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銃撃士は相棒を選べない―最強美少女たちがパーティーを組もうと迫ってくる件について―  作者: アレセイア
第二章

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第25話

 木を薙ぎ倒す音と地鳴りが少しずつ近づいてくる。

 その気配を感じながら、レオンは木々の間を音なく動き回っていた。その少し離れた位置ではカグヤが準備に勤しんでいる。

 その姿はいつになく真剣そのもの――杖だけでなく、魔石などを使い、地面や木にひたすら何かを書き込んでいる。手つきは迷いなく、顔つきは血気迫っている。

 彼女の描いた文字は魔力を帯びて淡い光を放ち、彼女の姿を幻想的に映し出す。

 その光景を邪魔させるわけにはいかない。


(さて――そろそろ始めるとするか)


 視線を正面に戻した。そこには木々をへし折りながら小川を下るように迫る魔獣の姿が見え始めていた。レオンは木の枝に手を掛けると、身軽にその上へ登っていく。

 充分な高所を確保すると、彼は深呼吸を一つしながら拳銃を構え。

 引き金(トリガー)を絞る。

 銃声が響き渡り、木々の間を銃弾が駆け抜けた。そして、それは真っ直ぐに一本の木の幹に直撃。瞬間、爆炎が巻き起こって太い木がめきめきと音を立てて倒れ始めた。

 予め、爆薬をそこに仕掛けておいたのだ。それが魔獣の進路を塞ぎ、足を止めさせる。


(わざわざ正面から戦うことはない――)


 レオンは銃撃手だ。シュリのような剣技もなければ、カグヤのような魔術もない。正面切って戦うにはあまりにも火力不足だ。

 ならば、正々堂々戦う必要はない。

 銃というアドバンテージを活かし、有利な距離を保ち、有利な状況から、一方的に叩くだけだ。そのために罠を仕掛けたのだから。

 レオンはすぐに木の枝から枝へと移動しながら引き金を引く。銃弾が当たるたびに爆音が轟き、次々と木々が倒れていく。


(さすが、アレスタの爆薬だな――)


 彼の爆薬は威力も然ることながら、指向性も高い。おかげで倒れる方向も決めやすい。倒れていく木は足を止めた魔獣の背に次々降り注いでいく。

 それを避けようと動くザリガニだが、機敏には動けない。

 瞬く間にザリガニの姿は木の中に埋もれていった。


「ザリガニも、カニの一種ってところか――」


 カニは前や横に動けても、後ろに下がるのは苦手だ。ザリガニも恐らく同じだったのだろう。一つ安堵の息をつきながら、レオンは視線を魔獣の方に向ける。

 魔獣に圧し掛かった木々は動き続けている。真下で魔獣がまだ動いている証拠だ。


(――っ!)


 突然、一本の木が弾け飛び、その下から太い鋏が真下から突き出した。その鋏が次々と木々を押しのけ、やがてザリガニの身体が倒木の中から姿を現す。

 怒りにガチガチと鋏を鳴らしながら辺りを睨みつける魔獣。

 その視線がレオンを捉える。それに応えるようにレオンは銃を構えて引き金を引いた。真っ直ぐに飛んだ銃弾は魔獣の脚に直撃――直後、そこから体液が噴き出した。

 それに苦悶の鳴き声を響かせる魔獣。レオンは目を細めながら銃を構え直す。


(やはり、弱点もカニと同じ――関節部だ)


 いくら強固な殻に覆われていたとしても、柔軟な動きをもたらす関節は殻で守り切れない。そこだけは銃弾が効いてくれる。

 レオンは後ろの木に跳んで距離を取りながら、銃の引き金(トリガー)を引き、銃弾を放ち続ける。

 狙いは脚の関節部に集中。狙いを理解したのか、ザリガニの動きは鈍くなり、脚を庇うような動きになる。だが、数打てば当たるのも道理――火花が散る中、体液が飛び散る。

 再び苦悶の声を響かせたザリガニの殺気が迸る。瞬間、ザリガニは倒木を踏み越えて進路を変え、レオンの方に向かい始めた。

 それと同時にその口が開く。ぞわり、と背筋に嫌な予感が走り、彼は木から飛び降りる。直後、その口から鋭い水が放たれた。

 轟音と共に幹や枝を撃ち抜き、木っ端を散らす。水が飛び散る中、レオンは地を蹴って駆け、急いで魔獣から距離を取る。


「オオオオオオオオオオオオオ!」


 猛然と迫る魔獣を前に、レオンは距離を取るように駆け続けながら弾倉(マガジン)を抜き替える――これが最後の弾倉(マガジン)だ。


(もう時間稼ぎはできそうにない――か……)


