第28話
「――くしゅっ」
「おい、おい――随分、可愛いくしゃみだな。誰か噂したのか?」
「いい噂ではなさそうだな」
そこはアレスタの鍛冶屋。いつものように、レオンはアレスタに魔導銃のメンテナンスをしてもらっていた。むさくるしい顔つきのアレスタは上機嫌そうに銃身を掃除しながら、軽い口調で続ける。
「もしかしたら、あの二人から噂されているかもしれないぞ? 結局お前さん、あの二人の娘っ子と一緒に仕事したんだろう?」
「まぁ、二人とも成り行きだったけどな」
「んで、どうだったんだ? どちらか選ぶ気になったのか」
「ん、どうかな」
レオンは背もたれに身体を預けながら、深く吐息をこぼし視線を宙に向ける。
カグヤの依頼を終えたのは、つい昨日のことだ。温泉で二人は刃を交え合ったが、さすがに命の危機を感じたレオンが必死に二人を説得。
渋々ながら二人は刃を納め、三人で温泉を後にした。
その後もシュリとカグヤが喧嘩を始めないように、レオンが仲裁をしつつアシュタル村を後にする。道中のケルドの森では、魔獣よりも同行者二名の方が怖かったくらいだ。
「……やっぱり、二人を相棒にするのは怖いな。俺の寿命が縮む」
「はは、苦労するな。しかし、なんであの二人はレオンをそんなに相棒にしたがるものかね?」
アレスタは首を傾げながら、スプリングの調子を確かめる。レオンは苦笑いを浮かべながら解説を加える。
「ギルドには『パーティー制度』というものがあるんだ」
「パーティー制度?」
「ああ、これは元々、ギルドが戦力の管理のために作った制度なんだ。一人一人の戦力を把握するよりも、このパーティーはどれくらいの戦力、と把握した方がギルドも依頼を割り振りやすいし、事務処理が楽になる」
だからこそ、ギルドはパーティーを組むことを推奨している。
ソロで活動するより、パーティーで行動した方が生存率も上がるので、冒険者としてもメリットは大きい。パーティーでしか引き受けられない依頼もあるくらいだ。
もちろん、その依頼は危険が伴うが、報酬の額も弾む。
「だから俺とパーティーを組めば、依頼を引き受ける幅も増える。それを狙っているんじゃないかな?」
「……まぁ、それだけじゃない気もするがなぁ」
「ま、確かに」
レオンはため息をこぼし、ぼんやりと天井を見上げる。
二人がレオンを相棒にしようとしているのは、互いをライバル視しているのも理由の一つだろう。この制度は事実上、組んだ相手を独占することができるのだから。
仮にシュリとパーティーを組んだ場合、レオンは必然的に彼女が引き受ける依頼を優先することになる。レオンが依頼を引き受ける際も、シュリと相談の上で決めるだろう。
となれば、カグヤの依頼を引き受けることは、ほぼなくなる。その逆も然りだ。
レオンとパーティーを組む、ということはすなわち、彼と半永久的に依頼をし続けることになり、逆に組めなければ彼の依頼をすることはできなくなってしまう。
(……ままならないものだな)
レオンはぼっとしてきた頭を振り、ため息をこぼした。
「まぁ、まだあの子たちと出会って一か月も経っておらんだろう? もう少し仕事をしてから決めてもいいとは思うがね」
そう苦笑いをこぼしながら、アレスタはごとりとカウンターに魔導銃を置く。ぴかぴかに磨かれた魔導銃――それを見やり、レオンは腰を上げる。
「ありがと。アレスタ」
「いいってことよ。それと、弾だな。まだ値上がりはしていねえから、定価でいいぜ」
「了解。助かるよ」
ゴウル鉱山道の一件はまだ解決していないようだ。銃弾の価格が値上がりするのは、時間の問題かもしれない。
レオンは金を支払い、銃と弾を引き取りながら訊ねる。
「アレスタ、もう一件頼みたいことがあるけどいいか?」
「お? 構わねえが、なんだ?」
「また素材加工を頼みたいんだ」
そう告げながらレオンは荷物から大きめの木箱を取り出し、カウンターに置く。蓋を開けてみせると、アレスタは髭面一杯に困惑を見せた。
「こ、れは……なんだ? 殻か?」
「ああ、魔獣の殻だ」
この前のアシュタル村の一件で撃退した巨大ザリガニ。その殻だ。
カグヤが凍らせたものを、レオンは一部砕いて持ってきたのだ。もちろん、カグヤやアシュタル村のみんなに許可を取り、全員が快く頷いてくれた。
「しかしまぁ、大層なものだな……どれどれ」
アレスタは手を伸ばし、その殻の破片を摘まみ上げる。それを指先で確かめ、ふむ、と一つ頷くといくつかの工具を取り出した。
表面を金槌で叩き、鑢で少しだけ削り、虫眼鏡で表面を眺める。
しばらくアレスタはそれを鑑定し続けていたが、やがて深いため息をこぼした。
「……こんな素材、見たことねえな……」
「そうなのか?」
「ああ……敢えて近い素材を上げるとするなら、鉄だ」
「て、つ? 生き物なのに?」
「ああ、そうだ……どういう育ち方をすればどうなるんだ? 自然界では発生しないような魔獣だろうな……突然変異種でも狩ったのか?」
「よく分からないが、その可能性が高いみたいだ」
「そうか。ま、貴重な素材なのは確かだな」
アレスタはそう言いながら木箱を見やり、苦笑いをレオンに向けてくる。
「よくこんな貴重なものを見つけてくる。何とか加工してやるよ。まだユニコーンの毛も全然、仕上がっていないがな」
「そっちもよろしく頼む。アレスタ」
「おうよ、任せとけ。レオン」
レオンとアレスタは軽く笑い合い、拳をぶつけ合った。




