第2章 最初の神託
朝日が王都を照らしていた。
しかし、アレン・フォン・アルテリアは昨夜から一睡もできていなかった。
窓辺に立ちながら、何度もあの声を思い出していた。
「北へ向かえ」
たった一言。
それだけだった。
男とも女ともわからない声。
優しいようでいて、逆らえない不思議な響き。
夢だったのかもしれない。
そう思おうとしても、心の奥では違うと感じていた。
「殿下。」
扉を叩く音が響く。
騎士の一人が慌てた様子で部屋へ飛び込んできた。
「どうした?」
「北部開拓村より緊急伝令です!」
アレンの表情が変わる。
「内容は?」
「ゴブリンの大群が出現。村への接近を確認したとのことです!」
その瞬間。
昨夜の言葉が頭をよぎった。
北へ向かえ
アレンは無意識に拳を握った。
「……そんな馬鹿な。」
偶然か。
それとも。
王城の会議室では慌ただしく報告が行われていた。
国王ローレン。
宰相エドワード。
数名の貴族たち。
そしてアレン。
「北部開拓村ですと?」
太った貴族が鼻で笑う。
「辺境の小村でしょう。」
「ゴブリン程度で騒ぎすぎですな。」
別の貴族も続く。
「兵を派遣する余裕などありません。」
「王都周辺の警備を優先すべきです。」
アレンは思わず立ち上がった。
「村人たちを見捨てろと言うのですか!」
貴族たちは顔をしかめる。
「殿下はお若い。」
「感情で政治をしてはなりませんぞ。」
アレンの拳が震えた。
確かに国には余裕がない。
だが、それでも。
「私は行きます。」
会議室が静まり返る。
「殿下!?」
アレンは真っ直ぐ国王を見る。
「少数でも構いません。」
「救援隊を率いて北へ向かいます。」
ローレン王はしばらく沈黙した。
やがて小さく頷く。
「好きにするがよい。」
貴族たちは不満そうだった。
しかしアレンは構わなかった。
その頃。
北部開拓村。
リリア・クロフトは畑で作業をしていた。
風が吹いている。
だが妙だった。
鳥の鳴き声が聞こえない。
「……?」
森を見る。
いつもなら小鳥が飛び回っている。
しかし今日は異様に静かだった。
村の犬たちも落ち着かない。
唸り声を上げている。
「お母さん。」
「なに?」
「なんだか森がおかしい。」
母親は苦笑した。
「考えすぎだよ。」
そう言われても違和感は消えない。
リリアは森の奥を見つめる。
その時だった。
胸の奥が熱くなった。
一瞬だけ。
誰かの声が聞こえた気がした。
森を見るな
リリアは思わず後ろへ下がる。
「え……?」
しかし次の瞬間には何も聞こえなくなっていた。
その頃。
俺は国全体を見渡していた。
北部開拓村。
アレン率いる騎士隊。
王都。
全てが見える。
だが手は出せない。
「頼む……。」
国家になった。
だが剣を振るえない。
村人を抱えて逃げることもできない。
結局。
俺にできるのは見守ることだけだった。
夕刻。
森の奥。
赤い目が光る。
ゴブリン。
一匹。
二匹。
三匹。
いや違う。
数十匹。
群れだった。
ゴブリンたちは異様だった。
隊列を組んでいる。
統率が取れている。
普通ではあり得ない。
先頭には大柄な個体。
片目に傷を持つゴブリン。
そして首には奇妙な紋章が下がっていた。
まるで誰かに率いられているように。
村の見張りが悲鳴を上げる。
「魔物だああああ!!」
鐘が鳴り響く。
村中が混乱した。
悲鳴。
泣き声。
怒号。
ゴブリンたちは村へ雪崩れ込む。
「きゃあああ!」
家屋が壊される。
火が上がる。
リリアは必死に逃げていた。
「お母さん!」
母親とはぐれた。
恐怖で足が震える。
背後からゴブリンが迫る。
「いや……。」
転ぶ。
立てない。
ゴブリンが棍棒を振り上げた。
その時だった。
「突撃!!」
馬の蹄の音が響く。
騎士たちが村へ飛び込んできた。
先頭を走るのはアレン。
剣が閃く。
ゴブリンの首が飛ぶ。
「村人を守れ!」
騎士たちが次々と戦線を押し上げる。
リリアは呆然と見上げた。
夕日に照らされた青年。
銀の鎧。
真っ直ぐな瞳。
まるで物語の英雄だった。
アレンはリリアへ手を差し伸べる。
「立てるか?」
リリアは震えながら頷いた。
「は、はい……。」
その小さな出会いが。
後にアルテリア王国の歴史を大きく変えることになる。
戦闘終了は夜になってからだった。
ゴブリンの群れは壊滅。
村は守られた。
だが犠牲は出た。
死者 二名
負傷者 二十一名
完全には救えなかった。
俺は国家画面を見る。
人口
3842
↓
3840
胸が重くなる。
数字ではない。
確かに誰かの人生が失われた。
しかし。
画面が変化する。
国家安定度
23%
↓
25%
国家信仰値
0
↓
18
俺は目を見開いた。
「信仰値……?」
そしてアレンが戦場跡を調べていた時だった。
「これは……。」
倒れたゴブリンの首に奇妙な紋章がある。
騎士が首を傾げる。
「見たことがありませんな。」
アレンも知らなかった。
だがその紋章は。
数百年前に滅んだはずの存在と繋がる印だった。
誰もまだ知らない。
この小さな襲撃が。
やがて世界の運命へ繋がる最初の事件だったことを。
そして俺は気付かなかった。
国家画面の片隅に。
新たな通知が現れていたことに。
【信仰値が一定値に到達しました】
【加護付与機能 解放】
アルテリア王国。
滅亡まで――
あと1824日。




