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銃撃士は相棒を選べない―最強美少女たちがパーティーを組もうと迫ってくる件について―  作者: アレセイア
第二章

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第26話

 その晩のアシュタル村は、大きく賑わっていた。

 村の中央広場に、机やら食事やらを並べ、祭りさながらの光景が繰り広げられる――それもそのはず、彼らは大きな脅威から救われたのだから。


(――まさか、こんな風に労ってもらえるとはな)


 主賓の席に祭り立てられているレオンは思わず苦笑をこぼした。

 あのザリガニを退治した後、村への道を急いでいると、慌ててこちらに向かっていた村人たちと鉢合わせになった。どうやら、あのザリガニの地鳴りは村まで来ていたらしい。

 そこで彼らはギルドに緊急救援を送りつつ、様子を見に来てくれたのだ。

 レオンとカグヤは事情を説明。そして道を引き返し、凍った魔獣を見せると、彼らは絶句した後に平身低頭、礼を述べ始めたのである。


『なんとお礼を言ったらいいのか……!』

『お二人が来ていただいて幸運でした……!』

『これは村を挙げて感謝の宴を開かねば!』


 その言葉に村長も賛同し、あれよあれよという間に、アシュタル村では祭りが開かれていたのである。周りでは村の人々が賞賛の言葉を口にする。


「いや、あんな魔獣をたった二人で討ち取ったなんて信じられねえよ」

「本当ね。こんな化け物がいたなんて……!」


 村人たちの視線の先にあるのは、広場の中心――そこには巨大な魔獣の鋏がある。小屋と同じくらいのサイズには村人たちも視線が外せないようだ。

 そして、レオンとカグヤの方に賞賛の視線を向け、酒や食事を大いに出される。


(こういうのは、なんだか慣れないな……)


 注目を集めているのは、なんだかむずがゆい。レオンは落ち着かない気分で酒を口にしていると、隣に座ったカグヤが声をかけてくる。


「そんな難しい顔をして、どうしたんですか? レオンさん」

「いや、こんな称賛初めてだからさ」

「ふふ、よかったですね。レオンさん。これからアシュタル村に来るたびに、英雄みたいな扱いをしていただけますよ」

「それはカグヤもだけどな」


 言い返しながらレオンは目の前の食事に箸を伸ばす。それはほとんどがザリガニ料理だ。というのも、仕留めたザリガニが料理されているのだ。

 見た目はいかついが、実際に食べてみると意外に濃厚な味わいで悪くない。


(というか、よく捌けたな――)


 あんな殻に包まれているというのに、よく中の肉を刳り出せたというか。

 思わず感心しながら食べ進めていると、ふとカグヤはそのカニ肉を咀嚼してから、軽く首を傾げて告げる。


「しかし、不思議な魔獣でしたね」

「ああ、あんな魔獣、見たことなかったな」


 その言葉に思い出す。あの小屋ほどの大きさのカニの魔獣。ケルドの森どころか、レオン自身どこでも見覚えのない魔獣だった。

 村長や村人たちにも確認したが、この近くの森はもちろん、泉でも見たことがなかったらしい。それだけに彼らも不思議がりながら、ザリガニ肉に舌鼓を打っている。


「……ちなみに、カグヤの考えは?」

「一番納得するのは、突然変異、という仮説でしょうか。泉に棲息していた魔獣が何らかの変異を遂げ、巨大化したという仮説ですが……」

「泉自体は何の変哲もなかった、よな」

「はい、それが妙な点です。詳しく調査したわけではないので、分かりませんが」


 彼女は山菜を摘まみ上げ、小さな口の中に収める。しばらく咀嚼しながら彼女はザリガニの鋏をじっと見つめ、やがて口を開いた。


「あと考えられる可能性としては――他所から来た、ということでしょうか」

「他所から……? でも一体、どこから……?」

「それは分かりません。ただ、そう考えるといろいろと辻褄が合うことも事実です。アシュタル村付近の魔獣が一時的に姿を消し、代わりにバウマンの街からここまでの道のりで魔獣が異様に出没した理由も」

