閑話・テウ
ルティウス・ウェルドリッジ。この名前を持つ人が自分の他に2人いると知ったのは物心ついて間もない頃。
ウェルドリッジ伯爵家ではある時からオレンジの髪、赤茶の瞳の男子が生まれるとルティウスと名づけることに決まっていた。
それが俺の大好きなアイスクリームの発明者、ウェルドリッジの秘密の聖女と呼ばれる女性の予言によって定められたのは今から100年以上前の事だという。
彼女の予言の書は門外不出の我が家の家宝なのだが、一部謎の言語(暗号かもしれない)で書かれた部分があって全ては解読されていないそうだ。
そして今までにオレンジの髪、赤茶の瞳の男子は2人生まれ、俺が3人目だ。
予言の中にはオレンジの髪、赤茶の瞳のルティウス・ウェルドリッジが学園に現れたドラゴンを退治する事、そのためには2人の協力者との信頼の絆が必要である事、そのうちの1人が女性である事も書かれていた。
そして家格が合わなくても、その女性とルティウスの真実の愛を引き裂いてはならないとも書かれていた。
初めてこの話を聞いた時は俺はいつかドラゴンを倒せるような男になるんだと思ってワクワクした。
だが今までの2人のルティウスはドラゴンと出会うことなくその一生を終えていると知った時、一気にその話を信じられなくなっていた。
父上もそんな夢みたいな話信じて俺に期待するのは止めて欲しかった。
もうそんな名前つけるのやめれば良かったのにとまで思ってた、フィーと出会うまで。
嵐による川の増水が危険なレベルになっているからと土の魔法を使える俺と風の魔法がつかえるセイが派遣された時、川の水を街の外へと逃がすための水路を作るために発動した土魔法。
けれどそれだけでは勢いの増した川の水は流れを変えてくれなくて、セイの起こす風でもその流れは変わらずで、川べりの大木で流れをせき止め水の進行方向を変えようとセイが作戦を変えたのを流石だと思ってた。でもそれには他の誰かの魔法の支援があったと、そしてその当人が俺より年下の少女だったと聞いた時、ああいたんだと思った。
そして初めて顔を合わせた時の堂々とした受け答えにやっぱり彼女なんだと思ってた。
平民の女の子の知り合いなんていないから、どういうのが普通なのかはわからないけど、それでもやっぱりフィーは普通じゃないんじゃないかと感じる。
例えば初めて彼女に我が家の特別なお客様にしか提供しないアフォガードを出した時も、凄く嬉しそうに美味しそうに食べてたけど、まったく驚いた様子がなかった。今までアイスクリームの上にかかった黒い液体におっかなびっくりする人しか見たことがなかったのに。この国ではコーヒー自体が珍しく南方の国から取り寄せて飲んだことがある人でさえ珍しいのに、それをアイスクリームにかけるなんて目にした事があるとは思えない彼女の様子にこちらがびっくりした。
普段の彼女はすごく大人びてるかと思えば子供っぽく拗ねたり、用心深いかと思うと妙に無防備だったり目が離せない。たった2週間でも同じ家に寝起きし毎日一緒に訓練したり食事したりお茶したりしている間にどんどん彼女に惹かれていくのは止められない。
彼女と一緒ならドラゴンも倒せそうだし、きっとその時はセイも一緒なんじゃないかと思った。
でもフィーは俺のアプローチにもセイのそれにも頷いてはくれなくてなんでなんだろうと思ってた。
そして彼女の結論、うちでも侯爵家でもなく講師の元へ通いで教えを乞いたいと言われた時、彼女には珍しく少し怯えた様子に、期待に押しつぶされそうだった自分の事を思い出した。
ドラゴンと戦う事に怯えていると言ったけれど、むしろドラゴンが現れなくてガッカリされる事にこそ怯えてるんではと。そんな事でがっかりしたりしないって伝えないと、そう思ったけどそれはこんな沢山人がいる場ではなくこっそり彼女だけに伝えたい。
結局フィーをこんなところで逃がすつもりがないのは皆同様で、セイの提案によるお試し期間の延長が決まり一旦は家に帰すことになった。
たった数日の事がとても待ち遠しいと思いつつ今日は笑顔で送り出すよ。
次回会う日が楽しみだな、フィー。
次のupまでは少し時間を頂くかもしれません。




