手配をさせる。3日で準備しろ」

 カミラは踵を鳴らした。少し部下たちを働かせすぎてしまうかもしれないが、仕方がないだろう。戦争には適切な時期というものがある。準備に時間を掛けすぎて、機を逃してしまうかもしれない。

「今回は勝てそうか、ローゼンハイム」

「勝ちます……必ず!」

 勝つのではない。勝たなければならないのだ。ヴェルマーは、2度も無様に敗走した将を労わるような寛大な心は持っていない。次、失敗すれば爵位を剥奪、もしくは殺される可能性だってある。

 秘めた復讐心が、胸の中で炎のように燃え上がっているようであった。


 第一機甲師団では、カミラの命令が発せられると突然慌ただしくなった。

 他の隊からも次々に物資が運ばれてきて、さまざまな音が響いてくる。ヴリル・エネルギーを補給する音や食料の入っている木箱を積む音に混じって、兵士たちの声が聞こえてきた。

 彼らの声は、張りのある声であった。ようやく活躍できる、と嬉しそうに準備に取り掛かる。まるで子供が近所の山に冒険に出かけるようでもある。

 カミラは執務室へアルベルト・ベルグを呼び出した。

「お呼びでしょうか、ローゼンベルグ卿」

 やってきたベルグは、1年前とは見違えるほどたくましく見えた。フォルネの戦い後も新型メックで戦場へ出ており、数々の武勲を上げている。そんな経験と実力が自信となっているのかもしれない。

「3日後の7月15日、エルフェン共和国への侵攻を開始する」

 カミラがそう告げると、ベルグは拳を握り締めた。

「いよいよ、侵攻するのですね」

 彼もフォルネの敗走を屈辱に思っており、幾度も再侵攻を進言してきた。

「そこで、卿に部隊の1つを指揮してもらいたい」

「わ、私にですか?」

「不満か?」

「いえ、そういうわけではありませんが……私でいいのでしょうか?」

 ベルグは驚きと不安の入り混じった表情で聞いた。

 そう思うのも無理はないだろう。彼の爵位は依然として子爵のままであり、デュナミスの爵位としては低い。場合によっては、伯爵以上を指揮することになるかもしれない。

「私は卿の爵位は見ていない。実力と実績、その両面を見て卿が最適だと判断した」

 爵位など飾りに過ぎない、とカミラは思っているが、実際のところ爵位による差別意識のようなものは確かにある。

「部隊に誰を配属するかはこれから決めるが、誰であろうと卿の部下になる。伯爵だろうと侯爵だろうと、卿が命令して操れ」

「分かりました……」

「……何か不安か?」

「勝てるでしょうか……ハイペリオンに」

 カミラは一年前の戦いを思い返して、一瞬言葉に詰まった。

 ハイペリオンは強かった。互いにメックを大破したものの、圧倒的に相手は強い。例えあと10回戦ったとしても、おそらく勝てないだろう。

「勝つ。ブロデア帝国は大陸での勢力を東西へと拡大させてきたが、ここでエルフェン共和国を叩いておかなければならない。放っておけば、いずれ我が国を脅かす勢力になる」

 そんなカミラの声を聞いても、ベルグの表情は暗い。

「心配するな。1年前のようにはならない」

 そう言って、ベルグに作戦を聞かせた。すると、彼の表情はみるみる生気を取り戻していく。

「なるほど、それなら勝てるかもしれません」

「これは戦争だ。勝ち方は1つではない」

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