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第7章 黒き王

セレナ・ノルティアは三日間ほとんど寝ていなかった。


研究室の机には本が山のように積まれている。


開きっぱなしの資料。


書き殴られたメモ。


冷めた紅茶。


王立魔術学院の教授たちも呆れるほどの集中力だった。


だが本人はそんなことを気にしていない。


彼女の意識は目の前の石版だけに向いていた。


「あと少し……。」


黒い石版に刻まれた文字。


それは現在使われている文字とはまるで違う。


だが完全に読めないわけではなかった。


古代文字。


神代文字。


禁書庫に眠る資料。


それらを照らし合わせることで少しずつ意味が見えてきていた。


セレナは震える手で新しい紙を広げる。


そして解読できた部分を書き写していく。


『北方の地にて封印する』


『王の眠りを守れ』


『決して扉を開くな』


『黒き王が目覚める時――』


そこで文字は途切れていた。


セレナは息を呑む。


まただ。


また黒き王。


最近見つかった資料には必ずその名前が出てくる。


まるで世界そのものがその存在を隠しているかのように。


「黒き王って、一体何なの……。」


誰も答えてはくれなかった。


その頃。


アレンは王都の城壁の上に立っていた。


眼下には賑わう街並みが広がっている。


市場には人が増えた。


鉄鉱脈の発見によって商人も集まり始めている。


以前なら考えられない光景だった。


「少しずつ変わっているな。」


思わず呟く。


まだ小さな変化だ。


だが確かに前へ進んでいる。


そんな時だった。


騎士が慌てて駆け寄ってくる。


「殿下!」


「どうした?」


「北方鉱山で事故が発生しました!」


アレンの表情が変わる。


「被害は?」


「幸い死者はいません。しかし……。」


騎士は言葉を濁した。


「妙なものを見たという者が続出しています。」


「妙なもの?」


「黒い人影です。」


アレンは眉をひそめる。


その話は初めてではなかった。


ここ最近。


鉱山周辺で奇妙な証言が増えている。


夜中に誰かが立っていた。


誰もいない場所から声が聞こえた。


地下から唸り声のような音がする。


どれも信憑性に欠ける話ばかりだった。


だが。


石版が見つかってから増え始めている。


偶然とは思えなかった。


「調査隊を編成しよう。」


アレンはそう決断した。


その様子を俺は見守っていた。


国家画面には相変わらず見慣れない表示が浮かんでいる。


『???』


進行率 5%


昨日は4%だった。


確実に増えている。


しかも増加速度が少しずつ上がっている気がする。


嫌な予感しかしない。


俺は国家全域を見渡す。


王都。


開拓村。


鉱山。


どこも表面上は平和だった。


しかし北方だけが違う。


何かが動いている。


そんな感覚が消えない。


その日の夜。


北方鉱山の地下。


採掘現場のさらに奥。


人が入っていない空洞が存在していた。


岩盤の隙間。


その奥に広がる巨大な地下空間。


古代遺跡だった。


誰もまだ辿り着いていない。


いや。


辿り着けない。


入口そのものが封印されているからだ。


だが。


封印の表面には新しい亀裂が増えていた。


一本。


二本。


三本。


ゆっくりと。


確実に。


その向こう側から黒い霧が漏れ出している。


そして。


暗闇の中で何かが動いた。


人の形をしている。


だが人ではない。


巨大な影。


閉じた瞳。


眠り続ける存在。


その口元がわずかに動く。


「……アル……テリア……。」


声とも呼べない声だった。


数百年。


いや。


千年以上続いた眠り。


その眠りが終わりへ向かっている。


翌朝。


セレナは研究室で机に突っ伏していた。


徹夜の限界だった。


その時、一枚の古文書が床へ落ちる。


拾い上げようとして視線を向ける。


そこで彼女は固まった。


古文書の端。


小さな挿絵。


そこに描かれていたのは王冠を被った人影だった。


その下には古代文字。


まだ完全には読めない。


しかし一部だけ理解できた。


『黒き王』


そして。


『国家を喰らう者』


セレナの背筋に冷たいものが走る。


国家を喰らう。


その言葉の意味は分からない。


だが本能が警告していた。


これは知らなくてはいけないことだと。


そして同時に。


知ってはいけないことなのかもしれないと。


アルテリア王国滅亡まで――あと1748日。

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