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ハイペリオン戦記  作者: 松本 ゆうき
第9章 北方の支配者
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第67話 紅茶会議

 ブロデア帝国での動きは、すぐさまエルフェン共和国へと伝えられた。

 レオポルト・アウグストがレニの元へと集まると、ゲルハルト・ヴァイスザッハを含め、複数の軍人が揃っていた。

 応接室は、ただならぬ空気に満ちていた。

「さて、アウグスト卿も到着しましたな」

 口火を切ったのは、ジェナーロ・リブロー伯爵である。まだ20代と若いが、将来を有望視されているデュナミスの1人である。

「皆さんもご存じだと思いますが、ブロデア帝国の侵攻が間近に迫っております」

「その情報は確かなのか?」

 レオは問うた。

 これまでもブロデアで動きがあるたびに警戒をして、空振りに終わっていた。

「今回は確実でしょう。大量のヴリル・エネルギーが第一機甲師団に運搬されているだけでなく、食糧といった物資も運び込まれています」

「しかし、それは今までにもあっただろう?」

「もちろん、物資の移動だけならこれまでにもありましたが、数日前にクラウス・ヴェルマーの元をアレクサンドラ・ロマノヴァが訪れています。おそらく何らかの話し合いがあり、それが今回の侵攻に結びついたと考えられます」

「同盟でも結んだか?」

「そこまでは情報がありませんが、東の驚異がなくなったから、ブロデアがエルフェンに攻め込もうとしたのだと考えられます」

 エルフェン共和国としても、ロマノヴァ連邦の動きは気になっていた。ロマノヴァとブロデアが対立してくれれば、しばらくは安全だろうとも思っていた。

 もし、両者が結託したのであれば、エルフェンは危ない。

「この場合は、最悪の事態を考えましょう」

 同席していたレニが言う。

「仮にエルフェン共和国に攻め込んでくるとして、相手の戦力はどの程度が予想されますか?」

 すでに調べはついているのか、リブローは考え込むことなく答える。

「物資の流れから察するに、第一機甲師団に配備されている20騎が動き出します。指揮官はカミラ・ローゼンハイムで間違いないでしょう」

「ならば、今度の戦いに我々は敗北しますね」

 その場にいた軍人たちが、17歳の女王の言葉を聞いてざわついた。

「しかし、レニ様は過去にローゼンハイム卿を撃退しています!」

「確かに不利ではありますが、勝機はあります!」

「耐えて持久戦に持ち込むのです!」

 そんな言葉が軍人たちから出てくる。

「いいえ、勝てません」

 レニは強い口調で反論した。

「1年前のフォルネの戦いでは、グレートアロン王国からの援軍があったからこそ、なんとかなったのです。援軍の10騎すべてを失って、第3世代のメックを破壊したに過ぎません。

 それに、現在のエルフェン共和国には第3世代メックが実戦配備されていません。こちらでかろうじて稼働しているの第3世代のメックは3騎のみ。そのうち、整備もまともにできていないクイーン・ハイペリオンでは、今回の戦いは勝ち抜けないでしょう。

 そして、ローゼンハイム卿に勝つことができたのは、相手が私の能力を知らなかったために、その隙を突いただけです。同じ手に2度引っかかるほど、ローゼンハイム卿は愚かではありません」

 結局、エルフェンはレニに頼らざるを得ないのだ。


 フローラたちが紅茶を運んできたので、一旦会議は中断となった。

 熱い紅茶が緊張を解してくれるかと期待したが、渇いた喉をほどよく潤しただけだった。

 再開した会議で、最初に発言したのはレオであった。

「今のエルフェン共和国の戦力では、ブロデア帝国には勝てません」

 もはや、彼の意見に反対する者はいない。

「そこで、私はブロデアと戦うことを提案いたします」

「お待ちいただきたい、アウグスト卿!」

 真っ先に鋭い声を上げたのはリブローであった。

「あなたは今、ブロデアには勝てないと言ったばかりだ!」

「そう、確かに言いました。もちろん、勝てるなどとは思っていません。すべてはレニ様を安全に逃げていただくための時間稼ぎのための戦闘です」

「待って、レオ!」椅子から立ち上がってレニは叫んだが、咳払いを1つして「待ちなさい、アウグスト卿」と言い直した。

「私も戦います」

「いいえ、戦わせるわけにはいきません。ブロデアはレニ様が戦場に出たとなれば、全力を持ってメックを割いてくるでしょう。いくらクイーン・ハイペリオンと言えども、現状では補給もままならないのですから、戦闘などとてもできません」

「しかし、それでは……!」

「我々デュナミスの代わりなど、いくらでもいます。ですが、ハイペリオンの一族に代わりはいません」

「でも、このままではエルフェンは……!」

「ブロデアに占領されます。国民は、苦しい生活を強いられるでしょうが、命は助かるかもしれません」

「デュナミスはどうなるのです?」

 頭を掻いて、レオは答える。

「まあ、なんとかなるでしょう。各地にはレジスタンスが結成されているようなので、彼らの協力を得て一旦地下に潜るなり逃げるなり、どうとでもできます」

 レオは同室の軍人たちを1人1人見回す。

「エルフェン共和国を何日か延命させるためだけに、レニ様に命を差し出せ、という意見があるなら、この場で申してください。私の提案に賛成の方は、このまま沈黙を」

 声を上げる者はいなかった。


 会議の終わり、もう1度紅茶が振舞われた。

 後の歴史において「紅茶会議」と呼ばれる話し合いが終わった。

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