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銃撃士は相棒を選べない―最強美少女たちがパーティーを組もうと迫ってくる件について―  作者: アレセイア
第三章

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第39話

 翌朝、キャンプを引き払った一行は再びゴウル鉱山道へと向かう。

 そして――彼らは薄暗い地下へと足を踏み入れていた。


「なるほど、廃坑か。考えたな、カグヤ」


 押し包むような闇に包まれた洞窟。明らかに人為的に彫られた穴を、レオンたちは先頭切って進んでいた。光り輝く杖を掲げるカグヤはこくりと頷く。


「鉱山道ですから、掘り尽くした坑道がいくつかあると思いました」


 そのカグヤの進言を受け、騎士団は方針を変更。鉱山を真っ直ぐ探すのではなく、鉱山道の周辺を探し、坑道や洞窟を虱潰しに探索。結果、この廃坑を見つけたのだ。


(ここなら霊脈が走っていて、探索魔術を掻い潜れるな)


 それに当然ながらここに隠れていれば、獣の気配が伝わってこない。冒険者たちの目を搔い潜って隠れ潜むにはもってこいの場所だ。


「まぁ、これは不本意ながら、昨日の姉の言葉で着想を得たわけですが」

「……冗談のつもりだけど、本当に敵が地中から湧いていたのねぇ……」


 その言葉を口にしたシュリはびっくりしたように廃坑を見渡している。そして、鼻をすんすんと動かし、剣呑に眼差しを鋭くさせる。


「……獣の匂いがするわね」

「ああ、十分すぎるくらいだ。それに、痕跡もたっぷりだ」


 足元に視線を落とす。そこにはくっきりと獣の足跡や毛が残されている。踏み荒らされ過ぎて、中型や大型の区別がつかない。それくらいに往来があるということだ。

 それに、そもそも坑道は廃止された後、入り口を爆破して埋め立てられる。それなのに、中を複数の魔獣が行き来した痕跡がある、となれば――。


「カグヤの予感は的中、というわけだ」

「外れなくて良かったです」


 カグヤはほっとしたように笑みを見せる。シュリはつまらなさそうに鼻を鳴らしたが、何も言わずに前を見つめながら告げる。


「いずれにせよ、この中に元凶がいる、と考えた方が筋ね」

「ああ、警戒は怠らないようにしよう……明らかに、ヤバそうだからな」


 魔獣が統率を取れているだけでなく、使われなくなった廃坑まで利用して、組織立った動きを為している。これは奇妙を通り越して不審だ。

 それを理解しているのか、先頭を歩くレオンたちのすぐ後ろに騎士たちが控えている。各個撃破を警戒して、陣形を小さく固めているのだ。

 ふと、杖をかざしていたカグヤが視線を上げる。杖の方向をわずかに変えてつぶやく。


「……奥に、気配があります」

「そうか。規模と距離は?」

「規模は分かりません。例によって霊脈で身を隠しています。距離は……あと、三百歩、というところでしょうか」

「分かった……警戒しよう」


 レオンは振り返ると、後ろについている騎士と頷き合う。ぴり、と空気が引き締まり、各々が心の準備をする。騎士すらも緊張した面持ちで唾を呑み込む。

 カグヤの灯りが辺りを照らしているが、少し先の光が届かないところは、完全な闇だ。その漆黒の中に、もしかしたら魔獣が潜んでいるかもしれない。

 それを意識するだけで、レオンたちの足取りは少し鈍くなる――。


 傍で歩く、二人の姉妹を除いて。


「何が出ても怖気つかないでくださいよ。姉さま」

「それはこっちの台詞よ。おもらししても知らないからね」

「……十二歳までおねしょしていた人に言われたくないです」

「ば……っ、あ、貴女こそいまだに方向音痴で街の中でも迷うじゃない!」

「そ、そんなことはないですっ! 杖があれば迷いませんから!」


 声を控えているが、通常運転でケンカしている二人の足取りは軽い。必要以上に闇を恐れていない。かといって油断しているわけではないのは、シュリの目配りやカグヤの魔術から伝わってくる。

 自然とレオンは緊張感をほぐしながら、二人に並んで歩くことができる。

 廃坑の通路は、いつの間にかゆるやかな登り坂になっている。どれくらいの間、歩いていたか、時間の感覚も忘れつつある。

 ふと、シュリとカグヤが同時に口をつぐんだ。カグヤが素早く手を挙げ、シュリが目を細めながら先を見通す。


「……この先で、空洞音が微かに聞こえるわね」

「……不審な霊脈の乱れを感じます」


 二人の声にレオンは眉を寄せながら振り返る。騎士と視線を合わせると、彼は仲間の騎士と目配せしてから軽く頷いた。


「強行偵察を行おう。レオン殿たちには引き続き、前衛を頼む。一撃離脱を前提に考える。離脱時は、我々が殿軍を引き受けよう」

「分かりました――シュリ、カグヤ、頼んだぞ」


 分かりやすい指示でこちらも対応がしやすい。シュリとカグヤに視線を向けると、二人はしっかりと頷く。さすがに敵を前に反目はしない。

 自然とシュリが一歩前に。その斜め横にレオンが立つ。二人の影に隠れるようにカグヤが杖を構える。すでに板についてきた体勢。


「……この陣形にも、大分慣れてきたな」

「ええ、気に入らないけど」

「はい、不本意ですけどね」


 二人は憎まれ口を叩きながらも、剣呑さは感じられない。少し前までは同じ場所でいるだけで許せない、という雰囲気だったのに。


(もしかしたら、この依頼をこなせば二人も円満になれるかな)