 それでも、と目を細めながらレオンは前を見据える。そこには杖を構える一人の少女の姿があった。決然とした眼差しを見つめ返せば、彼女は鋭く告げる。


「レオンさん、私の後ろへ――決着をつけます!」

「ああ……!」


 レオンはカグヤの傍を駆け抜け、その後ろで足を止める。彼女はちら、とレオンの方を振り返りながら微笑んだ。


「足止めだけでなく、こちらへの誘導まで――お見事です」

「それくらいはな。カグヤの方はもう準備は?」

「もちろん。術式を見直す時間すらありましたよ」


 余裕めかした口調で言いながら、彼女は視線を前に戻して深呼吸する。


「幕引きと行きましょう――術式を、起動します」


 その言葉の間にも木々をへし折る音が響き渡る。近づく殺意を前にしながらも、彼女は冷静に杖を地面に突き刺し、魔力を一気に全身から放つ。

 瞬間、彼女の金髪がふわりと舞い上がり、気迫が立ち込めていく。

 それに目を奪われていると、ふとレオンの肌にひんやりとした空気が触れることに気づく。吐息をこぼせば、息も白くなっている。

 その冷気の方向は正面――そこを見て思わず目を見開いた。

 地面や木々に描かれた魔法陣。それが眩い光を放ちながら、凄まじい冷気を放ち始めていた。そこを中心にぱきぱきと音を立て、地面も木も全てが凍てついていく。


 そして――それは侵入してきた魔獣もまた一緒だ。

 魔獣は強引に進もうとするが、その直後には地面に突き刺した脚が凍り、地面に縫い付けられる。そこから瞬く間に氷が広がり、魔獣の黒い身体を覆い始めた。


 その頃には魔法陣の内側は全て白く染まっていた。


 凍てつき、そこで動いているのはザリガニの魔獣だけ――必死に魔獣は鋏を動かし、周りの木々を打ち砕き、氷の残滓を撒き散らす。

 だが、その鋏も凍てつき始めていた。銃弾を防げた殻も冷気は防ぎきれず、徐々に体全体が凍結されていく。その中でザリガニは口を開き、水弾を放とうとし。

 直後、ぴたり、と口を開けた姿勢で凍り付いてしまった。

 氷の彫刻と化したザリガニ――それを見て、レオンは呟いた。


「――終わった、のか?」

「はい、終わりです。レオンさん」


 あまりにも呆気ない幕引きの中、振り返ったカグヤはにこりと微笑んだ。レオンは吐息をこぼして銃をホルスターに収める。


「しかし、すごい術式だな――ここから先が全て凍っている」

「私のオリジナルの術式です。拡散しがちな冷気に指向性を持たせ、この場だけに集約しました。この場に足を踏み入れれば、どんなものでも凍り付きます」

「なるほど、だからこちらには冷気が来ないのか」


 もちろん、傍に凍てついたものがあるから、ひんやりとした風が来る。だが、こちらは凍り付くほど寒くないのだ。

 まさに、絶対零度の領域――それをカグヤはものの数分で作り出したのだ。


「やっぱりすごいな。カグヤは」

「やはりすごいですね。レオンさんは」


 何気なく口にした言葉は同じ内容だった。思わず二人は視線を交わし合い、おかしくなって、二人は笑みをこぼし合う。

 そのままどちらからともなく、片手を上げた。


 ぱんっ、と手を打ち鳴らす。その感触と共に、二人は勝利の余韻を噛み締めた。

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