ダイヤモンド
4章 ダイヤモンド
連休明けの朝。
自室のカーテンの隙間から差し込む光の中で、私は制服の袖にゆっくりと腕を通した。
これまでは気にも留めなかったシワが、昨夜はどうしても許せなかった。
慣れないアイロン掛けだったけれどいつもの制服よりも、ほんの少しだけパリッとしている気がする。
姿見の前に立ち、ひとつ結びにした自分の姿は相変わらずの「ジミ子」。
けれど、パーカーのポケットの中で、爪が手のひらに食い込むほど強く握りしめた、あの休日の街角での記憶だけは、今も体温を伴って鮮やかに焼き付いている。
凛とした男装めいた出で立ち。
どこか儚げでありながらも、洗練された輪郭。
そして、人混みの中から私を見つけてくれた時の、春の陽射しみたいな柔らかい笑顔と、ふわりと香ったフローラルの甘い匂い。
教室の隅でたたずむ透明人間だった私のモノクロな世界を、彼女はかくもあっさりと彩った。
チョウチンアンコウのオスの話を「愛って感じもするね」と笑ってくれた彼女。
いっそあの深海魚のように、服の上からでもかまわないから彼女の身に噛みついてしまいたい。
皮膚も血管も吸収されて、一つに溶け合ってしまいたい。
そんな恐ろしいほどの熱と重たい執着が、自分の奥底で静かに渦巻いているのを、もう否定できない。
だからこそ、私は鏡の中の少しだけシワの伸びた自分に向かって、強く言い聞かせるように息を吐き出した。
この熱くて息苦しい感情は、絶対に誰にも言わず、私だけの秘密にする。
彼女の綺麗な世界に、生きている次元の違う私が自分勝手に想いを寄せることなんて、いえ影を重ねてしまうような真似すら許されない。
万が一にも、あの優しい笑顔を曇らせたり、気まずい思いをさせて迷惑をかけることだけは、絶対に避けなければならない。
【4.5章】
あ、佐倉さんだと気がついた。
駅中はあんなに騒がしくて人が大勢だったのに、あの人だけが音の無い、透き通った、凪いだ空気を纏っているみたいに見えたから……ふしぎよね。
ちょっとだけ冒険してみた男の子みたいな服。
ほんとは「変に思われないかな」って少し恥ずかしかったんだけど、佐倉さんは少し驚いたあと、あのまっすぐで綺麗な目で「すっごく、かっこいいよ」って言ってくれたんだよね。
思い出すと、今でもなんだかちょっとだけ、胸の奥がくすぐったい。
佐倉さんって、いつも一人で難しそうな参考書を開いてるから、最初は自分とは違う世界にいる大人びた人なんだなって思ってた。
でも、好きなものを語る無邪気さや、言葉を選びながら一生懸命話してくれるところとか、知れば知るほど、もっといろんなお話を聞いてみたくなる、すごく魅力的な人だなぁって思う。
今まで私の周りにはいなかったタイプの、不思議な女の子。
クラスは違うけれど、せっかく図書委員で同じ当番になれたんだから、この出会いは大切にしたい。
やっと知り合えた、特別なお友達なのだから。
読んでくれてありがとう。うれしいです。
当初、本作の挿絵はすべて「植物」にする予定でした。自分の文章力をイラストで補おうと思ったら、AI(Gemini画伯)が思いのほかいい仕事をしてくれまして……(笑)。
ただ、今回だけはどうしても画伯のご機嫌が斜めで、私のイメージ通りのイラストにならなかったため、当初の予定通り植物のイラストを採用しています。
でも、二人の内面を深く描いた今回のエピソードに限って言えば、かえってこれが「最適解」だったかもしれません。