 そんな淡い期待を抱きつつ、レオンはホルスターの銃を引き抜き、安全装置を外す。両手でしっかりと銃把(グリップ)を保持し、油断なく洞窟を進んでいく。

 やがて、廃坑の先が一気に拓ける。その空間に足を踏み入れると、三人は足を止めた。シュリは感覚で、カグヤは魔術で、レオンは痕跡で感じ取る。


「……いるわね。動かないでいるけど。微かな息遣いが聞こえる」

「かなり数もいます」

「それにでかいぞ……この体臭に、糞の跡……」


 ここが正念場。三人は微かに頷き合う。シュリとレオンが構えを取ると、カグヤは杖を振りかざして鋭く声を放つ。


「光よ、我が手に集い、希望の煌めきとなれ――ラー・ラィウム!」


 詠唱に応じて魔法陣が水晶から放たれる光。流星が空に昇るように、煌めきが宙を駆けて天井付近でぱっと光を放つ。

 その灯りで照らし出された光景に、思わず三人は目を見開いた。

 まず、目に入ったのは巨岩。そして、それを取り囲むように魔獣たちがいた。

 シャドウウルフ、ブラッドクロウなどの中型の魔獣はもちろん、グランド・ベアやジャイアント・オーガなどの大型の魔獣まで――。

 数多くの魔獣がその空間にひしめき合っている。


(――いや、その程度なら予想はしていた。だが……)


 その魔獣たちが、全て伏せている体勢であるのだ。その異様な光景の中心にある巨岩。その上には――信じたがたいことに、一人の男が座っている。

 浅黒い肌をした青年。それが薄闇の中で口角を吊り上げたのが分かった。


「へぇ、ここを見つけ出すなんて随分、優秀な冒険者たちだな」


 その声にレオンたちは一瞬目配せをし合う。それだけで意志を疎通させると、レオンが代表して、巨岩に座る青年に声を返す。


「お前がこの魔獣たちを率いている者か?」

「ああ、いかにも」


 青年は軽い口調で認めながら巨岩の上で足を組んで手を挙げる。その手の中が微かに光った瞬間、シャドウウルフたちが一斉にのっそりと腰を上げる。


(あの掌の光……あれは)


 レオンが眉を寄せると、青年は巨岩に手を下ろしながら軽い口調で続ける。


「俺たちが見つかるのはもう少し後だと思ったが、思いのほか優秀だな。お前ら」

「そりゃどうも。それで? あんたは何者? それで何のためにここに?」


 今度はシュリが言葉を投げかけるが、青年はにやりと笑って答えない。その代わりに答えを放ったのは、カグヤだった。


「……決まり切っています。貴方、魔人でしょう」

「はは、やはり優秀だな! お前ら!」


 高らかな笑い声を上げ、青年は手を叩く。その悪気を感じさせない仕草を見やりながら、シュリがレオンに身を寄せながら、困惑を滲ませた声で訊ねる。


「レオン、その……魔人、ってなに……?」

「魔獣は、獣が魔力の影響を受けて変質したもの、というのはシュリも知っているよな? 要するにそれの人間版だよ」


 人間は、魔術という形で魔力を御することができる。また理性によって本能の暴走を抑え込める種族だ。だが、中にはその魔力の誘惑を抑え込めないものがいる。


「魔力で思考と肉体を汚染され、本能のまま生きる存在だ。だが、魔獣と違って人間の知性を備えているってことだ」

「なるほど? 何を企んでいるかは知らないけど……とんでもないことをやりそうね」

「ああ、間違いない」


 動揺が収まり、今はおかげで冷静に状況を見ることができる。

 あれだけの多種族の魔獣が連携し、足並みを揃えて襲ってきたのは、背後に魔神がいたからだ。統率を取り、一斉に襲うことができる。

 それがこんなところに引きこもり、何かを画策している。


(それに、俺の予想通りなら、こいつは……)


「いいねぇ、いいねぇ、お前ら……」


 まだ高笑いをこぼしている青年の視線がこちらに向く。舐めるような視線に肌に怖気が走る。何か企んでいるような忍び笑いと共に、彼は手を挙げる。


「生きて捕らえてやるよ――いい素材になりそうだからよ」


 その言葉を怪訝に思う暇はなかった。その手が光った瞬間、不意に巨岩がぐらりと動いた。闇の中で巨岩が徐々に大きく――。


「ま、さか……っ!」

「……っ、しくじりました、あれは……!」


(気づくのが遅れた……!)


 シュリは表情を引きつらせ、カグヤも顔を真っ青にさせる。

 レオンも一瞬で感じ取った。あれは巨岩なんかじゃない。魔獣だ。それもとんでもない化け物だ。その漆黒の闇から生えるように足を突き出す。

 ずん、とそれが足を踏みしめた瞬間、ばり、と音を立ててその地面に刻まれていた魔法陣が砕け散る。隠蔽されていた気配が、一気にレオンたちに押し寄せる。

 不気味な紫色の鱗に覆われた前足が、地面を掴む。

 反り返った爪が、岩を容易く砕く。

 闇から解き放たれたのは、ぎらつく瞳。おぞましいほど凶悪な顔が、牙を剥き出しにして唸り声を轟かせる。


 漆黒の中から、その竜は姿を現していた。

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