第4章 王都の腐敗
北部開拓村での襲撃事件から一か月。
王都では、その出来事はすでに過去の話になりつつあった。
市場には人々の声が戻り、酒場では冒険者たちが騒ぎ、貴族たちは相変わらず豪華な晩餐会を開いている。
しかし、その賑わいの裏で、アルテリア王国は静かに弱っていた。
俺は国家として王都全体を見渡していた。
すると、一つの違和感が目に入る。
国家管理画面に表示される数字。
税収。
食糧備蓄。
流通量。
人口。
それらを見比べるうちに、ある事実に気付いた。
「おかしい……。」
王都へ送られている穀物の量と、実際に記録されている量が一致していない。
数字が合わないのだ。
しかも誤差では済まされない。
何度確認しても同じ結果だった。
「誰かが抜いている。」
そう結論づけるしかなかった。
国家画面をさらに拡大する。
穀物倉庫。
帳簿。
輸送記録。
それらを追っていくと、一つの名前に辿り着く。
ベルトラム・ハインズ。
王都穀物管理局の責任者。
男は昼間こそ真面目な官僚を演じていたが、夜になると別の顔を見せていた。
倉庫から穀物を抜き取り、商人へ横流しする。
その利益は貴族たちへ流れる。
そして貴族は口を閉ざす。
見事な癒着だった。
「なるほどな……。」
俺は思わず呆れる。
国が貧しい理由の一つはこれだった。
その頃、王城ではアレンが机に向かっていた。
目の前には大量の報告書。
北部開拓村の被害報告。
今年の収穫予測。
財政資料。
どれも暗い内容ばかりだった。
「……酷いな。」
思わず漏れる。
収穫量は年々減少。
税収も減少。
兵士の装備は不足。
それなのに貴族の支出だけは増えている。
違和感はあった。
だが証拠がない。
そんな時だった。
突然、部屋の空気が変わる。
静寂。
そして。
あの声が聞こえた。
「倉庫を見よ。」
アレンは勢いよく立ち上がる。
「また……!」
誰もいない。
しかし間違いない。
あの夜、自分を北へ導いた声だった。
「倉庫を見ろ……?」
アレンは迷った。
だが前回、この声は村を救った。
ならば今回も。
何か理由があるのかもしれない。
翌日。
アレンは護衛を連れて王都の中央倉庫へ向かった。
突然の視察に役人たちは慌てる。
「お、王子殿下!?」
「なぜこちらへ……」
「少し確認したいことがある。」
アレンは淡々と答える。
倉庫内へ入る。
積み上げられた穀物袋。
一見すると問題はない。
だがアレンは違和感を覚えた。
報告書に記載されている量より明らかに少ない。
「帳簿を見せろ。」
役人の顔色が変わる。
その変化をアレンは見逃さなかった。
調査はその日のうちに始まった。
そして数日後。
不正は発覚する。
消えた穀物。
偽造された記録。
横流しされた税。
関与した役人十六名。
貴族三名。
アルテリア王国では数年ぶりとなる大規模な汚職事件だった。
王都中が騒然となる。
市場では人々が噂した。
「本当に王子殿下が暴いたらしいぞ。」
「北の村を救った時といい、最近すごいな。」
「もしかして名君になるんじゃないか?」
アレン本人は複雑だった。
賞賛されるたびに思う。
自分一人の力ではない。
あの声が導いてくれたからだ。
その日の夜。
アレンは王城の庭園を歩いていた。
月明かりが石畳を照らしている。
誰もいない庭園。
そこでふと足を止めた。
「いるんだろう。」
静かな声だった。
「誰なのかは分からない。」
「神なのか、精霊なのか、それとも俺の妄想なのか。」
苦笑する。
「だが、聞こえている。」
風が吹く。
木々が揺れる。
返事はない。
しかしアレンは続けた。
「ありがとう。」
その言葉を聞いて、俺は少しだけ驚いた。
国家になってから初めてだった。
誰かに感謝されたのは。
不思議な気分だった。
だが同時に、国家画面に変化が現れる。
信仰値 8
↓
15
「増えた……?」
どうやら人々の信頼や感謝も信仰値に影響するらしい。
新しい発見だった。
その時だった。
国家画面に通知が現れる。
【重要人物を確認】
セレナ・ノルティア
王立魔術学院
古代文字適性を確認
俺は目を止める。
セレナ。
第1章で見かけた魔術師の少女。
画面を開く。
すると彼女は学院の図書館で本を読んでいた。
山のような書物に囲まれながら。
そして机の上には、一枚の紙が置かれている。
そこには見覚えのある紋章が描かれていた。
ゴブリンが首から下げていたものと同じ紋章。
セレナは小さく呟く。
「この紋章……どこかで見たことがある。」
俺は思わず画面へ身を乗り出した。
その紋章を知る者がいる。
それはつまり。
古代反応。
黒い紋章。
ゴブリン襲撃。
全てが繋がる可能性を意味していた。
王都の腐敗は暴かれた。
だがそれは問題の解決ではない。
むしろ。
もっと大きな闇への入口だった。
アルテリア王国滅亡まで――あと1793日。