「……あの魔獣の移動に追いやられる形で、他の魔獣の分布が変わった、か」


 レオンの言葉にカグヤは神妙な顔つきで頷いてみせた。


「調べてみる価値は大いにあると思います。何せ、同じような現象が起きている場所が他にもありますから」

「――ゴウル鉱山道、か」


 確かにそちらの異変も魔獣の異常分布だ。つまり、似たような原因で起こっている可能性としてはあり得る。もしかしたら、直接的なつながりがある可能性も捨てきれない。


「いずれにせよ、調査はまだ続けるべきだな」

「……です。戻ったらギルドに報告しましょう」


 レオンとカグヤは軽く頷き合っていると、ふと、一人の村人が酒瓶片手に足を運んできた。


「お二方、んな辛気臭い顔してどうしました? 肉がまずかったですか?」

「い、いえ、そういうことではないのですが」


 真剣な話をしていたので、少し表情が強張っていたらしい。慌ててカグヤは首を振る。はて、と村人は首を傾げていたが、ああ、と合点したように掌を拳で打つ。


「なるほど、お二人とも盃が空ですからかな。おおい、酒を持て!」

「お、英雄殿が酒をご所望か!」

「英雄じゃないですって。ただの冒険者ですよ」

「あれだけの魔獣を倒しておいて、何がただの冒険者ですか」


 カグヤの突っ込みに村中の笑い声が響き渡る。釣られて笑みをこぼしながら、レオンは目を細めて小さくつぶやく。


「……うん、今は楽しむか」

「ええ、この宴に水を差すのは無粋ですから」


 二人で視線を交わし合い、盃を軽くぶつけ合う。そのまま、軽くレオンは唇を湿らせて盃を置くが、カグヤは唇をつけたまま、くいっと飲み干してしまう。


「……カグヤ、結構イケる口?」

「お酒は嫌いではないですよ? ふふっ」


 カグヤは嬉しそうに微笑みをこぼす。酒に濡れた桃色の唇が柔らかく弧を描く。その笑みになんだかどぎまぎしてしまい、レオンは視線を逸らして酒瓶を手に取った。


「なら、ほらお代わりだ」

「ふふ、お酌してくださいな。レオンさん」

「ああ、ほら」


 酒を丁寧に注ぐと、彼女は表情をゆるませ、美味しそうに酒を口にする。

 その豊かな表情を見つめ、思わず目を細めてしまう。

 本当にカグヤは表情豊かで、かわいい女の子だ。見ているだけで楽しくなってくる。


「む? レオンさん、何見ているんですか?」

「いいや、別に何でもないさ」

「なら、お酒注いでください」


 構ってください、とばかりに腕を引き、頬を膨らませて拗ねてみせるカグヤ。なだめるようにその頭に手を載せ、髪を梳いてやる。


「あまり酒を飲み過ぎるなよ、カグヤ」

「むぅ、子ども扱いしないでください」

「なら、撫でるのをやめるか?」

「……別に、レオンさんが撫でたいなら、いいですけど」

「はいはい」


 くしゃっと髪を撫でると、ますますカグヤは目を細めて嬉しそうにする。酒の勢いもあってか、思い切った様子で身を寄せ、レオンに寄りかかってくる。

 それを優しく受け止めると、彼女はとろんとした瞳で吐息をこぼす。その頬は朱に染まっており、いい感じに酔っているようだ。


(なんというか、シュリとは性格が違いすぎるな……)


