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第6章 眠れる遺跡

北方で発見された鉄鉱脈の知らせは、王都中を駆け巡った。


市場では商人たちが新たな商機に胸を躍らせ、鍛冶屋たちは久しぶりに明るい表情を見せる。


ここ数年、アルテリア王国に流れていた重苦しい空気が少しだけ和らいでいた。


王城でも同じだった。


アレンは執務室で報告書を読みながら小さく息を吐く。


鉄鉱脈の発見。


北部開拓村の復興。


汚職役人の摘発。


少しずつだが、国は前へ進んでいる。


もちろん問題は山積みだ。


だが以前のような絶望感はない。


「まだやれる。」


そう思えるだけで十分だった。


だが机の隅には、もう一つの報告書が置かれている。


北方鉱山で発見された黒い石版。


それだけはアレンの胸に引っかかっていた。


鉄鉱脈の発見は喜ばしい。


しかしあの石版だけは異質だった。


見ているだけで不安になる。


まるで触れてはいけない何かのように。


結局、石版は王立魔術学院へ送られることになった。


そしてその知らせを聞いた瞬間、学院中を走り回った少女がいた。


セレナ・ノルティアである。


「本当に古代の石版なんですか!?」


「落ち着け。」


老教授が呆れたように言う。


「まだ何も分かっておらん。」


「だから調べるんです!」


セレナは石版が運び込まれる前から興奮していた。


学院でも変わり者として有名だったが、未知の知識が絡むとさらに手が付けられなくなる。


数日後。


研究室へ運び込まれた石版を見た瞬間、セレナの目は輝いた。


黒い石でできた長方形の石版。


表面には見慣れない文字。


そして中央に刻まれた黒い紋章。


彼女は思わず息を呑んだ。


「綺麗……。」


普通なら不気味だと感じるだろう。


しかしセレナにとっては違う。


未知の知識の塊だった。


その日から研究室の灯りは深夜まで消えなくなった。


机の上には大量の本が積み上げられる。


古代史。


神話。


魔術理論。


失われた文明。


考えられる資料を片っ端から読み漁った。


しかし成果は出ない。


三日目。


四日目。


五日目。


それでも分からない。


「絶対どこかで見たんだけどな……。」


椅子にもたれながら天井を見上げる。


疲れた目を擦り、もう一度本棚へ向かった。


その時だった。


一冊の古い本が目に入る。


学院の誰も手に取らないような埃だらけの本だった。


セレナは何気なくそれを開く。


そして。


動きが止まった。


そこには同じ紋章が描かれていた。


黒い円。


中心に刻まれた奇妙な模様。


石版と全く同じだった。


「見つけた……!」


慌ててページをめくる。


だが本は酷く傷んでいた。


文字の多くは読めない。


それでも断片的な文章だけは残っている。


封印。


北方。


眠り。


黒き王。


その四つの単語を読んだ瞬間、背筋が冷たくなった。


黒き王。


聞いたことのない名前だ。


だが不思議だった。


まるで昔から知っていたような感覚がある。


セレナは急いで内容を書き写した。


何か大きな発見をした気がしていた。


その頃、俺も国家画面を眺めていた。


鉄鉱脈の発見以降、国の数値は着実に改善している。


国家安定度も上昇していた。


住民たちの不満も減っている。


順調だ。


本来なら喜ぶべき状況だった。


しかし気になるものが一つある。


国家画面の端。


そこに見慣れない表示が浮かんでいた。


『???』


進行率 3%


何度確認しても詳細は表示されない。


触れても反応しない。


ただ数字だけが存在している。


そして気付く。


昨日は2%だった。


今日は3%になっている。


つまり増えている。


理由は分からない。


だが嫌な予感だけはした。


国家になってから何度も感じてきた感覚だ。


数字の裏には必ず意味がある。


その日の夜。


北方鉱山では採掘作業が続いていた。


作業員たちは簡易宿舎で眠りにつき、周囲は静寂に包まれている。


月明かりだけが鉱山を照らしていた。


その時だった。


一人の作業員が目を覚ます。


妙な音が聞こえた気がした。


最初は夢だと思った。


だが違う。


確かに聞こえる。


ゴゴゴ……。


地面の奥から響く低い音。


まるで巨大な岩が動いているようだった。


作業員は外へ出る。


夜風が冷たい。


周囲を見回す。


異常はない。


だが鉱山の入口付近で足が止まった。


誰かいる。


黒い影が立っていた。


人影のように見える。


しかし顔が分からない。


「おい!」


声をかける。


返事はない。


影は微動だにしない。


作業員が近づこうとした瞬間。


ふっと消えた。


まるで最初から存在しなかったかのように。


「なんだよ……。」


背筋に寒気が走る。


疲れているだけだ。


そう自分に言い聞かせ、宿舎へ戻っていった。


だがその地下深く。


誰も知らない遺跡では。


黒い石の扉に小さな亀裂が入っていた。


ほんの僅か。


人が気付くこともないほど小さな傷。


しかしその向こうからは、長い眠りの中にいた何かの気配が漏れ始めていた。


王都ではセレナが眠ることも忘れて研究を続けている。


アレンは国の未来を考えながら執務に励んでいる。


リリアは畑を耕し続けている。


誰もまだ知らない。


彼らが歩んでいる未来の先に、世界そのものを揺るがす災厄が待っていることを。


アルテリア王国滅亡まで――あと1761日。

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