 シュリはどちらかというと気さくな女友達、という感じだが、カグヤは思わず助けたくなる妹分タイプだ。こういう性格の違いも、もしかしたら不和の原因だろうか。

 そんなことを考えていると、不意にカグヤからじとっとした目が向けられる。


「んん、今、レオンさん、誰か別の女の子のこと考えませんでしたか?」

「考えていないって。ほら、果実酒飲むか?」

「ごまかさないで下しゃい、今、視線が泳いだでしょう?」

「ろれつが回っていないぞ……ったく、水持ってこようか」

「大丈夫ですぅ――」


 そう言いかけた少女だったが、ふるっと身体を震わせ、きゅっと腕を掴む。


「うう――でも、お花畑には行ってきます」

「あ、ああ……足元に気をつけろよ?」

「はいです」


 名残惜しそうに、腕を掴んでいた指先が離れ、カグヤはふらふらと席を立つ。だが、思いのほか、しっかりとした足取りでトイレの方に行く。

 それを見届けながら、酒を口にしていると――ふと、一人の青年がこちらに近づいてくるのに気付いた。


「あの、レオンさん。こんばんは」

「楽しませてもらっていますよ。ラルゴさん。この村はいい場所ですね、本当に」

「はは、そう言っていただけるのは嬉しいですね。特にカップルの方にそう言っていただけるとは」

「いえ、自分とカグヤはそんな関係ではないですよ」


 レオンが笑いながら首を振ると、ふとラルゴが意外そうな顔をした。気づけば他の村人たちも近づき、はて、と首を傾げる。


「本当にそうなのですかな。二人の様子が気安いですので、てっきり」

「俺たちは冒険者同士です。ある程度、気安いのは信頼しているからかと」

「そうですか、いや失礼しました。カグヤさんが贈り物の相談をしてきたので、てっきりそうなのかと――」


 そう口にしたラルゴを、ばかっ、と他の村人が口を抑えにかかる。しまった、という顔をするラルゴにレオンは苦笑を一つこぼした。


「聞かなかったことにしておきます。ラルゴさん」

「あ、ありがとうございます。レオンさん」


 そう頭を下げながらもラルゴや村人たちは少し釈然としなさそうだ。彼らは少し距離を取ると、ひそひそと話し合いを始める。


「どういうことだ、二人は絶対付き合っていると思ったんだが」

「だよな。カグヤさんに至っては『レオンさん――いえ、大切な人への贈り物』とまで口走っていたんだ。カグヤさんの方がレオンさんに好意があるのは間違いない」

「二人がお似合いだと言ったら、すごく嬉しそうに笑っていたぞ。カグヤさん」

「川辺ですごく親しそうに話していたのに」

「はっ、もしかして――片想いという奴では」


(――そういうわけではないと思うがな)


 鋭い聴覚のレオンはその声が聞こえてしまっている。レオンは苦笑しながら村人たちの言葉を内心で否定する。

 恐らく、レオンを相棒にするための作戦の一つであり、そんな色めいた理由ではないはずだ。だが、村人たちは合点が行った表情でさらにひそひそ話を続ける。

 声がさらに低くなり、さすがに聞き取りづらくなる。


(ま、あまり聞き耳を立てるのも良くないか)


 レオンは意識を逸らして食事を続けていると、村人たちが話を終えたようだ、一人の村人が進み出てレオンに声を掛ける。


「そろそろいい時間ですし、レオンさん、お風呂にしませんか?」

「風呂、ですか?」

「ええ、この村にはいい温泉がありますので、一汗流してきてください」

「まあ、それはいいですけど……その前に、カグヤに一言……」

「いえ、こちらで申し上げますので、お先に行かれて下さい。ラルゴ、案内を」

「は、はい」


 あれよ、あれよという間に話がまとまっていく。確かに、汗を流していなかった。思えば、カグヤも腕に寄りかかりながら、やたらと首筋の匂いを嗅いでいた。


(やはり、女の子としても、気になるよな……落としておくか)


 レオンは席を立ち、ラルゴに従って温泉へと向かう――。


 その背後の、村人たちのしたり顔に気づかないまま。

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